【動画】流される子グマを助けに走る母グマ
自分の子どもが1人、2人にとどまらず3人までも急流に押し流され、滝から落ちる光景など、どんな母親でも見たくないだろう。
だが、まさにその事態が現実に起こった。2016年8月、米アラスカ州のブルックス・ロッジ近くで、ヒグマの母親の目の前で子どもたちがおぼれかけた。最近公開された映像の中に、この出来事が収められていた。
アラスカのヒグマは水に慣れている。夏と秋の大半を冷たい川の流れに入って過ごし、産卵のために遡上してくるサケを捕まえる。(参考記事:「【動画】川で遊ぶクマを至近距離で撮影した」)
しかし、滑りやすい岩や急流に足を取られないためには練習が必要だと話すのは、カトマイ国立公園の資源管理・科学主任のトロイ・ハモン氏だ。この映像は同公園で撮影された。
「クマは生まれつき泳げるわけでも、水中で器用に動けるわけでもありません」とハモン氏。彼は、カメラに映っている子グマの年齢をわずか2歳と推測する。「そういった技能は後天的に身につけるもので、クマたちが練習している場面をよく目にします」
母グマは子グマに魚の捕り方を教える。そして、映像のように子グマが足を滑らせることも珍しくないのだろう。それでも、母グマはすぐさま子グマのところに駆けつけて安全を守った。
クマが溺死することはある?
世界各地の大自然を撮影し、中継しているサイト「Explore.org」のライブ配信カメラが記録した映像には、3頭の子グマが見える。流れにのまれるのは怖かったはずだが、およそ1.8メートルの滝を落ちた後、3頭とも無事に岸まで泳いだように見える。
米国魚類野生生物局、ハイイログマ回復対策室の野生生物学者、ウェイン・キャスワーム氏は、子グマが溺死したという報告は受けたことがないと言う。
だが、それは「起こっていない」ということではない。
「1年のうち、春はまだ子グマが小さく、川やその支流が雪解け水で増水しているため、そこを母グマが渡ろうとしたときに子グマが流されておぼれ死ぬ、ということは確実にあるでしょう」とキャスワーム氏。
ハモン氏も同意見だ。数年前、ある来園者から「公園の奥地で子グマが密猟により殺されている」と通報があった。調査のためにハモン氏が現場に駆け付けると、死んだ子グマに銃の傷跡はなく、かみ傷があるのに気付いた。外見から、別のクマによる傷と思われた。
オスのヒグマは、成獣になると子グマを殺すことが知られている。そうすることで、母グマが再び繁殖可能になるからだ。だが詳しく調べると、かみ傷は子グマが死んだ後に付けられたことがわかった。(参考記事:「【動画】衝撃、子グマを食べるホッキョクグマ」)
この子グマは、溺死した可能性があるのだろうか?
残念ながら、解剖では子グマが密猟に遭ったかどうかだけを調べたため、死因が溺死かどうかを特定することはできなかった。(参考記事:「密猟される動物たち」)
水に浮かぶ撮影機材を、カナダ、ブリティッシュコロンビア州の川に設置すると、幼いメスのハイイログマが興味津々で接近。カメラで遊ぶ様子が撮影された。(解説は英語です)
過酷な子ども時代
「襲われる前に死んでいたとわかっても、それを溺死に結びつける方法は現実にありません。しかし、それ以外の要因と結びつけることもできませんでした。いずれの可能性も、『これだ』とは言えないのです」とハモン氏は話す。
子グマは普通、生まれてから数年間は危険がとても多く、成獣になる前に死ぬことが多いとキャスワーム氏は付け加えた。例えば、発信器付きの首輪を着けた母グマの場合、ある場所では数頭の子グマを連れていたのに、次に見たときには子グマが1頭もいない、ということがよくあるという。(参考記事:「【動画】前脚を失ったクマ、二足歩行で元気」)
「子グマが消えたり、死んだと思われたりする場合でも、本当の原因がわかることはまれです」とキャスワーム氏は話した。