日産「無資格検査」を誘発した、時代遅れの国交省の認証制度

問題の本質は、実はここにあるのでは

「国内向け」だけが出荷停止の理由

日産自動車の西川廣人社長が10月19日に記者会見し、9月に無資格者が車両の最終検査をしていたことが発覚した後も無資格検査が継続して行われていたとして、お詫びした。日産は2週間近く「国内出荷」を停止する。

19日の記者会見などによると、子会社の日産車体湘南工場では発覚後も無資格者の検査が続き、国内最大の日産九州工場、栃木工場、追浜工場では、国交省に届けていた場所とは違う場所に検査行程を移して最終検査をしていたという。九州、栃木、追浜の3工場については、不祥事発覚後の初期の調査では、違う場所に移していたことに気付かず、後の社内調査で判明したため、19日に公表した。

道路車両運送法に基づいて国道交通省が定めた「通達」を日産は無視し、それが発覚した後もその通達を破っていたことになる。現行のルールでは日産の行為は到底許されるものではない。

ただ、日産の肩を持つわけではないが、こうした不祥事がなぜ起こるのか、という本質的な問題を筆者は考えたいと思う。

 

日産の出荷停止が「国内向け」であることに気付いている方はいるだろうか。不祥事が発覚した工場では輸出用の自動車も一緒に生産して、一緒に検査しているのに、無資格者が検査していても、輸出はOKなのである。その理由は単純。海外では有資格者による最終検査を求めていないからである。

そして、「通達」で定められた有資格者による検査については、有資格者に、どのような技能が求められるかは明確に定義されていない。資格は国などの公的機関が認めたものでもないし、高度なテクニックを有しているわけでもない。「能力をもった人を会社が指名する」といった程度である。

だから極論すれば、自動車の運転免許の切り替えの際に、無事故無違反の「ゴールド免許」の人が短時間の安全啓蒙映画を見て更新が済むイメージで、「資格」を与えようと思えば、短時間適当にビデオでも見せて勉強させ、「講習済」のお墨付きを企業が与えれば、それで「有資格者」になってしまうのである。

そんなにお金がかかるわけでもないのに、日産はなぜ、こんな簡単なことをやっていなかったのか不思議でならない。

日産にはコストカットのイメージが強烈に付いているので、経費削減で手抜きしたのではないかと見る読者もいるだろうが、世界の消費者に最終製品として送り出すクルマで、品質管理で手を抜いて不具合を起こせば、訴訟ラッシュでどんなしっぺ返しが来るかくらいは、グローバルで商売している日産ならよく分かっているはずだ。

それなのに、日産では無資格者が検査を続けたのはなぜか。答えは単純である。無資格者が検査しても、有資格者が検査しても、実態的には何も変わらないからである。

筆者は20年以上、自動車産業を取材、観察してきて、多くの自動車工場に訪れている。自動車工場の写真撮影はアングルなど制限があるが、この最終検査工程だけは、何の制約もなく写真OKのことが多い。「儀式」の工程であり、何のノウハウもないといっても過言ではない場所だからだ。

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