暗い色の中型犬が、カメラに向かって真っすぐ歩いてくる姿が写っていた。ここ、ペルー南東部のジャングルに作られた小さな空き地で、私たちはカメラトラップ(自動撮影カメラ)がとらえた写真を次々と見ていた。
「コミミイヌだ!」。ダニエル・コウセイロ氏が興奮気味に言った。エコツーリズム会社「レインフォレスト・エクスペディションズ」に所属する生態学者のコウセイロ氏は、普通は人間の目に付くことのない動物たちの生活を解明する仕事に取り組んでいる。
熱帯雨林で屈指の隠者たちの中でも、コミミイヌ(Atelocynus microtis)はよほど根気強い科学者でなければ出会えない。実際、アマゾンの小道を歩いていてコミミイヌを1匹でも見られる可能性は、ジャガーなど他のどんな動物よりも低い。(参考記事:「希少なコミミイヌを撮影、ペルー」)
コウセイロ氏のようにカメラトラップを使うのは、そういうわけなのだ。
2016年の数週間、彼は密林を何キロにもわたってかき分け、タンボパタ川の両岸に100台以上のカメラを格子状に設置した。設置場所は小川沿い、ヤシが茂る濁った沼地、長く鋭くとがった竹のやぶ、日陰になった空き地などで、何かが動くいたり、温度が異なるものを検知したりすると、カメラのシャッターが切られるようになっていた。(参考記事:「絶滅と考えられていた犬、半世紀ぶり見つかる」)
「ビッグ・グリッド(大きな格子)」と呼ばれるコウセイロ氏のカメラトラップ網は、ほぼ手つかずのジャングルを77平方キロ以上監視する。うまく行けば、今後5年間運用を続ける予定だ。
このシステムは2016年7月から稼働しており、すでに大量のデータを蓄積していた。そこでコウセイロ氏は同僚と共に、一般市民が科学研究に協力できるプラットフォーム「ズーニバース(Zooniverse)」に画像を投稿することにした。彼らのプロジェクト名は「アマゾンカム・タンボパタ(AmazonCam Tambopata)」だ。
プロジェクトの最終的な目標は、ジャガー、ペッカリー、クモザルなどの重要な数種が、森のどこで、どのように暮らしているのか知り、保護の効果を上げることだ。カメラトラップ網は膨大な量の写真を撮影しているため、写った動物の特定について、研究チームはオンラインの市民科学者たちを頼りにしている。(参考記事:「ペッカリーのヌタ場へ集まる野生動物」)
「動物たちがどれほど健全に保たれているかを知るには、良質かつ正確な長期間のデータが必要です」とコウセイロ氏。「どこに住んでいようと、私たちはみんなアマゾンの熱帯雨林に依存しているのです」
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