●医療最前線ドクターリポート121

歯を失うことと補うこと その2

日本大学松戸歯学部
有床義歯補綴学講座准教授

飯島 守雄先生

 

 

 

 

 

 歯を全て失うと食べた満足感はかなり低下する。人の歯は歯根の周囲にたくさんのセンサーを有しており、いわゆる歯ごたえはこのセンサーによる。しかし歯を全て失うとこの機能も同時に失われる。後ろに歯がない部分入れ歯も総入れ歯も噛む力を支えるのは粘膜で噛んだ感触も極端に鈍くなる。

失った歯の代替え

 そこでインプラントの話をしよう。インプラントは15年ほど前は乳歯、永久歯に続く第三の歯などともてはやされたが、難しい面が見えてくるとそうも行かなくなってきたのが現状である。
 インプラントはチタンとアパタイトのものが現在は主流である。形も現在は歯根タイプのものが主流でその他のものは淘汰されてきた。骨とくっつくまでの時間も4〜6カ月待てば、ほとんど問題なく使用できている。インプラント治療を受けた多くの人は歯根の感覚は戻らないながらも使えている。中には総入れ歯をつかっていたひともたくさんのインプラント治療を受けて取り外しのない状態で自分の歯のように使えている。


 

 

 

 

インプラントの注意点

 しかし、中には第三の歯どころか痛い目にあっただけの患者さんも多々いるのである。インプラントの周りが炎症を起して顎の骨まで大きく失った人やいく本かインプラントが折れてその残骸が顎の中に残っている人もいる。どうしてこのような新たな病態が生じてしまうのだろうか。ひとつには、自分の歯を失った経緯をおもい起こしてみる必要がある。自分の歯が神経も取らずにわれて抜歯したことがあったり、被せたものが簡単にとれて歯根も割れたことがあったことが記憶にあるならインプラントとてまた自分の歯の二の舞になる可能性がある。

歯を失わないようにするのが第一

 これらの原因と考えられているのが歯軋りである。歯軋りは食いしばりやゴリゴリと力の入った擦り合わせである。なぜ歯を失うような負の活動が知らずに起こってしまうのかはまだよく分からないのが現状だが、歯科医としてもこれを予測するとマウスピースを使う等の対症療法しか今はないと言っていいだろう。
いずれにしても、歯を失うということは大変なことで、自分の持って生まれた歯に代わって代役を何の問題もなく勤めてくれる人工物は存在しない。
 まず自分の歯を失わないようにするのが第一で、もし炎症を取り除くために抜歯をしなければいけない時は相当な覚悟をしていただきたい。行く先々までどのような変化が待ち受けているかを自分のまぶたの裏側に描けるところまで説明を聞いて理解していただきたい。私たちは形を変えて差し上げることしかできないのです。

 

■日本大学松戸歯学部付属病院

 TEL:047・360・9561

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