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日本で「クラウド型サービスは違法」は本当か? 福井健策弁護士に聞く「クラウド」と「著作権」(3/3ページ)

2011年5月26日

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写真:今回お話を伺った、骨董通り法律事務所の福井健策弁護士。出版社や映画会社などの顧問弁護士も務める、著作権問題の専門家拡大今回お話を伺った、骨董通り法律事務所の福井健策弁護士。出版社や映画会社などの顧問弁護士も務める、著作権問題の専門家

写真:画像1:米Amazon.comが展開しているクラウド型音楽サービス「Amazon Cloud Player」。日本でのサービス展開は未定拡大画像1:米Amazon.comが展開しているクラウド型音楽サービス「Amazon Cloud Player」。日本でのサービス展開は未定

表:表:福井健策弁護士の話を元に、クラウドサービスの抱えるリスクを判断。○は適法、×は著作権侵害のリスクが大きい、△はグレーゾーンであり、単純に権利侵害とは判断しにくい事例、という判断。実際にはグレーゾーンが広く、事例により異なる拡大表:福井健策弁護士の話を元に、クラウドサービスの抱えるリスクを判断。○は適法、×は著作権侵害のリスクが大きい、△はグレーゾーンであり、単純に権利侵害とは判断しにくい事例、という判断。実際にはグレーゾーンが広く、事例により異なる

問題は「法律」ではなく「リスクの解釈」だ

 ですが実のところ、表で○なのか△なのか、ということは、「日本でクラウド型のサービスが利用できるようになるか」ということの本質ではありません。福井弁護士も、問題はむしろ別にある、と指摘します。

「アメリカがクラウド型サービスで市場を席巻していて、日本がそうなっていない理由は、法制度以外の部分にあります。例えばグーグルはYouTubeを買収する時なども、『海賊行為が多い』『法的に問題がある』と言われました。でもやった。そのことの評価は割れるでしょうが、結果としてグーグルが大きな利益と力を得たのは事実です。グレーの領域において、法的リスクをコストと考え、その大きさを測りビジネス判断ができるか。この点が大きい。日本では、訴えられるのは『悪』でありリスクやコストではない、と見る向きが多い。リスクゼロ症候群にとらわれているのです」

 もちろん、海賊版販売のように、直接的な権利侵害は論外です。しかし、Amazon Cloud Playerのようなものは、厳密な法解釈の元では違法な部分があるのかもしれませんが、消費者に利便性を提供するという観点で見ればプラスであり、権利侵害の度合いも大きいものではありません。

 訴えられた時の訴訟費用や結果を含めても、最終的に「ビジネスの価値が大きい」と判断するならば、あえて走る、という判断だってあっていいはずなのです。福井弁護士は、次のような例を教えてくれました。

「グーグルが2006年にYouTubeを買収する際、彼らは2億ドルの訴訟対策費用を準備しました。バイアコムとの権利侵害に関する訴訟では、10億ドルの損害賠償を要求されていましたが、彼らは第一審で弁護団に1億ドルの訴訟費用を使い、完全勝利しました。今後、逆転敗訴する可能性も残ってはいますが、グーグルがYouTubeを通じて手に入れたものを考えれば、見事な戦い方だと思います」

 訴訟と並行してYouTubeは、著作権侵害を犯している映像について、著作者からの申し出があると、速やかに対処する仕組みを整えました。その結果、著作権者のYouTubeに対する印象は変わりつつあると言います。

 このような判断をする企業は、日本にはなかなかありません。

「このところ、クラウドビジネスに関する相談は確実に増えています。件数的には比較的小規模な企業の、飛び込み的な相談が多いですね。ただ、リスクの大きさを測った上で臨もう、という体制を敷いた上での相談は少ないのが実情。相談者側は言外に『法的な問題はありません』と言ってもらえることを期待しているようです。リスクを指摘するとあきらめるところがほとんどです。大手の相談も少なくありませんが、ある程度リスクの大きさを指摘すると、そこに挑戦しようとはしません」

 ビジネスにおいて、リスクとチャンスのコントロールはつきものです。ですが日本においては、特に「法的リスク」について、「一切犯してはならないもの」と判断する企業が多すぎるようです。

 福井弁護士は、権利者やユーザーなど、多様な立場の人々の前で講演や説明会を行う機会も多いのですが、その際の反応も「少しずつ変わってきた」と言います。

「『著作権を守ることが最終的なゴールである』という勘違いをしている方もまだいらっしゃいますが、意識的な方々は増えています。権利を守ることが目的ではなく、そこから利益を得るための道筋が大事。大きな戦略を持って(著作権行使の)損得を考えよう、という動きは出てきています」

 日本と諸外国、特にアメリカでは法律もその運用の形も異なります。著作権者の利益と個人の利便性、そして新しいサービスの可能性のバランスが取れる形での運用を望みたいところです。

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プロフィール

斎藤幾郎(さいとう・いくお)

1969年東京都生まれ。主に初心者向けのデジタル記事を執筆。朝日新聞土曜版beの「てくの生活入門」に寄稿する傍ら、日経BP社のウェブサイト日経PC Onlineにて「サイトーの[独断]場」を連載中。近著に「パソコンで困ったときに開く本」(朝日新聞出版)、「すごく使える!超グーグル術」(ソフトバンククリエイティブ)などがある。

西田宗千佳(にしだ・むねちか)

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは「電気かデータが流れるもの全般」。朝日新聞、アエラ(朝日新聞出版)、AV Watch(インプレス)などに寄稿。近著に「メイドインジャパンとiPad、どこが違う? 世界で勝てるデジタル家電」(朝日新書)、「iPad vs.キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)がある。

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