人同士つなぐ料理写真の投稿 共感生まれやすく
近藤正晃ジェームス・ツイッター日本法人代表
レストランで料理が出てきたら、まずは写真を撮って「ツイッター」や「フェイスブック」に投稿する人たちをよく目にする。ご自分でも食べ物の写真を撮ってインターネットで共有したご経験はないだろうか。
料理の写真を含めて、あらゆる写真をインターネットで共有できる「インスタグラム」という人気サービスがある。このインスタグラムが数週間前に使えなくなった瞬間があった。この時、どのようなことが起こったかご存じだろうか。
スマートフォン(スマホ)で撮った写真が共有できなくなったことで、その瞬間、多くのユーザーたちが何と食べることをやめたらしい。この時に寄せられたツイートを読むと「インスタグラムがダウンしているから食べるのやめる」「早くサービスが直ってくれないと料理が冷めちゃうんだけど」などという憤慨や困惑が目につく。
なぜこれだけ多くの人々が料理の写真を撮って共有するのだろうか。根底には、料理の写真をツールとして周りの人々と近くなりたい、会話を持ちたいという思いが見える。生活に欠かせない料理の写真であれば共感が生まれやすく、見た人もコメントをしやすく、会話も生まれやすい。
数日前に発表された口コミを利用したグルメサイト「食べログ」の調査によると、ソーシャルメディアを積極的に利用している人のほうが情報へのアンテナが高いらしい。彼らは情報発信するだけではなく、他のおいしい食事情報もチェックするなど積極的であり、グルメ情報の分野において一定の影響を持つとされている。
ソーシャルメディアの積極的な利用者に着目したレストランも増えている。英国のロンドンやマンチェスターに出店しているピクチャーハウスというレストランでは、料理の写真を撮り、特定のハッシュタグをつけて投稿した人の食事が無料になる。
レストランはどうやって収益を得るのかと心配になるが、これは食品メーカーの宣伝キャンペーンなのだそうだ。自社の食品を無料で提供する代わりに、その写真と感想を広げてほしい、ということらしい。米国でも、シカゴにはフォロワーが数百人を超える人に無料で料理を提供するレストランもあるそうだ。
個別のレストランを超えた試みも見られる。スペインでは、100円程度でアプリをダウンロードし、これを使って食品の写真を撮り、ソーシャルメディアにアップロードすると、この100円が食事に困っている人々への寄付となる仕組みが広まっている。
また、英国では、ツイッターと英国ホスピタリティー協会などのレストラン団体が連携してキャンペーンを展開している。英国中のレストランが、シェフ、特別な料理、サービスについてソーシャルメディアで発信し、お客さんとの距離を近づけようとする試みだ。
ソーシャルメディアがなかった時代にも、昨日の夜行ったレストランの料理の話や、旅行先で食べた食事の話は会話の中に出てきていた。ソーシャルメディアを使う人が増えたことで、翌日の出社まで待たなくても現場から情報を共有できるようになり、写真を使うことで伝えられるものが増えた。社外の人たちとも共有できるようになったことがこれまでとの違いだろうか。
ただ、場所や状況をわきまえるのは当然だ。プロではないお客さんに料理の写真を撮ってほしくないと思うレストランもあるだろう。テーブルでシャッター音をさせたりフラッシュを使ったりすれば、他のお客さんの迷惑にもなる。もちろん、一緒に食事を楽しむはずの同席者への配慮も十分に考えるべきだ。
実際に周りにいる人々にも配慮しながら、時空を超えて多くの人々とおいしい料理を共有する楽しみは、これからも広がっていくことであろう。
[日経産業新聞2014年6月5日付]