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吉田大八監督が語るCM論
田島:本日のゲストである吉田大八さんは、CMディレクターから映画監督としてデビュー。映画「桐島、部活やめるってよ」で日本アカデミー賞の最優秀作品賞と最優秀監督賞を受賞し、その次の作品「紙の月」でも優秀監督賞を受賞と、今や日本映画界の巨匠ともいえる存在です。大八さんとは、サッカーが縁でお会いしました。
吉田:そうでしたね。僕がサッカーに興味を持ったのはJリーグが始まってからで、30歳を過ぎていました。自分でも無性にサッカーをやってみたくなって、仕事先のサッカーチームに交ぜてもらっていました。でも基本ができていないから、そのうちお荷物扱いされるようになって、それで居づらくなったら、また次のチームへ移る。そんなふうにチームを転々としていた中で、出会ったんですよね。
田島:当時、僕はCMプランナーとしてマツモトキヨシを担当していました。その3本目を企画するときに、それまでの方向性とは少し変えたいなと思い、大八さんのことを思い出した。大八さんがつくった、ある保険のCMが大好きだったんです。
吉田:そのCMは自分で企画をして、自分なりにいい作品ができたという手応えはあったんです。だけど、地味だったこともあり、全く話題になりませんでした。そういうものなんだろうなと思っていたら、電通の田島さんという人が褒めていたよと聞いて、珍しい人だなと(笑)。
田島:それでマツキヨのお仕事で初めて組みました。僕が27歳で、大八さんは32歳のときでしたから、それからもう20年以上の長いお付き合いになりましたよね。今日は、僕から大八さんにいくつか質問をさせていただきます。
吉田:はい、どうぞ。
田島:最初の質問です。僕は演出コンテがディレクターから上がってくるとき、企画がどんなふうになっているかドキドキしているのですが、大八さんが演出コンテをつくるときに気を付けていることはありますか。
吉田:演出コンテをつくるときには、相手を驚かせたい、混乱させたい、そして喜ばせたいと思っています。企画コンテから予想できる演出コンテってあると思うんですけど、そういう予想通りのものを書いて、「ああ、やっぱりね。大丈夫ですよ、合格です」と言われて、しらじらしい雰囲気で打ち合わせが進むようなときはつらい。だから、できるだけ裏切りたいんです。
田島:なるほど、いい意味で裏切りたいわけですね。
吉田:そうですね、もちろん裏切りにはクオリティーが伴う必要があるので、どれくらいアイデアがジャンプしても大丈夫なのかを考えるようにしています。何かひとつ切り込んでいく糸口を見つけて、それを提示して反応が良ければ、裏切ってもそれほど問題は起こりません。演出コンテの裏切りによって目の前の人を驚かせることができれば、オンエアを見る人にも強いインパクトを与えられるという思い込みがあるんです。ですからそれを、演出コンテを考えるときの第一関門にしています。
田島:演出コンテを上げてきたときに、大八さんは黙ってみんなの顔色を見ていますよね。
吉田:みんなが本当はどう思っているのか、聞いても本心は分からないこともありますが、顔を見ているとよく分かるのです。ディレクターは誰でもそうしていると思いますよ。演出コンテを出す瞬間が一番の勝負です。
田島:CMプランナーも演出の力で企画をジャンプさせてほしいと常に思っています。ですから出来上がってきたものが予想だにしないような良いものだと、うれしくてしょうがないんです。ですから演出には、いい意味で暴れてもらいたい。一方で僕らは、暴れてもらえられるように、がっちりクライアントとの信頼関係をつくっておかないといけないと思っています。
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