メール受信設定のご確認をお願いいたします。

AdverTimes.からのメールを受信できていない場合は、
下記から受信設定の確認方法をご覧いただけます。

×
コラム

電通デザイントーク中継シリーズ

映画監督と広告人による、超アナログ的な制作の秘密「ふたりは なかよし」(前編)

share

【前回】「あなたは世界が熱狂する「eスポーツ」のポテンシャルを知っているか?【後編】」はこちら

「桐島、部活やめるってよ」「紙の月」など、続々とヒット作を生み出している映画監督の吉田大八さんと、電通の田島恵司さんは20年来の友人関係。サッカーの試合の対戦相手として出会い、その後、ディレクターとCMプランナーとしてタッグを組み、数多くのCMを生み出してきました。時代が大きく変化する中で、二人の関係はどう変わっていったのか? または、どうして変わらずにいられたのか? 映画と広告の制作の現場はどのように違うのか? このデジタル時代にアイデアをいかに創り出していったか? さまざまな仕事の現場で乗り越えてきたこと、長い関係の中で熟成された仕事術、制作術について率直に語り合います。

吉田大八監督が語るCM論

田島:本日のゲストである吉田大八さんは、CMディレクターから映画監督としてデビュー。映画「桐島、部活やめるってよ」で日本アカデミー賞の最優秀作品賞と最優秀監督賞を受賞し、その次の作品「紙の月」でも優秀監督賞を受賞と、今や日本映画界の巨匠ともいえる存在です。大八さんとは、サッカーが縁でお会いしました。

吉田大八さん

吉田:そうでしたね。僕がサッカーに興味を持ったのはJリーグが始まってからで、30歳を過ぎていました。自分でも無性にサッカーをやってみたくなって、仕事先のサッカーチームに交ぜてもらっていました。でも基本ができていないから、そのうちお荷物扱いされるようになって、それで居づらくなったら、また次のチームへ移る。そんなふうにチームを転々としていた中で、出会ったんですよね。

田島:当時、僕はCMプランナーとしてマツモトキヨシを担当していました。その3本目を企画するときに、それまでの方向性とは少し変えたいなと思い、大八さんのことを思い出した。大八さんがつくった、ある保険のCMが大好きだったんです。

吉田:そのCMは自分で企画をして、自分なりにいい作品ができたという手応えはあったんです。だけど、地味だったこともあり、全く話題になりませんでした。そういうものなんだろうなと思っていたら、電通の田島さんという人が褒めていたよと聞いて、珍しい人だなと(笑)。

田島:それでマツキヨのお仕事で初めて組みました。僕が27歳で、大八さんは32歳のときでしたから、それからもう20年以上の長いお付き合いになりましたよね。今日は、僕から大八さんにいくつか質問をさせていただきます。

吉田:はい、どうぞ。

田島恵司さん

田島:最初の質問です。僕は演出コンテがディレクターから上がってくるとき、企画がどんなふうになっているかドキドキしているのですが、大八さんが演出コンテをつくるときに気を付けていることはありますか。

吉田:演出コンテをつくるときには、相手を驚かせたい、混乱させたい、そして喜ばせたいと思っています。企画コンテから予想できる演出コンテってあると思うんですけど、そういう予想通りのものを書いて、「ああ、やっぱりね。大丈夫ですよ、合格です」と言われて、しらじらしい雰囲気で打ち合わせが進むようなときはつらい。だから、できるだけ裏切りたいんです。

田島:なるほど、いい意味で裏切りたいわけですね。

吉田:そうですね、もちろん裏切りにはクオリティーが伴う必要があるので、どれくらいアイデアがジャンプしても大丈夫なのかを考えるようにしています。何かひとつ切り込んでいく糸口を見つけて、それを提示して反応が良ければ、裏切ってもそれほど問題は起こりません。演出コンテの裏切りによって目の前の人を驚かせることができれば、オンエアを見る人にも強いインパクトを与えられるという思い込みがあるんです。ですからそれを、演出コンテを考えるときの第一関門にしています。

田島:演出コンテを上げてきたときに、大八さんは黙ってみんなの顔色を見ていますよね。

吉田:みんなが本当はどう思っているのか、聞いても本心は分からないこともありますが、顔を見ているとよく分かるのです。ディレクターは誰でもそうしていると思いますよ。演出コンテを出す瞬間が一番の勝負です。

田島:CMプランナーも演出の力で企画をジャンプさせてほしいと常に思っています。ですから出来上がってきたものが予想だにしないような良いものだと、うれしくてしょうがないんです。ですから演出には、いい意味で暴れてもらいたい。一方で僕らは、暴れてもらえられるように、がっちりクライアントとの信頼関係をつくっておかないといけないと思っています。

次ページ 「CMディレクターはサッカーでいうフォワード」へ続く