●医療最前線ドクターリポート134

上手に食べて健康に

 

 

日本大学松戸歯学部
障害者歯科学講座 教授
野本 たかと先生

 

 

 「今朝のメニューは?」、「何をどのように食べましたか?」と聞かれたらどうでしょう。忘れてしまっているのではないでしょうか。このように毎日の食事というのは何気なく行っている動作です。でも実際は人にとって食事をするということは、生きるための基本的動作であるとともに、健康の増進やQOLに直結する行為でもあります。

 

一瞬で判断する優れた能力

 私たちは普段何も意識をせずに食べ物を食べていますが、目の前にある食べ物を口の中で処理する過程はどのようなものでしょう。まず視、聴、臭、味、触といった感覚を感じ、その感覚は脳のなかで過去の記憶に助けられながら統合されます。これは、口で食べ物を上手に処理できるように迎え入れる準備をしているのです。
たとえ「ながら食事」をしても、食べこぼしたり、むせたり、舌や頬を咬んだりすることは滅多にありませんよね。無意識のうちに必ず目で見て、適切な口の大きさや安全な食べ方を一瞬のうちに判断しているからなのです。一瞬のうちにたくさんの器官や脳が複雑に関与しますが、人は少しの変化に対応できる能力も持ち合わせています。

口唇や前歯、口蓋皺壁は素晴らしいセンサー

 先日ある新聞に「今年の丑の日はナマズで」とありました。ナマズは味も香りもウナギとは全く異なります。でも、ナマズをウナギと同じ香りに、味付けも蒲焼と同じようにしたところ、多くの人がウナギを食べていると感じました。「食を味わう」とは味覚だけでなく視、臭、触など他の感覚と一緒になって脳で行われているのです。
脳が適切な運動の指令を出すのに重要な情報は、口に食べ物を取り込む瞬間にもあります。人は食べ物を口に放り込んでいるわけではなく、口唇や前歯を使って取り込んでいるのです。実はこれが非常に重要なことで、食物の硬さに応じた噛む回数や力を調節するなどの処理方法を判断するのは、口唇や前歯、口蓋皺壁などの口の前方に存在する器官なのです。


食べ物がお口の中で処理されるまで

前歯や口唇でしっかり取り込むように食べること

 最近の子供たちの食事場面を見ると、一口サイズにカットされています。小さくカットされた物は口の前方を使わずにポンと奥の方にいれてしまいます。口の中での処理方法を決めるセンサーが働きづらく、よく噛まずに丸飲みしてしまいます。
このような場合は、口の前方を使うように大きな食物を前歯でかじり取らせる、口唇を使ってしっかり取り込むようにすると良く噛むようになります。よく噛むことは食物を細かく粉砕するだけでなく、食の味をより感じたり、脳を活性化させたり良いこと尽くしなのです。

■日本大学松戸歯学部付属病院 電話 047・360・9561


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