海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

前原誠司政調会長を持ち上げる佐藤優氏の「ウチナー評論」のまやかし

2012-09-16 20:39:50 | 米軍・自衛隊・基地問題

 9月15日付琉球新報に掲載された「佐藤優のウチナー評論」で、沖縄へのオスプレイ配備をめぐり、民主党の前原誠司政調会長の動きを佐藤氏が評価して、沖縄への売り込みを行っている。参考までに同評論の全文を引用する。
 以下、引用開始。

 9日に行われた「オスプレイの配備に反対する沖縄県民大会」の結果は、東京の政治エリート(国会議員、官僚)に確実に影響を与えている。ただし、全面的に沖縄の立場を支持する政治エリートは、文字通り、1人もいない。この現実を見据えた上で、MV22オスプレイ県内配備阻止を実現するための戦術的同盟者を政治エリートの中に拡大していかなくてはならない。
 まず、県民大会の結果に最も背を向けているのが森本敏防衛相だ。13日、県民大会の実行委の代表に対して、森本防衛相は、〈「県民大会をテレビ画面で見た。私としては、普天間飛行場の固定化を回避するために努力することを知事と宜野湾市長に約束した」と述べるにとどめた〉(13日、本紙電子版)。
 森本防衛相の発言をわかりやすく解説すると「米海兵隊普天間飛行場を辺野古に移設すれば問題は解決する。MV22オスプレイを辺野古基地で展開させるならば、知事も宜野湾市長も文句はないだろう」ということだ。森本防衛相には政治主導という発想のかけらさえない。防衛官僚の利益をそのまま体現している。外務省の対沖縄強硬派も同様の認識だが、黙って様子見をしている。
 森本防衛相とは別の反応を示しているのが、民主党の前原誠司政調会長だ。11日(日本時間12日)、米国・ワシントンで前原氏はリパートと国防次官補と会談した。
 〈(前原氏は、)アメリカのリパート国防次官補と会談し、アメリカ軍の新型輸送機〈オスプレイ」について、事故が相次ぐ現状では、配備が計画されている沖縄県の理解が得られないとして、配備計画を見直すよう求めました。/国防総省で行われた会談の中で、前原政策調整会長は、沖縄県の普天間基地に配備が計画されている「オスプレイ」について、「戦略的、戦術的な重要性は理解できるが、モロッコやフロリダの事故に続き、先日は市街地に不時着する事案も起きている」と指摘しました。/そのうえで、前原氏は「安全性をしっかり確認したうえで導入しなければ、到底、沖縄県の理解は得られない。安全性が確保されるまで、計画通りに沖縄に配備することを見直すべきだ」と述べ、配備計画を見直すよう求めました。これに対して、リパート国防次官補は「懸念は理解できる。前原氏の提案は、両国の外務・防衛の担当者による『日米合同委員会』で議論したうえで、高い政治レベルでもマネージメントしていきたい』と述べました。〉(12日、NHK・NEWSWEB)。
 県民からすると意外であろうが、「安全性が確保されるまで、オスプレイの県内配備を見直すべきだ」というような前原氏の立場は、東京の政治エリートの中では少数意見だ。もっとも「オスプレイが沖縄で事故を起こせば、日米同盟の根幹を揺るがすような状況が生じる」と懸念する外務省の現実派は前原氏に近い認識を抱いている。しかし、県民大会翌日の10日に政府が尖閣諸島国有化を決定した後の尖閣問題をめぐる日中関係の緊張を背景に、森本防衛相に代表される強硬派が急速に力を増している。
 日米両国政府が計画している10月のMV22オスプレイの県内配備を阻止することが焦眉の課題だ。そのためには、マキャベリズムに訴えてでも米国の圧力や尖閣カードを弄ぶ勢力を封じ込めなくてはならない。

 以上、引用終わり。
 国会議員、官僚をわざわざ「政治エリート」と呼ぶ佐藤氏の用語法は、目にするたびに胡散臭くてならないが、佐藤氏は 〈全面的に沖縄の立場を支持する政治エリートは、文字通り、1人もいない〉と言いきっている。佐藤氏には社民党や共産党の国会議員は眼中にないようだ。というより、社民党や共産党の国会議員を無視し、読者(沖縄県民)の意識から排除するために「政治エリート」という用語を使っているのだろう。いくら東京のこととはいえ、「全面的に沖縄の立場を理解する国会議員、官僚は、文字通り、1人もいない」とは佐藤氏でも書けないはずだ。
 そうやって〈沖縄の立場を支持する政治エリート〉から社民党・共産党の国会議員を排除したうえで、佐藤氏は森本防衛大臣と前原政調会長を比較し、前原氏が〈沖縄の立場を支持〉しているかのように描き出して、二者択一的に読者(県民)を前原氏支持に誘導しようとしている。
 尖閣諸島問題を政治的に利用し、あくまでオスプレイの沖縄配備を強行しようとしている森本氏ら〈強硬派〉を批判するのはけっこうなことだ。しかし、彼らと比較して佐藤氏が持ち上げる前原氏が、はたして沖縄のことを考えて行動しているだろうか。私には佐藤氏の評論が、前原氏の実態を隠して美化する詐術にしか見えない。
 9月12日の前原氏とリパート国防次官補の会談について、佐藤氏はNHK・NEWSWEBから引用している。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120912/k10014961401000.html

 NHKの報道では前原氏のいう「配備計画を見直すべき」の中味が今一つはっきりしない。佐藤氏が評論の後半で〈10月のMV22オスプレイの県内配備を阻止することが焦眉の課題だ〉と強い表現を使っているのに引きずられ、前原氏が配備計画に反対しているかのように読んでしまう人もいるかもしれない。しかし、テレビ朝日の報道を見ると、前原氏がリパート国防次官補に求めたのは、たんなる配備時期の延期にすぎないことがはっきりする。

http://www.youtube.com/watch?v=gSIqGtl0Qxc

 沖縄へのオスプレイ配備を進めるという点で、前原氏と森本防衛相の間に違いはない。違いはわずかに時期の問題にすぎない。〈安全性の確保〉については、森本防衛相もしきりに口にしているのであり、沖縄での10月初旬本格運用という当初の予定がずれ込む、という報道もすでになされている。
 だが、沖縄県民が求めているのは、オスプレイ配備計画の撤回であり、配備そのものを止めることだ。配備時期の延期ではない。県民が求めていることと前原氏の申し入れは大きな隔たりがあり、その程度の「見直し」など沖縄からすれば目先のごまかしでしかない。
 そもそも、一見、沖縄県民に気を遣っているかのように見える前原氏の「見直し」要求は、以下の動きと関連させて見るとき、その真の狙いが浮き彫りになる。
 前原氏は8月5・6日に沖縄にやってきて、島袋吉和前市長ら辺野古「移設」容認派のメンバーと非公開の懇談をし、さらに仲井真知事とも非公式の会談を行っている。

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-195318-storytopic-53.html

 8月5日は台風で延期にならなければ、「オスプレイの配備に反対する沖縄県民大会」が開かれる予定だった。前原氏が来沖した2日後の8日には、名護市民会館で右翼グループによる辺野古「移設」推進の集会が開かれ、島袋前市長が登壇して「基地と振興策のリンク」をあからさまに語っている。

http://www.qab.co.jp/news/2012080937301.html

 政権与党の政調会長である前原氏の沖縄での動きには、9月9日の県民大会に仲井真弘多知事が参加しなかったことに影響を与えたのではないか、という疑念を抱く人も多い。

http://article.okinawatimes.co.jp/article/2012-09-08_38700

 前原氏はこれまで何度も名護の「移設」容認派と密会を重ねている。それを踏まえて考えれば、前原氏はオスプレイ配備に対する沖縄県民の反発がさらに高まり、ただでさえ難しくなっている普天間基地の辺野古「移設」が完全に不可能となってしまうことを懸念して、リパート国防次官補への「見直し」発言をやっているだけではないか。何とか県民を懐柔し、辺野古「移設」にうまくつなげられるよう、オスプレイ配備を要領よく進めようと画策する。いかにも前原氏らしいスタンドプレーとしか私には見えない。
 佐藤氏は森本防衛相の発言を〈わかりやすく解説〉している。

〈「米海兵隊普天間飛行場を辺野古に移設すれば問題は解決する。MV22オスプレイを辺野古基地で展開させるならば、知事も宜野湾市長も文句はないだろう」ということだ〉。

 それはそっくりそのまま前原氏の本音ではないのか。いや、辺野古「移設」に向けて具体的にうごめいている点において、前原氏は森本氏以上に質が悪いと言える。名護の辺野古「移設」容認派に積極的に働きかけ、辺野古利権に食い込もうとしている前原氏が、本気でオスプレイの沖縄配備に反対することなどあり得ない話だ。

 佐藤氏はまた、〈県民大会翌日の10日に政府が尖閣諸島国有化を決定した後の尖閣問題をめぐる日中関係の緊張を背景に、森本防衛相に代表される強硬派が急速に力を増している〉として、〈10月のMV22オスプレイの県内配備を阻止する〉ために〈マキャベリズムに訴えてでも米国の圧力や尖閣カードを弄ぶ勢力を封じ込めなくてはならない〉と書いている。
 佐藤氏はそれらの勢力と前原氏が異なる立場に立っていると言うのだろうか。冗談ではあるまい。〈米国の圧力〉に人一倍従順で、過去に〈尖閣カードを弄〉んで日中関係を緊張させてきた〈強硬派〉の一人が前原氏ではないか。森本氏と前原氏という対米隷従派にして対中強硬派同士のわずかな違いをあてにして、沖縄県民が東京の〈政治エリート〉の中に〈戦術的同盟者〉を求め、前原氏にオスプレイ問題で何かを期待するなら、それこそ自滅行為だろう。
 佐藤氏が前原氏の提灯持ちの役割を務め、あたかも前原氏が沖縄の味方であるかのように描き出していることに賛同して喜ぶのは、沖縄では辺野古「移設」容認派くらいだ。佐藤氏が〈マキャベリズムに訴え〉たければ、東京で前原氏と一緒に勝手にやればいい。しかし、こういう詐術に満ちた「ウチナー評論」にのせられて、前原氏を〈戦術的同盟者〉として期待することの危険性に、ウチナーンチューは注意しないといけない。

 


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