2015年12月期の決算を発表するレゴのクヌッドストープCEO
2015年12月期の決算を発表するレゴのクヌッドストープCEO

 玩具の世界大手、デンマークのレゴが快進撃を続けている。3月1日に発表した2015年12月期の決算は、売上高が前期比25%増の358億デンマーク・クローネ(約5900億円)、営業利益が同26%増の122億クローネ(約2000億円)となり、過去最高益を更新した。

 昨年出荷した新製品は350超。最新作が世界的にヒットした映画「スターウォーズ」を始め、「ニンジャゴー」「シティ」などのプレイテーマと呼ぶ製品シリーズがいずれも堅調に売れ、同社が事業展開するすべてのエリアで売上高は前期比2桁増を記録した。

 昨年稼ぎ出したキャッシュフローは100億クローネ(約1660億円)に達し、それらをテコに規模拡大とグローバル展開を加速させる。昨年、東欧にある工場の稼働率を高めたほか、2022年までに既存工場の設備を増強する。社員数は1昨年だけで2500人増えた。

 着々とグローバル化を進めているレゴだが、成長の柱とする中国を中心に、新興国経済には減速感も漂う。同社にとって影響はないのか。ヨアン・ヴィー・クヌッドストープCEO(最高経営責任者)に聞いた。

(聞き手は蛯谷 敏)

<b>ヨアン・ヴィー・クヌッドストープ氏</b><br/>1968年11月生まれ。デンマークのオーフス大学卒業。英クランフィールド大学で経営学修士を取得。米マサチューセッツ工科大学の博士号も持つ。2001年にレゴに入社する前は、米コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤めていた。2004年、35歳でレゴCEO(最高経営責任者)に就任。
ヨアン・ヴィー・クヌッドストープ氏
1968年11月生まれ。デンマークのオーフス大学卒業。英クランフィールド大学で経営学修士を取得。米マサチューセッツ工科大学の博士号も持つ。2001年にレゴに入社する前は、米コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤めていた。2004年、35歳でレゴCEO(最高経営責任者)に就任。

2015年12月期の業績が、創業以来の過去最高益を更新しました。増収増益記録も10期連続に伸びました。

クヌッドストープ:レゴにとって「Everything is Awesome(すべてが素晴らしい)」1年でした。全世界で大ヒットした映画「スターウォーズ」シリーズを始め、「ニンジャゴー」「シティ」「フレンズ」など、我々の主力とするプレイテーマの販売がいずれも好調でした。発売した新製品は350以上に達しましたが、その多くが売り上げに貢献しました。営業利益率34%は誇るべき数字だと思います。

 レゴが展開している世界の地域すべて売上高は前期比2ケタ成長となりました。キーマーケットである北米、英国、フランス、ブラジル、中国、日本で成功を収めたのも素晴らしい結果でした。

 もっとも、こうした数字はあくまでも結果であり、レゴにとって目的ではありません。いつも言っていますが、売り上げや収益は私にとっては酸素のようなものです。会社が生きていくためには最低限必要ですが、酸素を吸うために生きているわけではありません。

 それよりも、私自身が一番嬉しかったのは、レゴを手にした子供の数が、1億人に達したことです。毎年レゴでは、商品の販売数や、教育事業などの展開から、どれだけの子供にレゴが届いたかを調査しています。その数字が昨年、ついに1億の大台に乗りました。レゴを通じて子供たちに創造力と学びの機会を提供することが最大の目的ですから、私にとって、この結果はとても喜ばしいものでした。

レゴ人気が、世界的に広がっているわけですね。

クヌッドストープ:レゴへのデマンドは、世界的に高まっています。もともと市場として大きかった欧米だけでなく、南米や中国といった市場も着実に伸びています。

 こうした需要に対応するために、昨年はチェコにある製造工場の稼働率を3割引き上げました。現在建設中の中国工場も、2017年から稼働する予定です。さらに、長期的な需要に対応するために、2022年に向けてメキシコ、ハンガリー、デンマークの工場を拡張する準備も進めています。

 設備への投資だけでなく、人材への投資も増やしています。レゴは昨年だけで2500人を採用しました。その3割は、アジア拠点の人材です。今期の業績で得たキャッシュフローは100億クローネ(約1660億円)に達しますが、これらは設備と人に投資していく予定です。

昨年後半から、世界経済には停滞感が漂っています。特に成長市場として期待している中国経済の減速が顕著ですが、こうした環境変化はレゴの成長に影響を与えませんか。

クヌッドストープ:確かに、世界経済に不透明感が漂っているのは事実です。ただ、いずれの国でもレゴの需要は減っていません。中国や南米のブラジルでも、レゴは昨年後半もよく売れましたし、直近もその傾向は変わっていません。

経済減速でも子供に使うお金は減らしていない

 地域ごとの売り上げは開示していませんが、先ほどお話したすべての地域で売上高が前期比2桁増となったのは、需要の高さを裏付けていると思います。背景には、我々の中心顧客である中間所得層が、新興国で着実に増えていることがあると思います。確かに景気は悪化しているのですが、子供たちに使うお金は減らしていないということでしょう。

 レゴの収益構造は全世界の2割の地域で収益全体の8割を稼ぎ出しています。それだけ、まだ世界に成長の伸び代があるわけです。中国やそれ以外の新興国、さらにはまだ手付かずの市場に入っていくことで、この構造を変えていこうと考えています。

 現在の優先市場はアジアですが、中長期的にはアフリカや中東地域などにもビジネスが広がってくるでしょう。ですから、繰り返しになりますが、経済減速の影響は我々のビジネスについては見られません。少なくとも今のところは。

グローバル化に向け、どのように事業を拡大しているのですか。

クヌッドストープ:大きく、2つのアプローチで進めています。1つは規模やキャパシティを物理的に増やしていくこと。これは、先ほど申し上げた、設備の増強や採用の強化といったことになりますね。

 もう1つは、規模が大きくなっても継続的にイノベーションを生む組織を維持することです。こちらの方は、より難度が高い。2000年代に陥った経営危機の教訓から、継続的にイノベーションを生み出す仕組みを作ってきました(詳しくは、こちらの記事を参照)。社内にもこの仕組みは浸透し、今ではヒット作品を連続して開発できる体制は整ったと思います。

 これからの挑戦は、この体制をより規模を拡大する中でも維持していくことですね。

 そのために大切なのは、詰まるところ優秀な人材をどれだけ集められるかという点に尽きます。あるいは、現在働いている有能な人が、レゴでずっと働き続けたいと思えるような環境を用意するということでもあります。CEOである私にとって、今最も大切な仕事の1つは、そうした職場を作ることにあります。

具体的にはどのようにして作っているのですか。

クヌッドストープ:1つは、レゴという会社が社員にとって誇らしい組織であり続けることです。「自分の働く会社が誇らしいか」というのを社員に実感してもらうことは、とても大切なことです。

 では、レゴは社会に何を誇れるのか。それは、他でもない、子供たちの創造力や学びの機会を提供し続けている会社であることです。私が決算発表のプレゼンテーションで、(業績ではなく)どれだけの子供たちにレゴを届けられたかという数字から発表しているのは、私にはこれがレゴの価値を測る上でとても大切だと思っているからです。

昨年10月にはレゴ創業家の親会社が洋上風力発電プロジェクトに出資した
昨年10月にはレゴ創業家の親会社が洋上風力発電プロジェクトに出資した

クヌッドストープ:昨年10月、レゴ創業家の親会社が、30億クローネ(約500億円)かけて洋上風力発電プロジェクトに出資しました。2020年までに、レゴ全社の電力を再生可能エネルギーでまかなうためです。

風力発電や新素材開発に巨額投資する理由

 さらに、2030年までに現在のレゴブロックの素材であるプラスチックに代わる新素材を開発するプロジェクトも開始しました。専門の研究所が今年完成し、約100人の研究員が石油を使わない新しい素材の研究を始めています。このプロジェクトにも10億クローネ(約166億円)を投資します。

 決して小さくない投資をこれらの活動に充てるのは、もちろん社会のためではあるのですが、その根本には社員に対して自分の会社が社会に誇らしい会社であることを実感してもらうためでもあります。

 もちろん、手厚い福利厚生や相応の給料も有能な人材に来てもらうためには大切です。しかし、それだけでは、長くこの会社に居続けてもらうことはできません。グローバル化していくほど、「自分たちはどんな価値を世の中に提供しているか」という点は重要になります。

 これらの活動は、結果が出るまでにとても時間がかかります。すべての社員に価値を理解してもらうのも難しいでしょう。それでも経験的に、我々が絶対に必要だと考えている社員はこうした点に働きがいを見出しますし、そこに給料以上の価値を置いています。そうした中核社員が楽しく働くことで、ハロー効果のように、組織全体に風土が広がっていきます。

 売り上げや利益といった業績は、目的ではなく、あくまで結果です。これが逆転している人は、なかなかレゴでは働くのは難しい。

 短期的な業績を追わなくていいのは、上場していないからという理由もあります。しかし組織を永続させるには、優秀で創造力のある社員を惹きつける魅力が会社になくてはいけません。会社が大切にする価値と社員のそれをあわせていくことが不可欠です。

2015年に開設したシンガポールの新オフィス
2015年に開設したシンガポールの新オフィス

しかし、規模が増えるほど、そうした価値を実感してもらう機会は減り、理念や企業風土の浸透が難しくなりませんか。

女性管理職の比率は43%に上昇

クヌッドストープ:そうですね。それは純粋にチャレンジではあります。社内のソーシャル・ネットワークなどでの発信は増やしていますし、世界各国の拠点で社員と直接語り合う「タウンホールミーティング」を2倍以上に増やしました。

 もう1つ、働きがいのある魅力的な組織には、ダイバーシティが必要だとも思っています。女性管理職の比率は2010年の23%から2015年に43%に上昇しましたが、まだ足りないと思っています。

 一般には、ダイバーシティが低い組織ほど、結束力が高く、1つの目的を達成することに適しているといいます。価値観が同じだからです。一方で、何か新しい価値を生み出す場合は、やはりダイバーシティがなくては新しい気づきは生まれにくい。

 もちろん、多様性があるほど、組織や意見はまとまりにくくなるのも事実です。だからこそ、理念を浸透させ、社員が誇りを持てる会社にしていくということが大事になります。

 レゴのグローバル化はまだ道半ばです。デンマーク企業としての価値を残しながら、世界で戦える規模に体制を構築する作業は簡単ではなく、いまも試行錯誤を続けています。やるべきことは、まだまだ沢山あります。

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