2017.09.04
# アパートローン

絶対儲かるといわれたアパートローン「私はこうして破産した」

銀行員の言葉に ダマされて

「ウチでアパートを建てれば、賃料を固定で保証します」。夢のようなトークで巧みに近づいてくる不動産業者と、高額の建築費を簡単に貸し出す銀行の融資担当者。彼らは決して、我々の味方ではない。

入居者が減っていく

「お持ちの土地を活かしてみませんか。アパートを建てれば、管理と入居者募集の手間はすべてこちらでお引き受けします。さらに、契約中の30年間は一定の家賃収入を保証します」

東京から電車を乗り継ぎ約2時間の中部地方の某県。県庁所在地からさらに車を走らせること30分ほどの町。この地で長年農業を営んできたAさん(80歳)の元を、大手不動産会社B社の営業マンが訪れたのは、いまから十数年前のことだった。

その頃、Aさんはちょうど老後のお金の算段を思案していた時期だった。

営業マンが持参した資料には、一般のアパートの家賃はこの先年々下がる一方だが、この会社の「サブリース契約」でアパートを建てれば30年後も家賃収入は下がらないとするグラフがでかでかと印刷されていた。

サブリースとは、「転貸借」つまり家主が不動産業者に建物を賃貸し、不動産業者はその部屋をさらに第三者にあたる入居者に貸し出す、不動産業者は賃料を家主に支払うという契約形態のことだ。一般に「30年一括借り上げ」といった長期契約を売り文句にしている。

「セールストークも魅力的で、いまから思えば都合のいい話ばかりでした。この地域には企業の工場が多いのですが、それらの工場労働者や転勤者にも需要があって、部屋は常に埋まると言われた。

専門家が資料を見せながらはっきりと『損することはありません』と断言するのだから、大丈夫なのだろうと思うようになっていきました」(Aさん)

アパートの建築費は約9000万円。ほぼ全額をB社から紹介された地方銀行のアパートローンで賄った。

「まだ半信半疑の部分があったので、銀行の融資担当者にB社の営業マンが持ってきた資料を見せながら『本当に問題ないのでしょうか?』と尋ねると、『これなら大丈夫』とあっさり太鼓判を押されたんです。こちらとしては、『銀行が言うのだから』と大船に乗った気持ちでした」(Aさん)

それから10年間にわたり、B社からは確かに契約どおり毎月65万円の振り込みがあった。ローンの支払いは月約36万円。そこからさらに諸経費を除いた20万円がAさんの収入になった。老後の貯えのための副収入としては、十分な金額だった。

ところが、時間が経つにつれてAさんのアパートの周囲には、B社による別のサブリース物件のアパートが次々増えていく。

「いくら単身入居者の需要があるとはいえ、狭い町にそんなに建てられたら飽和するのは目に見えている。担当営業マンには何度も『本当に大丈夫か?』と尋ねました。でも、彼は『僕を信用してください』と繰り返した」(Aさん)

だが、営業マンの言葉とは裏腹に、Aさんのアパートの入居者は減っていき、現在では約20戸のうち15戸近くが空室のままだ。ツートンカラーのアパートの玄関先には、業者が用意した『入居者募集』というのぼりが、虚しく風にはためく。

契約書に隠されたワナ

不安を抱えたAさんのもとにB社の営業マンがアポなしでやってきたのは昨年の6月だった。

「『このあたりの家賃相場はあなたに保証している金額の50%を切っていて、もうこの金額では続行できない。ついては家賃保証を減額するからこの紙にハンコを押してくれ』と言い出したんです。寝耳に水でした」(Aさん)

Aさんに提示された金額は月額43万6000円。当初提示されていた65万円からすると、実に3割に及ぶ大幅な減額だ。

「実は建物の完成後に、防犯カメラの設置やインターネットの敷設工事など様々な費用が数百万円単位で上乗せされていったこともあり、43万円では時間が経てば経つほど赤字が増えていってしまう。『考えさせてくれ』と言ったのですが『即決でないと、契約解除の可能性もあります』とにべもなかった」(Aさん)

AさんがB社と結んだ契約書類では確かに〈契約期間30年〉とされていた。だが、2ページにわたりびっしりと書き込まれた書類の最後には〈家賃収入は10年を過ぎたら2年毎に契約内容を見直す〉という文言が何の強調もなされずに記されていたのだ。

「『契約書類を読み込んでいないのが悪い』と言われればそれまでですが、営業マンから減額についての説明は一切受けていませんでした」(Aさん)

Aさんは、B社の営業マンのみならず、簡単に融資を決めた銀行の担当者にも憤る。

「融資のプロである銀行の担当者は、書類の内容も当然精査したはず。それなのに、窓口に相談に行った時も将来の見通しなどについて何も疑問を示されることはなかった。

せめて融資の相談をした時に、銀行が借り手であるこちらの立場でしっかり審査してくれていたら、契約を思いとどまったかもしれないのに、という気持ちはぬぐえません」(Aさん)

不動産屋と銀行は共犯

大手信託銀行の元支店長が言う。

「本来の銀行の役割は、きちんと事業性を審査したうえで、事業者に融資を行うこと。しかし、近年は審査能力が落ち、行員は目利きができなくなっている。

その上、住宅ローン金利が0.5%程度と『超低金利』の現在でもアパートローン金利は平均5%程度と圧倒的に高いし、物件という担保があるので、融資先が喉から手が出るほど欲しい地銀は、安易に審査を通してしまう」

実際、日銀の調査によれば、金融機関にアンケート調査を行ったところ、半数以上が周辺の家賃相場や入居率さえ調べずに融資をしているという衝撃的な事実も明らかになっている。

「不動産業者は地主とみれば絨毯作戦で声をかけ、アパートを建てさせようとするが、その際、業者と地銀は必ずくっついている。表沙汰にこそならないものの、銀行から業者に地主をこっそり紹介するケースもあるし、業者が銀行を紹介するケースもある。

1件当たりの金額が高額なので双方に旨味がある。いわば『共犯関係』なので、決して銀行を借り主の味方だと思ってはいけません」(大手地銀関係者)

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