あらゆる世帯が電力会社を選べる「でんき総選挙」で、スタートダッシュを切ったのが東急電鉄子会社の東急パワーサプライだ。
 同社は電力会社で初めて申し込み件数を公表し、1月26日までに1万件に達したと発表した。
 経済産業省の認可法人である電力広域的運営推進機関は同月29日までに東電管内で切り替え申し込みが3万3200件だったことを発表しており、東急パワーはこのうち3割以上を獲得した計算になる。
 さらに東急パワーは2月24日までに2万件を突破したと発表し、2016度中に10万件を獲得する目標を改めて強調した。
 周到な準備がスタートダッシュを後押しした。2015年末に料金メニューを発表し、2016年元日から駅構内などで積極的な営業活動を展開している。
 駅ビル、百貨店、ケーブルテレビなど異業種への参入経験が豊富な東急グループは、電気事業についてどんな戦略を持っているのか。経営管理グループ長の原寛一執行役員と、営業グループ長の河内綱司執行役員に話を聞いた。

電車の中刷り広告や駅での販売などで、積極的に宣伝活動をされています。

:鉄道会社としてのメリットをフル活用して「東急でんき」の営業活動を展開中です。もちろん東急グループ全体として取り組んでいます。

 「空中戦」と呼ばれるテレビCMには参加ません。私たちは少しずるいかもしれませんが、他社のテレビCMで電力自由化の認知が一気に高まったところで顧客を刈り取る「地上戦」に徹しています。

東急パワーは駅の構内や改札近くに特設コーナーを設け、キャンペーンを展開する
東急パワーは駅の構内や改札近くに特設コーナーを設け、キャンペーンを展開する

需給管理システムなどは全て自前で作った

なぜ鉄道会社である御社が電力小売りに参入したのですか。

:東急というと鉄道が有名ですが、駅ビル、百貨店、ケーブルテレビなど、東急沿線住民の生活に密着したサービスを展開してきました。電力といえば生活サービスの最たるものです。電力小売りで、生活サービスの主要メニューを加えたいと考えました。

 事業参入は2014年の12月に決定しました。自由化に先立って、2015年4月から、東急グループの商業施設やオフィスなど、すでに自由化されている自社拠点へ電力を供給し、電力需給業務の経験を積んできました。現在、グループ施設の約100拠点に供給しており、月間契約電力量は約3万kWの規模に上ります。

 需給管理システムなどは全て自前で作りました。夏や冬の電力消費のピークでどう対応すればいいかを経験したことで、オペレーションに自信がつきました。企業向けと家庭向けは違うと思いますが、全面自由化後も気を引き締めてやっていきたいです。

電力の調達は。

:電源を持つ企業との相対契約、東京電力の常時バックアップ、日本卸電力取引市場の3つから調達しています。最も多いのは、自家発電を持つ新電力などからの調達です。自前の電源を持つ予定は今のところありません。

東急沿線の至るところに宣伝ポスターがある
東急沿線の至るところに宣伝ポスターがある

他社と比べた御社の強みはどこですか。

河内:私たちが扱っている商品やサービスは、電車、百貨店、テレビ、電話など、消費者が毎日使うものです。ここまで特化した事業者はいないのではないでしょうか。

 通勤や買い物で毎日乗る電車では、乗るたびにポイントが貯まるサービスを提供しています。2018年3月末までに「東急でんき」に契約すると、貯まるポイントが2倍になるキャンペーンを実施しています。

 貯めたポイントを使えば東急ストアで買い物ができますし、東急系のホテルでディナーを楽しむこともきます。ICカードにチャージして電車やバスに乗っていたただくことも可能です。東急沿線に住んでる限りは使い所に困りません。

顧客からの反応や申し込み状況は。

河内:大変好評です。元日から駅構内などで営業を展開し、約1カ月間で1万件を超えました。想定をやや上回るスピードです。特に、すでにポイントを活用されている顧客からの反応が良いです。「2倍」が効いているのだと思います。

 「東急でんき」の契約目標は、10年間で55万世帯です。沿線の世帯数が250万世帯なので、その約2割に利用してもらいたいと考えています。

東急パワーサプライ 料金表(2016年1月現在)
東急パワーサプライ 料金表(2016年1月現在)
*1電気料金をTOKYU CARDでのお支払いにするか、提携ケーブルテレビ事業者を通じて契約をする必要があります。
※税込表示。2016年1月時点の東京電力の従量電灯Bの料金単価と比較(各種割引は適用外)。
[画像のクリックで拡大表示]

電気だけで儲けようとは思っていない

他社も安い料金プランを打ち出してきています。御社のメニューの特徴は。

:電気はもともと薄利多売のビジネスで、電気だけで儲けようとは思っていません。電気をきっかけにして東急とお客様のつながりを強め、満足度の向上を目指したいと思っています。

河内:他社は、電力使用量が比較的多い家庭の料金を割り引くメニューを打ち出しています。「東急でんき」の基本料金は、東京電力の現行料金と比べて、30A契約で6.6%、40A契約で4.8%、50Aで7.7%、60Aで9.6%安く設定しており、幅広いご家庭でメリットが出るようにしました。沿線住民の多くのご家庭に使っていただきたいという思いがあります。

 価格の安さだけではなく、生活に密着した便利さを追求していきたいと思っています。そうした意味では、顧客ターゲットはファミリー層で、その中でも家計を支える主婦の方がニコッとできるサービスにしたいと思っています。お得な買い物で思わず笑顔になる「サザエさん」のような方に便利さを実感していただけると嬉しいです。

東急パワーサプライ経営管理グループ長の原寛一執行役員(左)と営業グループ長の河内綱司執行役員
東急パワーサプライ経営管理グループ長の原寛一執行役員(左)と営業グループ長の河内綱司執行役員
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