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・ぼくの出た小学校の正門前には、鈴木貫太郎という元総理大臣の石碑があった。「正直に腹を立てずに、たゆまず励め」と記されていた。なにかにつけて、ぼくはこのことを言いたがる。
鈴木貫太郎という人は、終戦という仕事をした総理大臣であると習った。ネットで付け焼き刃的に調べると、いまさらながらに興味深い人物であることがわかった。2.26事件、そして終戦の日と、二度にわたって暗殺されそうになっている。終戦時には、すでに77歳という高齢で、おそらく諸説あるのだろうけれど、ただひとり命令によってでなく、天皇に「頼まれ」て総理大臣になった人とされている。
その人のいた小学校にいて、ぼくは、しょっちゅう、石碑を見ていたわけだ。しかし、「正直に腹を立てずにたゆまず励め」とは、いまの年齢になって読むと、あまりに平凡で面白みのないことばにも思える。まったく奇をてらったところもなく、表現としての技巧も工夫も意識されていない。そこが、このことばを発した鈴木さんという人の、いいところだったんだろうなぁ、と気がついた。そういう人が、あの学校に通っていたんだなぁ。
小学校の時代のぼくは、あの石碑の文字を、ただなんとなく憶えるだけだった。卒業してからこの年になるまでは、それを、なんだか忘れないでいるだけでいた。いまごろになって、その、ただ憶えたことばが、どんなふうに語られたか、偶然のように知った。
・ぼくは、いろんな人に、このことばのことを言った。いつも、なんだか気になっていたからだと思う。「それはいい石碑だよ。おれのいた学校はさぁ、『らしく』って書いてあったんだよ」それを言った人は、「らしく」生きてて亡くなった。
今日も「ほぼ日」に来てくれて、ありがとうございます。夜になったら栗コーダのライブもあります、お楽しみに。
"「正直に腹を立てずに、たゆまず励め」