滋賀県大津市のJR大津京駅からほど近い立地の分譲マンション。地元デベロッパーである大覚が売り主で、南海辰村建設が施工した。引き渡し直後に不具合が見つかり、その責任の所在をめぐって、大覚と南海辰村建設による訴訟に発展している。

大津市のマンションの外観。14階建てで2009年に完成した(写真:全て石田 高志)
大津市のマンションの外観。14階建てで2009年に完成した(写真:全て石田 高志)

 ことの発端は、全108戸のうち販売済みの59戸が入居した直後の2010年1月だった。住民から騒音の苦情があり、大覚が雨水を一時的に貯める貯留槽を開けたところ、水が流れこむパイプに不備があった。雨水はパイプを経由せず貯留槽に直接、流れ落ちていた。大覚の山下よし子社長は「普段は目に見えないところで欠陥が見つかり、これは他にもあるに違いないと思った」と当時を振り返る。

 大覚は室内の軽微な手直しなどが済んでいないとして、南海辰村建設に対して工事代金の支払を拒否。「手直しが終わったら支払う」と通達した。しかし手直しされないまま、1月中旬に南海辰村建設から工事代金請求訴訟の訴状が届いた。

 訴訟を起こした南海辰村建設の片岡健治・取締役はこう語る。「我々は何度も手直しに応じてきた。大覚は、双方で手直しをすることで合意していた箇所以外の手直しまで要求してきた」。

 その後、不具合は他にも見つかった。例えば立体駐車場の地下にはコンクリートのすき間から漏れだしたとみられる地下水が溜まったまま。茶色く濁り、汚泥が堆積している。

 今年2月時点で深さは約50cm。何度もポンプで汲み出しているが、すぐに溜まる。大覚によれば、累計で深さ4~5mの地下水が漏れ出しているという。

 立体駐車場を動かすチェーンは水に浸かってサビ付き、いつ切れるか分からない。安全性が確認できず、現在、全ての立体駐車場が使用禁止になっている。

立体駐車場の地下に溜まった水。コンクリートから漏水している可能性がある
立体駐車場の地下に溜まった水。コンクリートから漏水している可能性がある
立体駐車場のチェーン。さび付いて安全性が確認できない状態だ
立体駐車場のチェーン。さび付いて安全性が確認できない状態だ
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 大覚が依頼した第三者機関の調査では、屋上で200トンを超えるコンクリートの余分な施工も見つかった。屋上が重くなれば、建物の構造は弱くなる。第三者の調査結果は、「建築基準法違反で地震が来れば危険な状態になる」と指摘した。

 大覚は「安全が確認できない」として、入居済みの59戸に対して、販売価格での払い戻しに応じることを決定。28戸が契約を解除した。

 次々に不具合が見つかったことを受け、大覚は南海辰村建設を反訴し、建物の建て替え費用などを請求。訴訟合戦となった。

一審判決は南海辰村の勝訴

 主な争点は、屋上が重くなったことで建物の安全性が損なわれたかどうかだった。上記の通り、大覚が「地震が来れば危険な状態になる」としたのに対し、南海辰村建設は別の調査結果をもとに「建築基準法には違反していない」と主張。平行線をたどった。

 南海辰村建設の水野潔・建築本部工事部長は屋上の施工についてこう主張する。「コンクリートの増し打ちは認めるが、それは大覚側にも設計者側にも了解を得ている。判が押された書類を我々は持っている。大覚側が知らないはずはない」。

 一審判決は2013年2月。主な争点だった、屋上が重くなったことによる建物の安全性については、「安全性が確かめられる」として、大覚が求めた建て替え費用請求は棄却。実質的な南海辰村建設の勝訴で、大覚はすぐに控訴した。

 判決は、安全性以外の争点だった地下の漏水などの一部を瑕疵として認めた。ただし、南海辰村建設は「コンクリートから漏水した可能性があるが、深さ数十cmも溜まるとは考えにくい。(大覚側がコンクリートの施工状態を調べるために)穴を開けた箇所から漏水した可能性もある」(水野工事部長)とも主張する。

14階から落下した防風スクリーン。1枚約50kg。隣のマンションの駐車場に落下した。
14階から落下した防風スクリーン。1枚約50kg。隣のマンションの駐車場に落下した。
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 大覚によれば、重大な欠陥の可能性は一審判決の後も見つかっているという。2013年9月の台風で14階廊下から防風スクリーンが4枚落下。隣のマンションの駐車場などに落下し、多額の費用負担が生じた。

 2015年には、大覚が杭の施工状態をボーリング調査したところ、少なくとも2本の杭が固い地盤(支持層)に到達していない疑いも出てきた。大覚側は一審後に発覚したこれらの欠陥の補償について、控訴審で争う予定だ。

 南海辰村建設は真っ向から反論する。「杭が未達の可能性はない。(杭データに偽装があった横浜市のマンションと違って)電流計で杭の到達を確認する方法ではなく、支持層まで到達したかどうかを、土砂を採取して確かめている。工事記録写真も残っている」(水野工事部長)。

消費者不在の訴訟、「青田売り」の弊害

 日経ビジネス2月22日号の特集「家の寿命は20年 消えた500兆円のワケ」では、日本の住宅に関する根源的な問題点を取り上げた。日本国内では一般的に受け入れられているが、諸外国からは奇妙に映る制度や商慣習が多々存在するのだ。

 その一つが、「青田売り」の問題だ。マンションの完成前に販売を開始することを指す。モデルルームや完成予想図、模型だけを見て消費者が購入を決めるもので、現在、国内のマンションのほとんどがこの方法で販売されている。

 青田売りは事業者にとってメリットが大きい。早期に資金回収が可能で、その資金を次のプロジェクトに回すことができる。一方で消費者にとっては、買った後で手抜き工事をされたとしても確かめようがないなどのデメリットがある。

 日本や中国の一部などを除き、外国ではマンションが完成した後で売り出すのが一般的。現物の品質をチェックできるため、消費者が安心して買うことができる。

 大津のマンションは、まさに消費者が購入直後に、欠陥が発覚したケースだ。しかもデベロッパーと建設会社が訴訟を続け、一番の被害者である住民は不安な日々を送っている。

 大覚は不具合が見つかった後で払い戻しに応じたが、それでも約30戸の住民はその後も住み続けている。訴訟に発展したことで、本来すぐに補修すべき箇所がそのまま残っているものもある。責任がデベロッパーにあるのか建設会社にあるのかは、住民にとって重要ではない。

 青田売りにせよ、デベロッパーと建設会社の訴訟にせよ、供給者側の論理が優先され、消費者や住民は二の次という姿勢はおかしい。消費者目線が欠落した住宅業界の仕組みや商慣習を、根本から疑う時期に来ているのではないか。

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