「現状のまま商業施設として運営することは、もはや限界」――。

 JR青森駅前の一等地にそびえ立つ商業ビル「フェスティバルシティ・アウガ」が苦境に陥っている。2015年末、アウガの再生を検討していた外部のプロジェクトチームは再生について、「商業化は実現可能性が低く、採算上も成り立たない」(商業施設としては採算が取れない)と断じた。

JR青森駅前の商業ビル「アウガ」。経営難が続き打つ手がない状態
JR青森駅前の商業ビル「アウガ」。経営難が続き打つ手がない状態

 アウガは2001年に開業。生鮮食品市場や商業テナント、青森市民図書館などが入る。青森市や地権者などが中心市街地ににぎわいを取り戻す目的で再開発した商業ビルだ。

 「コンパクトシティー」という言葉をご存知だろうか。人口の減少を見据え、郊外開発の抑制と中心市街の活性化を同時に進め、市街地をコンパクトに保つ都市計画手法である。病院や図書館など都市機能が中心部に集まるので市民にとっては利便性が高まる。行政にとっても、例えば住民が居住できる地域を限定できれば上下水道や道路などのインフラを拡大せずに済むという財政上のメリットがある。

 この手法を日本で初めて取り入れたのが青森市だった。

 1999年から他の自治体に先駆けてコンパクトシティー政策を実行。郊外を走る青森環状道路の外側におけるマンション開発などを認可しなかったり、古くからの市街地にハード整備の予算を重点的に投じたりした。

 市の再開発事業でマンションを青森駅前に建設。雪深い青森で、駅周辺エリアの歩道に融雪設備を設け、歩きやすく安全な歩行者空間を整備した。

 アウガはもともと、青森市がコンパクトシティーの考え方を取り入れ、その中核として期待した施設だった。

「計画当初から無理があった」

 しかし、計画段階からつまずいた。青森市が再開発組合を認可したのは90年。92年に第三セクターの青森駅前再開発ビルを設立し、アウガの建設をスタートした。総事業費は約185億円。だがバブル経済の崩壊が直撃した。94年には中核テナントとして入居を予定していた西武百貨店が入居することなく撤退を決めた。

 その空きスペースを埋めるため、市が図書館と駐車場を整備。青森駅前再開発ビルが残りの保留床を買い取ってテナントに貸し出す手法を採った。

 2001年1月に開業したものの、初年度の売上高は約23億円で目標の半分程度。さらに、2015年3月期は15億6500万円まで落ち込んだ。市が青森駅前再開発ビルに対して長期貸付金の元金の返済延期を認めたり、空き区画の積極的な活用策を講じたりしたものの、客離れに歯止めをかけることはできなかった。

 青森駅前再開発ビルは開業以来、慢性的な赤字体質。2013年3月期にいったん黒字化したが、その後再び赤字に転落。2015年4月~9月期も3600万円の赤字。同社の木立均・常務取締役は「2016年3月期通期もかなり厳しい状況だ」と語る。

 現在まで続く経営難に対し、計画当時を知る青森市の関係者はこう指摘する。「計画を立てること自体が目的化していて、当初の売り上げ計画自体に無理があった。『白紙にしようか』という声も一部から上がったが、敷地内にあった市場は既に解体され、他の場所に移って仮設店舗で営業していた。引き返すなんてできなかった」。

 来客者数も客単価も右肩下がりで、現在の平均客単価は1900円。木立常務は「地権者から借りた床をテナントに貸すスキームで、もともと利益は出しにくい。経費もギリギリまで削っており、我々としてはお手上げ状態」と打ち明ける。

 青森駅前再開発ビルは外部の専門家3人からなるチームに再生策の立案を依頼。このチームが昨年12月末に報告書をまとめ、記事冒頭にあるように「商業施設としては限界」と指摘した。「運営を継続した場合、将来的に追加負担が拡大する可能性が高い」とした。

 その上で報告書は、「中核ビルの幽霊ビル化を防ぐ手段として、公共化は現実的かつ一般的な選択肢」として、地下1階の魚市場を除く商業テナント部分をすべて公共施設とする案を提示した。

 そのための実行スキームとして、青森市が青森駅前再開発ビルや地権者、金融機関から底地共有持分を買い取る方法を示した。青森市の鹿内博市長は1月8日、臨時会見を開き、提案は「非常に重い位置付けだと認識している」と述べ、アウガの再建を検討するための臨時組織を役所内に立ち上げることを明らかにした。

全国に失敗事例はごまんとある

 役所主導の再開発が失敗した例はアウガだけではない。例えば佐賀市の中心市街地で1998年に開業した商業施設「エスプラッツ」。わずか3年で運営会社が倒産し、「巨大な空き家」が市の中心部に長らく存在するという異常な状態となった(現在は公共と民間の複合施設として再生)。

 秋田市の中心部で2012年7月に開業した「エリアなかいち」でも、総合食品売り場の運営会社が売り上げ目標の未達を理由に開業から2年足らずで撤退。その後も撤退が相次ぎ、テナントの大幅な入れ替えを迫られた。

 共通しているのは、アウガの例が示すように商業施設としての採算性の見込みに甘さがある点だ。アウガ再生の報告書は「非現実的な事業計画をベースにスタートし、それが現在の苦境の主因となっている可能性がある」と指摘している。

 地方の中心市街地の衰退が進むなかで、行政が駅前や中心部の再開発を主導するスキームを否定することはできない。しかし、甘い見込みを元に進め、結果的に再開発プロジェクトが失敗し、「幽霊ビル」を作るのであれば、負の影響は大きい。

 日経ビジネス1月25日号の特集「活力ある都市ランキング」では、会社やヒトを呼びこむためにユニークな活動に取り組む自治体を取り上げた。

 再開発のように莫大な予算を必要とする事業を行わずとも、子育て支援や起業支援などを手厚くすることで、街を活性化することは可能だ。ハコモノに頼らない、知恵と工夫による街づくりこそ、人口減少時代に求められていると感じている。

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