学術講演会・例会

第47回杏林医学会市民公開講演会
脈のはなし 速い脈と遅い脈
講演会報告

副島京子先生

佐藤俊明先生

上田明子先生

杏林CCRC研究所・地域交流推進室
第47回杏林医学会市民公開講演会
脈のはなし 速い脈と遅い脈

 日時:平成30年11月17日(土)午後1時30分〜午後3時20分

 場所:杏林大学病院 大学院講堂

 <特別講演1>
「脈を知ることの大切さ」
講演者:副島京子先生(杏林大学医学部第二内科学 教授)

 講演概要
心臓は1日に約10万回拍動しています。その拍動が血管に伝わり手首などで触れるのが脈拍です。速い脈(頻脈)の代表的なものが心房細動です。その早期発見により脳梗塞を未然に防ぎ、カテーテルやバルーンを用いた根治のための治療が行われています。遅い脈に対する治療は、昨年よりカプセル型のリードレスペースメーカが使用できるようになり、患者さんの負担が非常に軽減されています.早期発見に何よりも大切な自己検脈の方法とこれらの最新治療に関してお話ししたいと思います。

 <特別講演2>
「脈が遅くなったら : リードレスペースメーカによる治療」
講演者:佐藤俊明先生(杏林大学医学部第二内科学 特任准教授)
          

 講演概要
リードレスペースメーカは、容量 0.8ml、重さ2.0gのカプセル型ペースメーカです。 従来から行われてきたペースメーカの植込み手術では、リードとよばれる電線を肩のつけねにある血管から心臓の内面まですすめるとともに、電池本体を胸の皮膚の下(ポケット)へ留置する必要がありました。リードレスペースメーカは、太ももの付け根にある静脈から専用の長い管(カテーテル)をもちいて、心臓のなかに挿入されます。 リードレスペースメーカの先端と胴体には電極がついており、心臓の「脈」をたえず見張っています。もしも脈が遅くなれば、心臓を電気で刺激し、拍動させます。 リードレスペースメーカによる治療では、リードの植込みや留置、電池ポケットに関連する問題はおこりません。さらに胸の静脈が詰まっていたり、血液透析による治療をうけていても、リードレスペースメーカの植込みは制限されません。術後、胸元には切傷や、電池による膨らみは残りません。
植込み手技時間が短いことも長所のひとつです。杏林大学病院では、2014年に日本で初めてリードレスペースメーカの植込みがおこなわれました。以後、大きな合併症もなく、植込みは現在も行われています。


 <特別講演3>
「速い脈のはなし」
講演者:上田明子先生(杏林大学医学部第二内科学 特任講師)

 講演概要
脈が速くなる、あるいは乱れる不整脈の代表例が”心房細動”です。60歳以上人口の7-8%、80歳以上の10%にみられ、高齢化社会において今後さらに増加すると考えられています。症状は様々で、強い動悸ですぐに来院される方がいる一方、全く気付かず何年も経過される方もいます。心房細動は、@動悸や息苦しさといった症状、A心機能を低下させる可能性、B血栓症を来す、といった問題を引き起こします。また近年、死亡率の増加、QOLの低下、認知機能の低下にも関与するという報告が増えています。 心房細動の治療には2つの大きな柱があります。一つは血栓を予防する”抗凝固療法”です。心房細動は症状の有無に関わらず心臓内に血栓を形成することがあり、これにより脳梗塞を発症することがあります。脳梗塞の実に3割は心房細動が原因とされており、特に重大な後遺症を残す広範囲な脳梗塞を来しやすいと言われています。残念ながら脳梗塞を発症してから心房細動が発見されることも少なくありません。積極的に脈のチェックをする、健康診断などの機会を逃さず心電図検査を受けることで、心房細動が早期に発見されれば、血栓症を発症する前に血液の凝固を抑制する薬剤を開始し予防が可能となります。 一方、冒頭で述べた心機能の低下、認知機能の悪化といった問題の抑制には、心房細動という脈の乱れ自体の治療、つまり正常の脈に戻し、維持する治療が必要です。これが心房細動治療のもう1つの柱です。抗不整脈という脈を整える薬物療法とならび、現在主流となっているのがカテーテルアブレーション治療です。細いカテーテルの先端から高周波などのエネルギーを用い熱を発生させ、心房細動の起源となる左心房‐肺静脈の心筋を焼灼する治療法です。焼灼部位、カテーテルの種類、カテーテル操作を容易にするマッピングと呼ばれる装置など、この20年で本治療は飛躍的に発展を遂げており、治療成績も良好なものとなっています。本講演では、心房細動の早期発見の手がかり、診断・治療の流れから、最新のカテーテル治療まで具体的にご紹介していきます。


 11月17日の午後、杏林大学大学院講堂にて、第47回杏林医学会総会市民公開講演会が開催されました。今回は「脈のはなし 速い脈と遅い脈」というテーマで三人の先生にご登壇頂きましたが、限られた時間の中、自己検脈の方法から最新のペースメーカー手術、心房細動の早期発見、診断、治療等について、実際の映像とともに大変わかりやすい解説で内容に富むご講演をいただきました。 当日は三鷹市民を中心に約200名が参集してご聴講頂きましたが、メモをとりながら、実際に手首で検脈をしながらと熱心にご参加頂く様子が大変印象的でした。改めて高齢化社会に向かう中でひとりひとりの健康管理に対する意識の高さを再認識するとともに、医学会講演会がその一助となる事を願ってやみません。最後になりましたが、副島先生のご好意で設けられた質問コーナーでは沢山の挙手とともに熱心な質問が続きました。時間の許す限り丁寧にご対応頂きました副島先生をはじめ、佐藤先生、上田先生にこの場をおかりして御礼申し上げます。

杏林医学会
2018.12.7

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