こんにちは。メンタルトレーナーの森川陽太郎です。

スポーツの世界で勝ち続けるのは、とても難しいことです。レベルの高い戦いになればなるほど困難を極めます。個人戦はもちろんですが、チームで戦うとなるとなおさらです。今回はある異彩を放つチームを例に、「結果を出す組織」になるために一人ひとりができることを考えていきます。

例に挙げるのは、関東フットサルリーグに所属するフウガすみだです。地域リーグに所属しているアマチュアのチームですが、過去にはアジアチャンピオンのタイトルを持つFリーグ所属の名古屋オーシャンズを破り、日本一にもなりました。現在も、地域チャンピオンを決めるリーグで4連覇中と圧倒的な強さを誇っています。フットサル日本一のチームを決める大会「プーマカップ」ではベスト8に進み、今週末には準々決勝に挑みます。

このチーム、とにかく面白いのです。私自身もサッカー選手として、メンタルトレーナーとして、数多くのチームに帯同してきました。しかし、これほど「一体感」のあるチームは他にはありませんでした。

なぜフウガすみだは強いのか? ここではチームに受け継がれる3つの習慣を紹介します。1.【依存を起こさない】どんな時にも面白さを追求する

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フウガすみだが試合前に行うウォーミングアップは必見です。他のチームであれば「ふざけてるのでは?」と思われてしまうようなウォーミングアップをします。

はじめに、みんなで円陣を組み、担当の選手を中心に全員で同じ言葉を復唱します。言葉は担当者のアドリブなのですが、とにかく「面白さ」や「ユーモア」を全面に押し出しているのもあって、毎回異なるとても個性的な円陣です。その後は、忍者やアントニオ猪木のモノマネを取り入れたウォーミングアップを全員で行います。その間の「悪ふざけ」でチームには何度も笑いが起きて、みんなで盛り上がりながら試合の準備をします。フウガすみだには「みんなで笑いながら」ウォーミングアップをする習慣があるのです。

普通のチームでは、ウォーミングアップを含め、試合前には神経質になりがちです。多くのアスリートと接していると、言葉を選んで話さなくてはいけない選手もいます。しかし、フウガすみだの面々は、試合に出ている選手ほど試合直前まで何も気を使わずに話せます。神経質になってピリピリするような選手はおらず、まわりを気にかけ、一緒に盛り上げるような人ばかりです。

日本では笑いながらウォーミングアップをしていると、「もっと真剣にやれ」という声が飛んできます。なぜなら「脱・ポジティブで結果を出す! ネガティブシンキングのススメ」でも触れましたが、過程を真面目にしないと、結果が出なかった時に責められるので、「マジメ」にやることでその責任に保険をつくっているのです。

その点、フウガすみだの選手は、自分たちが結果を出すための最善の方法を知っています。だからこそ、全員が「悪ふざけ」をするのです。フウガすみだは「悪ふざけ」を通して、どんなに大きな舞台でも過程に依存を起こさず、結果に責任を持って向き合えるチームなのです。

2. 【本質を見失わない】みんなで間違える

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「ひとりが間違えたら、みんなで間違えよう! そうすれば、それが正解になる」

試合前にフウガすみだの須賀監督がよく選手に話す言葉です。みんなが自分の正解を証明するためにプレーをしているチームは弱い。だからこそ、正解だけを求め合うのではなく、チームが勝つために「みんなで正解にしていく」という考えは、「試合に勝つ」という本質を見失わないで戦い続けるための大切な要素です。

「チームが勝つ」ためにプレーできる。当たり前のように感じるかもしれませんが、これを続けられる選手は少ないものです。「自分が活躍する!」という満足感を得たい欲求や、ミスに対する恐怖心などから生じる自己防衛は、「チームが勝つ」ためにプレーする本質から自分を遠ざける原因になります。弱いチームほど「自己満足」「自己防衛」にとらわれ、自分の評価のためにプレーをする選手が多いのです。強いチームほど、選手たちはそれにとらわれず、「結果」で満足感を得て、評価をあげる方が効率がいいことを知っているのです。

3. 【マイナスを排除しない】等身大の自分たちを受け入れる

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試合前に良いイメージを作ってから試合に望むという話を、アスリートからよく聞きます。しかし、自分に都合のいいイメージばかりを持っていると、予想外なことが起こった時に戸惑うケースが多くなるのです。起こりうるマイナスなことを先に予測するのは非常に重要です。人は予想外のことが起こると、対応するのにも時間がかかってしまいます。

試合前のミーティングで、須賀監督は「失点した時にはこんな気持ちになるだろうけど、こう対処しよう」というように、先に気持ちの整理の方法まで選手たちに話します。選手たちは失点に対する恐怖心や不安を受け入れて試合に臨むことができるわけです。

須賀監督の試合前ミーティングの特徴は、選手達が受け入れられていないことを、受け入れさせる会話をすることです。例えば、苦手なチームと対戦する時、試合前の選手たちは「今日の相手やりづらいんだよな...」と感じているのに、「前回も勝ってるし大丈夫!」と不安を無理やり掻き消そうと葛藤していることがあります。そんな時、須賀監督はこう言います。「今日の相手、嫌だね! 一番やりたくなかったね。そこ認めちゃおう!」と。選手たちが「自分はいま不安でいいんだ」と受け入れて、自己肯定感を持って試合に望める状態をつくるのです。

試合中に起こりうるマイナスなこと、自分たちの中にある葛藤などを、すべて受け入れながら戦い続けられるのが、フウガすみだの強さの秘訣なのです。

結果を出す組織の一員となるために「個人」ができること

これまでの「フウガすみだ」の話からは、結果を出す組織にするための「個人」に求められる能力を学ぶことができるでしょう。まとめると、以下の3点です。

・過程ではなく結果で満足感を得る

・自分が正しいことを証明するための作業をしない

・等身大の自分を受け入れる

「自己満足に陥らない」というのが、すべてに共通するキーワードになります。

「チームで結果を出す」ことによって満足感を得るようになると、チームが結果を出すために個人としても最大限の力を発揮できるようになります。それこそが、結果的に個人の評価を上げることにもつながるのです。

(森川陽太郎)

森川陽太郎ブログTwitter):元サッカー選手として欧州でプレー。引退後、心理学やメンタルトレーニングを学び、2008年株式会社リコレクト設立。著書に『いつもの自分トレーニング』、『ネガティブシンキングだからうまくいく35の法則』。