お悩み・その17
ソリューションビジネスを定着させたい

 皆様こんにちは、マイティの高木です。身近なお悩み解決を通じて発明原理を学ぶことで「キャリアのアンチエイジング」を目指すこの連載。今回のお悩みはちょっと複雑なようですよ。

社員:「はぁ・・・『今こそソリューションビジネスへの脱皮を!』かぁ。もうこの手の目標が出されるのは何回目、いや何十回目だろうか」

 お悩みのようですね。

社員:「はい。社長が言う通り、『製品販売型の今のままではだめだ』というのは分かります。年々価格が下がりますし、新製品を開発してもどんどん利幅が小さくなっています。だからといって『製品ではなくソリューションを売れ!』と言われても、いったいどこから手を付けたらよいのか、見当がつきません」

 あぁ、その気持ち、よく分かります。どうでしょう、世の中には「○○ソリューションズ」という会社が多くありますが、そこなんかは参考にならないですか?

社員:「うーん、うちもそういう名がつくところに社内システムとかを外注していますけど、うちとは業種が違うところばかりだし、なんだか結局、要件定義を作ったりソフトウエアを組む人たちがやってきたりするだけで、よく分かりません。なんかその人たちも、最近仕事が減ってきて苦しいらしいです。いまだに馴染めないんですよ、サーズとかパーズとか・・・」

 SaaS(Software as a Service)とかPaaS(Platform as a Service)のことですね。あれこそまさに“製品売りを脱皮した”好例ですね。

社員:「あ、あとAWSとかいうのが出てきて、自分は楽になったのですが、会社ではサーバー管理担当だった人が、仕事が来すぎて困っている人と、仕事がなくなって困っている人に2極化しているらしいです」

 AWSは「Amazon Web Service」ですね。アマゾンが提供するクラウドサービスです。確かにAWSが登場することで、随分と世の中の“ソリューション会社”は、「“サーバーを提供する”という“ソリューション”」が陳腐化して困っていることでしょう。でも逆にこのように「場が変わった」ときこそチャンスでもあります。

社員:「確かにそうなんですが、いったいどこから手を付けたらよいのやら。弊社でも何度か改革の動きはあったのですけど、会社のあちこちが“製品を売る”ことが前提になっていて、障害が多すぎます。結局いつも中途半端に終わってしまい、元通りになってしまいます」

 いかがでしょうか。このようなお悩み、多くの会社で起きていることではないかと思います。

 私はある独自調査から、日本のほとんどの大企業が「ソリューションビジネスに移行していない」と断言できます(いやうちは移行している!という反論は歓迎です。参考にさせていただきます)。そしてこれに対して、これから何回かに分けて、発明原理<#2分離原理>を片手に、解決の道筋を提案していきたいと思います。

 とはいえまずその前に、今回は社員だけではなく、社長側の言い分にも耳を傾けてみましょうか?

社員も悩めば社長も悩む

社長:「やれやれ、どうやったら会社のビジネスを、製品販売型からソリューション提供型に変えられるのだろうか」

 お悩みのようですね。

社長:「うちは他社に製品を納入して何十年にもなる。世間は景気が良かったり悪かったりするが、わが社の製品は納入先から常にコストダウンを迫られ、利益率は年々下がる一方だ」

 それはよく聞く話ですね。

社長:「もう21世紀になって15年が経った。すでに15年以上、『製品を売るのではない、ソリューションを売るソリューションビジネスに移行しよう』と言い続けてきた」

 ご説はごもっとも。方針として、多くのトップがそういう方向性を出されています。その脱皮のために、どのようなことをなさいましたか?

社長:「まずは手始めにソリューションビジネス事業部という名の事業部も作ったし、様々な部課名にもソリューションの文字を入れさせた」

 よく聞く話です。

社長:「ただ作っただけではない、機会のあるごとに何度も何度も訓示を行った。『顧客が欲しているのはドリルではない、ドリルで空けた穴である』という類のものだ」

 ええ、そのたとえ話は実に分かりやすいですよね。

社長:「それだけではない、これまでに高いコストをかけて外部コンサルを雇い、何度も『ソリューションビジネスとは何か』の研修もさせた」

 コンサル、とはコンサルタントもしくはコンサルティング会社の4文字略語ですね。効果測定はされましたか?

社長:「もちろんだ。そのコンサルに『ソリューションビジネスへの意識が社内に浸透したか』について効果計測もさせた。そのたびごとに一定の効果が上がったとのレポートがそのコンサルから上がっていた。しかし、一向に会社の利益率が向上してきたようには見えない。本当にソリューションビジネスへの変革意識が社員に定着しているのだろうか?」

 なるほど、計測への意識はあるのですね。それはよいのですが、外部コンサルを雇って研修させ、その結果を外部コンサル自身に計測させたと。なかなか面白いことをさせますねぇ。

社長:「面白い?どういうことだい?何しろわが社にはソリューションビジネスに関してのノウハウはない。もちろん効果測定方法もだ。効果測定まで外注するのが当たり前だろう?」

 うーん、社長、考えてもみてください。貴社が製品Aを納入している相手先(B社としましょう)にて「B社でその製品Aを導入してみて良かったか否か」の満足度レポートを、B社が作るのではなく、製品Aのことをよくわかっているからと貴社が調査項目まで決めてよい、となったらいかがですか?

社長:「そういう機会が与えられるのは、ありがたいな」

 この時もし、あなたのところの社員2人がそれぞれ別のアンケートを実施。片方では「満足度が高い」というアンケート結果が出て、他方は「満足度が低い」というアンケート結果が出たら、どちらの結果をB社に提出しますか?

社長:「そんな、当然今後のことを考えたら満足度が高い方の・・・むぅ、そういうことか。ではどうするべきだろうか。また別の外部コンサルに「ソリューションビジネスの定着度」の計測をお願いするか」

 そんなことしたら、調子を合わせて「定着している」と言ってくるか、もしくは「定着していない」と言って、その会社の研修を買わせられるだけですよ。

社長:「かといって、自社でソリューションビジネスの定着度を測るノウハウなどないぞ。何か妙案はないのか?」

 あります。そのヒントは「セクハラ」と「メタボ」。そして発明原理<#2分離原理>です。

一部を分離・抽出する原理を測定に利用

 さて、少し長々と、日本におけるソリューションビジネスの現状について対話形式でお届けしてみました。

 私自身、会社員時代にはソリューションビジネス業界にいました。かつていた会社はハードウエアビジネスからソフトウエアビジネスへと華麗な転身を遂げたと考えていますが、本当の意味でソリューションビジネスになったかといえば、結局は「プログラマーやSEの人月売り」の域を出ることは少なく、「ソフトウエアビジネス」の一種であったのではないかと思います。もっとも、それは私がかかわった会社だけではなく、日本全体の問題ではないかと考えています。

 <#2分離原理>とは、抽出原理とも呼ばれ、「そのままでは様々な要素が混じり合っていて扱いづらいもの」から、「(より純度の高い)一部を取り出すことで、問題解決を容易にする」という発明原理です。

高木芳徳著「<a href="http://tinyurl.com/triz40book" target="_blank">トリーズの発明原理40</a>」より
高木芳徳著「トリーズの発明原理40」より
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 発明原理シンボルは、大きな②の右下に、2とつながる形で小さな黒丸(●)をくっつけた形をしています。これは右図の通り、もとは混じり合っていた状態から、2の形に(実際に、○を書いてから“2”を描いてみるとググッと寄せている感じが感じられます)中をかきあつめて、右下に寄せ集めて“分離”したイメージを込めています。

 発明原理は番号が若いものの原理ほど抽象度が高く、様々な分野で応用可能です。この<#2 分離原理>についての具体例は今後、様々な形でご紹介させていただきます。

 さて今回のお悩みに戻りますが、社長と話す中で、1つの問題点として「ソリューションビジネスの定着度をどのように計測するか?」、が挙がってきました。そして、その定着度を図るヒントが<#2分離原理>と「セクハラ」と「メタボ」です。次回は、その解決策を詳しくお伝えします。

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