スマートフォンやタブレットを使って業務マニュアルを手軽に作れるアプリを開発。人手不足で人材の即戦力化が求められる中で、外食などの接客業で普及し始めている。

紙のマニュアルは卒業
紙のマニュアルは卒業
スタディストが開発したマニュアル製作アプリの入った携帯端末で業務の手順を共有し、改善につなげる企業が増えている(写真=陶山 勉)

 「鶏肉の切り方は、このマニュアルを見て覚えてください」。東京・浅草橋にある焼肉店「フジヤマドラゴン」浅草橋店では、アルバイトを採用するとマニュアルを使って業務内容を習得させている。といっても、アルバイトが手にするのは、紙のマニュアルではなく個人のスマートフォンやタブレット。そこから、デジタルのマニュアルにアクセスする。

 外食企業のマニュアルの多くはいまだ紙のものが主流だ。フジヤマドラゴンも以前は紙のマニュアルを使っていたが、今年からこのデジタルのマニュアルに替えた。

 デジタル化を機に、業務内容も改善した。紙のマニュアルでは調理以外の業務だけでも説明に50ページが必要だったが、今では業務を14のカテゴリーに分類し、それぞれの手順を10~20段階に整理した。フジヤマドラゴンを展開する夢笛(広島県福山市)は直営の9店舗全てにデジタル版のマニュアルを導入。同社の高橋英樹社長は「アルバイトだけでなく店長からも分かりやすくなったと評判だ」と話す。

 このスマホやタブレットで閲覧できる業務マニュアルを作製するアプリ「Teachme Biz(ティーチミービズ)」を開発・提供するのが、スタディスト(東京都千代田区)だ。

平均10分でマニュアル製作

 スタディストがティーチミービズを開発したのは2013年9月。それからわずか2年余りで、国内の約600社が導入している。2016年2月期末には導入企業800社、売上高は1億6000万円を見込む。

サービス開始から2年で600社が導入
●「Teachme Biz」の導入企業数
サービス開始から2年で600社が導入<br /> ●「Teachme Biz」の導入企業数

 このサービスが急速に普及している理由は、マニュアルを簡単に作製できるからだ。導入企業はひな型に沿って、業務の手順ごとに作業をスマホで撮影し、その画像を簡単な説明文と共に貼り付けるだけでよい。「ワード」や「パワーポイント」などで作製するよりも、マニュアルに特化したひな型があるため、見栄えもよくなる。スタディストの鈴木悟史社長は「1つの業務工程を説明するマニュアルを、平均10分で作ることができる」と強調する。動画を入れることも可能だ。

自動車や部品メーカーの業務改善のコンサルタントを経て起業した鈴木悟史社長(写真=陶山 勉)
自動車や部品メーカーの業務改善のコンサルタントを経て起業した鈴木悟史社長(写真=陶山 勉)

 サービスの料金は、マニュアルを編集する人数が5人以内で閲覧回数が月100回以内の場合は、月額5000円(税別、以下同)。料金は編集人数や閲覧回数が増えると、その分だけ高くなる従量制で、基本プランで最も高額の場合では月額5万円(編集の人数が100人で閲覧回数が月1万回以内)だ。

 ティーチミービズの導入目的は主に2つ。従業員に対する業務内容の説明と、顧客向けの商品やサービスの説明だ。導入企業の内訳では、2割強を税理士事務所や公認会計士事務所が占め、続いてIT(情報技術)やウェブ関係の企業が2割弱、美容院などのサービス業と外食企業がそれぞれ1割程度だという。

 鈴木社長は今後、接客業での導入が増えるのではないかと見ている。背景にあるのが、人手不足だ。未経験者を短期間で一人前に育てなければならず、業務手順を分かりやすく伝えるマニュアルのニーズが高まっている。実際、フジヤマドラゴンのような外食チェーンに加えて、家電量販チェーン「カメラのキタムラ」なども導入している。

業務改善の経験生かし起業

 スタディストの鈴木社長は、大手自動車メーカーや部品メーカーの業務改善を請け負うコンサルタントを経て、2010年に起業した。マニュアルの製作をビジネスにしようと考えたのは、コンサルタント時代に顧客から、新しいシステムを導入する際などにマニュアルを作ってほしいという依頼が多かったためだ。

 そして、最終的に鈴木氏の背中を押したのが、2008年の「iPhone」の発売だった。これがあれば、写真も撮影して、マニュアルをもっと手軽に作れる時代になる──。そう確信したという。

 リーマンショックも影響した。当時は1件数千万円の案件を扱っていたが、景気の影響で仕事は一気に減った。だが、「マニュアル製作は景気に左右されず、企業の規模にも関係なく、どんな時代でもビジネスをする際には必要なものだ」(鈴木社長)。

 スタディストは顧客獲得のために「パートナー制」も導入している。税理士事務所などをパートナーとして、顧客に対する業務改善の提案とセットでティーチミービズの導入を働きかけてもらう仕組みだ。

 年内にも、ティーチミービズに、タブレットとインターネット接続サービスをセットにして提供するプランも用意する予定だ。これにより、ITリテラシーが高くない潜在顧客も掘り起こしていきたい考えである。

 マニュアルを多言語化する仕組みも準備しており、外国人労働者にも対応できるようにする。小売りや外食では外国人労働者の採用が広がっているほか、海外現地法人や海外企業への販売も視野に入れている。既に、ある日本企業のタイの現地法人2社に採用されている。

 人手不足によって、ビジネスの現場ではこれまで以上に人材の即戦力化が求められている。さらに、離職率を抑えるために、従業員がしっかりと業務を習得できる体制を整える必要性も高まっている。業務を分かりやすく伝えるマニュアルを安価に、そして素早く作製できるティーチミービズに対する期待は、今後も高まっていきそうだ。

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