情報やデータは多ければ多いほど良い、というものではありません。過剰な情報は適切な判断の邪魔となるほか、必要以上のエネルギーを費やしてしまうことさえあります。

アナリストの仕事は、他の多くのビジネスと同じように、膨大なデータや目まぐるしい変化との格闘です。毎瞬間繰り出され、しかも24時間全世界で生み出される情報に反応してしまうのが株価です。このため、情報の重要性を峻別する能力と洞察力が求められます。

このような情報処理上の瞬発力が求められる一方で、ゆっくりと、しかし確実に忍び寄る構造変化も感じ取る力が必要とされます。その意味でアナリスト業務は、情報と戦う他の多くのビジネスの縮図のような性格があると思います。(「プロローグ 『しあわせ』を考えるアナリストは成功する」より)

こう主張する『超一流アナリストの技法』(野﨑浩成著、日本実業出版社)の著者は、もともとアナリストとして得た知識や経験、調査・分析のテクニックや対人的な方法論などを本書に集大成しようと考えていたそうです。

しかし構想を進めながら、「いままでのキャリア構築のすべてを注ぎ込もう」と思いなおしたのだとか。多くの場合、仕事は人生の豊かさや幸福を増やすために取り組まれるものであるはず。そこでビジネススキルを提供するだけではなく、ビジネスとプライベートを一体として捉え、読者にその幸福感を増やしてもらうことを目指しているというのです。

精神論から具体的なビジネススキルまで、幅広い領域をカバーしているのはそのせい。きょうは実践的なヒントになるものを扱った第3章「一流と呼ばれるビジネススキル」内の「効率性を高める仕事術」から、「時間管理の技法」に焦点を当ててみます。

時間管理の技法

1. 前さばきはしっかり

時間は有限であるだけに、まず心がけたいのは「前さばき」だと著者はいいます。第一に大切なのは、自分が取り組むべき仕事かどうかを峻別すること。頼りにされたからといって、自分がやらなくてもいい仕事をすると、自身の本来のクオリティを低下させてしまうことがあるわけです。そこで、他の部署や担当が行うほうがよい業務であればそちらに誘導したほうがよいということです。

第二に重要なのは、処理可能かどうかの判断。そこで能力、時間、その他の資源に照らし、「完全に対応可能」「極めて困難」「取り掛からないとわからないもの」の3つに分類するそうです。

まず、極めて困難であるものに関してはきちんと理由を添えて断るべき。いうまでもなく、請け負ってから「やっぱりできません」ということになると、依頼者の手間を増やしてしまうことになるから。なお、可能かどうかの判断がつきにくいものに関しては、できない可能性を依頼者に認識させることが必要。これは相手に過大な期待を抱かせないためだといいます。

第三は、仕事を請け負うと同時に他部門・他社などのサポートが必要かどうかの判断を行い、瞬時に業務依頼を行うこと。ここで時間をかけるとロスになるので、仕事の責任を負った瞬間に、「自分の知見や資源で対応可能か」「リソースを他に仰がなければならないか」を考え、リードタイムを短くしてすぐに依頼することが大切だということです。

そして第四は、これらの業務依頼を行なった場合の進捗管理。最速と受け取られない程度に、やんわりと納期を再確認するだけで、依頼者に対するある程度の規律づけができるそうです。

2. To DOリストをカテゴリー別に作成

やらなければならない仕事や業務上の手続きは、失念してしまうと信用と信頼を傷つけてしまうもの。だからこそ、重要な意味を持ってくるのがTo DOリストです。なお、To Doリストはカテゴリー別に分けると、より効果を発揮するのだとか。著者の場合は「長期的な課題」「イベント」「リクエスト」「ルーティン」に分けていたといいますが、そのひとつひとつを確認してみましょう。

「長期的な課題」は、必ずしもクリアしなければならない仕事ではないので、時間的な余裕が出たときに思索に吹けることが多かったそうです。そして次の

「イベント」には、日程が決まっている会談、セミナー、講演などが入るわけです。「リクエスト」は、顧客や車内他部署からの要望が主たる案件。時限性のあるものとないものがあるため、「期限を記載する」「期限に応じて色分けする」など表記を工夫するとよいそうです。「ルーティン」に入るのは、決まりごとのなかでも時限性があり、ある程度手がかかる仕事。

3. イベントやリクエストの納期から逆算した業務管理

仕事の基本は「逆算」にあると著者。リスク管理上、ある程度の余裕を持った逆算での日程管理を行うことが大切だということです。通常なら一週間程度で完了できるはずの仕事が、他の仕事と重複したなどの理由から長期化することもあるわけです。ひとつの仕事のプロセスに、複数の人が関わるようなときは、特に注意が必要。

追い込まれた状況下での仕事は、クオリティを上げるのが難しいだけでなく、ミスの確率が上昇しがち。そのため他から要請された納期や、自らがターゲットとする目標期日から逆算することが大切で、基本でもあるということです。またスケジュールを逆算するなかでは、他の関連するセクションのプロセスを十分に踏まえる必要があるといいます。まわりに気を配ることは、自分を守ることにも通じるから。(51ページより)

4. スケジュール管理は3Dで

もうひとつ工夫を加えるとするなら、それは3D的なスケジュール管理だといいます。一般的にスケジュール表やTo Doリストは、手書きか電子媒体かに関係なく単色(通常は黒色)で作成されることが多いはず。しかしこの場合、ある程度意識しない限り、重要性や業務負担の大きさを比較するのは困難。

そこで色を使い分けしてみる。そうするだけで、2次元から3次元へとディメンションアップできるというのです。重要度の高いものを目立つ色、業務負担の重いものをアンダーラインなどで表現することで、単調なスケジュール表に濃淡をつけることが容易になるということ。この管理方法は、大きなスケジュールミスを防ぐ意味で有効だとか。

5. 時間単位のコスト管理

次は時間のコスト管理。「時は金なり」という言葉があるように、被雇用者の時間は雇用者のコストです。にもかかわらず、自分が費やす1時間が金銭的にどの程度のコストなのかを意識している人は、時間給のアルバイトやパートタイマーを除けば、意外に少ないと著者は指摘しています。

しかし、時間単位のコストを意識することによって、仕事への向き合い方も変わるといいます。そこで著者は、多少の残業を勘案し、自分の時給を計算してみることを勧めています。

1日10時間労働で月220時間、年間報酬(税などの控除前)の月割りが55万円とすれば、時給は2500円。月割りが220万円なら時給は1万円となるわけです。このように、たまには自分が費やした時間とそのコストとの関係を振り返る必要もあるのではないかということ。

同僚との会話も、協調性や人間関係を維持・向上させるうえでは大切。しかし、それに投入する時間が度を過ぎると、自分だけでなく相手のコストをも浪費させることになります。そこで、有益な会話と無益な無駄話についても、ときどきレビューすることを著者は勧めています。

6. 前日シミュレーション

職種や日によっては、ルーティン主体の1日を過ごすことも少なくはないはず。しかし予定がタイトな場合は、頭のなかで1日の行動シミュレーションを行うといいそうです。

アナリストにとって、複数の顧客訪問と企業取材を1日で行うような、日程が複雑になるケースは日常茶飯事。そこで、朝から夜までの日程について、前日または当日早朝に、時間や場所、注意点などのシミュレーションを行うことが重要。そうすれば、時間のロスや無用な遅れを回避できるわけです。

そのシミュレーションのなかで、定められた時刻に遅れるリスクがあると感じた場合は事前にそのことを伝えるだけで、相手からの印象も大きく変わるはず。

(以上、51~57ページより)


タイトルからは難しそうなイメージを受けるかもしれませんが、冒頭でも触れたとおり広い視野に基づいていることもあり、理解しやすいはず。その一方、アナリストにとって必要なスキルや暗黙知など、やや専門的な領域をもフォローしているため、結果的にビジネスに関する多くのことを学べるでしょう。

(印南敦史)