みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
先日、「冬の女王」としてその名も高い広瀬香美さんのコンサートに行ってきたのですが、その際、受付会場の一角で旧知の岩佐文恵嬢がブースを出していた。「あれ?何してんの?」と尋ねると、「補助犬の啓蒙活動をしているのよ」と。
補助犬?聞き慣れない言葉です。実際、この原稿を書いていて「ほじょけん」と打っても漢字変換の候補は「補助券」が先に出て来てしまう。ATOKを開発するジャストシステムにしてもその程度の認識です。
私が「はー。補助犬ねぇ…」と要領を得ぬ顔をしていると、「香美ちゃんには補助犬大使になってもらっているのよ。今度話を聞きにいらっしゃい」ときた。
それでは、と早速話を聞きに行ってきました。
そもそも補助犬とは何か。我々がよく知る、目の不自由な人を手助けする盲導犬の他に、ワンコ業界には体の不自由な人をサポートする介助犬、耳の不自由な人に音を知らせる聴導犬という、それぞれに異なるトレーニングを積んだ“専門家”がいるのだそうです。そして彼らを総称して「補助犬」と呼ぶのだと。
日本補助犬協会は、この3種類の補助犬を育成・認定する日本で唯一の団体です。補助犬育成のための資金集め、スタッフ集めはもちろんですが、団体の当面の目標は「補助犬受け入れ体制の確立」です。
何しろ4年後には東京オリンピックが控えている。世界中から来る観戦客の中には、当然補助犬を同伴する人も多数含まれていましょう。ところが誠に残念なことに、我が国は肝心の補助犬受け入れ体制後進国であるそうです。公共の場でも「犬はお断り!」と閉めだされるシーンがまだまだ多いのだとか。
うーむ。身体障害者補助犬法が施行されて久しいですが、現実社会は法の理念に追い付いていないようで。もともとたくさんの犬に囲まれて育ち、将来的にはパピーウォーカーを夢見る広瀬さんも協会の活動に賛同し、補助犬大使に就任された、という訳です。
あ、そうそう。広瀬さんはトヨタ社長・豊田章男さんのボイストレーナーをしているのだそうです。これからしばらく続くMIRAI特集に、なんともタイミングよく面白い話を聞いたものです。章男社長、レースに続き歌手デビューもされるのでしょうか。
この記事が出る日は既に終わっている話なのですが、今年も性懲りもなく東京マラソンに出場します。ところが肝心のトレーニングが全く出来ていない。何しろこの時期はスキーがありますからね。それこそ毎週滑りに行っている。
「このままじゃイカン」ということで今頃になり慌てているのですが、レース直前に走っても疲れるだけです。こうなれば道具に頼るしか無い。ミズノの東京本店に行き、プロのフィッターに“速く走れるシューズ”を選んで頂きました。
さてさて、それでは本編へと参りましょう。
前号のコメント欄は大いに盛り上がりまして、読者諸兄のMIRAIに対する興味のほどが分かります。
常連の曲げオタク氏をはじめ、たくさんの方からコメントを頂戴いたしました。他の方の投稿を批判する方、そのまた投稿に疑問を投げかける方とバトルロワイヤルの様相を呈しておりまして実に結構な展開であります。気の済むまでハデに殴り合って頂きたく存じます。
日経BP社の掲載基準は詳しく知りませんが、著者といたしましては公序良俗に反しない限り、「なんでも載せちゃう」今の方針が健全だと思っています。個人的には文字数制限など設ける気はありませんし、二重投稿・三重投稿も大歓迎。「吐いた唾は飲み込めない」ことだけを認識頂ければ、何でもアリでしょう。ヤジも拍手も、どちらも大歓迎です。
有毒な排気ガスを発生しない夢のクルマFCV(燃料電池自動車)。FCVの開発は、世界的に見てもトヨタとホンダが先行しており、2002年には両社からリース販売が始められている。その後、2013年にFCVの開発に向けて日米欧各社が技術提携を発表。「トヨタ&BMW」「日産&ダイムラー&フォード」「ホンダ&GM」と、FCVの世界は大きく3つにグループ分けされる。
このときトヨタは、2015年に量産型を発売すると公言しており、それがMIRAIというわけだ。ちなみにホンダは、昨年の東京モーターショ―で発表した「CLARITY FUEL CELL」を、日本では2016年3月よりリース販売を開始し、その後一般販売も始める予定という。
何事にも慎重姿勢のイメージがあるトヨタが、なぜ世界に先駆けてFCVを発売したのか。FCVの開発にはどのような苦労があったのか。開発チーフエンジニアの田中義和さんからじっくりとお話を伺おう。
F:はじめまして。フェルディナント・ヤマグチと申します。よろしくお願いします。
まずはMIRAIに至るまでの田中さんの経歴からお聞かせ下さい。田中さんは今までどのようなクルマの開発に携わっていらしたのでしょう。
田中さん(以下、田):私はちょっと老けて見られるのですが、今54歳でして、87年に大学院を卒業してトヨタに入社しました。最初はオートマチック関係の開発部署に配属されました。その時の部署名は「駆動技術部」という名前です。そこで5年ほどオートマチックの制御とか、油圧制御系の開発をハードとソフトの両面からやっていました。
F:大学院でのご専攻は機械だったのですか。
田:ダイレクトな機械学ではなく、卒論では流体や電熱関係をやっていました。鉄板を水で冷やす、冷却をするような関係の論文です。卒論が流体だから……という訳ではないのでしょうが、配属されたのは油圧制御系の開発でした。
F:すると学校で研究された学問の延長線上にお仕事が。それはまたずいぶんとラッキーですね。専攻とは全く関係ない仕事に配属される人が多い中で。
「これは話してもいいのかなぁ……」
田:うん。確かに学校の勉強とは関係のない部署に行く人も多いですね。それでね、実はその後にちょっと変な経歴がありまして……これは話してもいいのかなぁ……。
F:話しましょう、話しましょう(笑)。
田:実は私、4年間ほど専従で労働組合にいまして。
F:おぉ!出世の王道、労働組合!(笑)。確か有田くんも組合だったよね。
広報:有田:僕は一番の下っ端で、会社の仕事をしながらの組合員です。専従とはぜんぜん意味が違うんですよ。
F:組合専従となると、その間クルマはまったく触らない?
田:ええ。もう期間中はまったく触りません。組合の仕事にのみ専念します。
F:「給料上げろ!」とかそういうことを赤旗振ってやるわけですか(笑)。
田:まあ給料上げろもそうですが(苦笑)、当時の僕は政策制度をやっていました。
F:それは選挙活動ということですか。大企業の専従組合員って、失礼ながら選挙対策要員というイメージがあるのですが。
田:確かにそういうイメージはありますよね。僕はそれに反発があって、本来の選挙の目的とは何か、どういう政策制度を実現したいのか、何のために自分たちの意見を投票行動で示さないといけないのか、ということを中心にやっていました。まだ若かったから、考えも青臭かったんです(苦笑)。
F:当時の支持政党は民社党ですか。
田:そうですね。今だと、民主党の古本伸一郎衆議院議員は僕と同期入社です。
F:同期入社。これはまたリアルな。
田:選挙って目的を達成するための手段のはずなのに、そこが目的化してしまっていた。僕はそこが好きではなかった。もっと本当のところやろうよ、ということで、例えば日本を変えようという政策制度フォーラムをやったりもしました。
田中さんが専従の組合員として活動していた時期は、ちょうど政権が入れ替わる激動の時代でもあった。1993年8月に日本新党の細川護熙氏が総理になる。非自民、非共産の連立政権の誕生だ。これにて38年の長きに渡り続いたいわゆる「55年体制」は、”いったん”終了する。その後、新生党から超短命の羽田政権が、そして94年6月には、ついに社会党の村山富市氏が総理に就任する。
田:今でこそ、組合は立場上政策のことにはあまり触れませんけれども、当時は自分たちが政策の質を変えようとか、生活者主権ということを言っていたんです。それが政権交代につながった、という思いはありますね。
F:細川総理、羽田総理ときて、遂には社会党の村山さんが総理になったのですからね。
田:村山さんのころには、僕も組合専従が終わっていたのですが、あのときは本当に、自分なりにすごくいい経験をしたと思っています。達成感もありました。
なかなかFCVの話に入らず申し訳ない。
組合のアジ演説で鍛えられたからだろうか、田中さんの話は非常に面白くグイグイと人を惹き付ける魅力がある。
マツダ地獄ならぬ、トヨタ地獄が始まる予感が……。
トヨタにもこんな人がいるのだなぁ。人の話は聞いてみなければ分からないものだ。
初代ヴィッツのATを担当
F:入社して5年間ATをやって、4年間専従組合員をやって、それからどうされたのでしょう。
田:それからまたATをやりました。初代ヴィッツに載せるATです。ヴィッツは割と画期的なクルマだったんです。自分で言うのもヘンですが、ヒットもしましたし、カー・オブ・ザ・イヤーも頂きました。初代のヴィッツは、スターレットの後継だったんです。
F:なるほど。
田:スターレットは、グローバルに販売をするという位置づけのクルマではありませんでした。ですがヴィッツはヨーロッパの市場を狙うクルマです。ヨーロッパは、ご存じのように小型車が大変充実している。フォルクスワーゲンのポロとか、オペルのヴィータとか、フィアットのパンダとか、“強豪”と呼べるクルマがひしめいています。そこに真っ向から勝負を挑まなければならない。
F:ヴィッツは向こうではヤリスの名前で売っていますね。
田:そうです。で、当時の日本の小型車ですが、正直な話、高速走行の対応が十分ではなかった。日本で走っている分には良いのですが、ヨーロッパでは140~150キロで普通に巡航できなきゃいけないですから。
F:なるほど。確かに日本ではそんなシーンはありません。
田:向こうのクルマを買ってきて日本にあるウチのテストコースで乗ったりするでしょう。例えば当時のポロなんて、乗った第一印象は、「なんじゃこりゃ」ってくらいに走らない感じがする。
だけど同じクルマにヨーロッパで乗ると、全然印象が違ってくる。すごく良いんです。日本のテストコースでは分かりません。やっぱりヨーロッパのアウトバーンだとか、ベルジャン路(石畳路)みたいなところで真価を発揮する、すごく良い車という感じ。
F:日本のテストコースだとショボいのに、実際にヨーロッパの道を走るとすごく良いと。
田:ええ。テストコースで普通にスッと乗っただけでは分からない。絶対的なパワー感というのは比較出来るんですけれども、やはりクルマってパワーだけじゃありません。人馬一体じゃないですが、トータルとしてのハンドリングや、スタビリティーがとても重要なんですね。当時のスターレットは、私の印象としてはちょっとフワフワしている感じがありましたから。
クルマの話をすると止まらない。エンジニアはこうでなくちゃ。
今日はFCVの話を聞きに来たのだが、そちらが始まる気配は一切無い。
まだ雰囲気に馴れない新担当Y田氏は、写真を撮りながらもしきりに時計を気にしている。
編集Y田(以下、Y):あのぅ……フェルさん。田中さんのお時間の都合もあるし、そろそろ本題であるFCVの話に移りませんか。
なぜか、話の中心はデュアルクラッチに…
F:そうですね。そろそろですね。それで田中さん、ヴィッツの後は何を。
田:その後、2000年から、FRのオートマチック、いわゆる多段系制御の開発に移りました。まず5速をやって、それからすぐに6速が始まった。8速の途中までやりましたね。当時はそうした“頭出し”はどうしてもレクサスで、そのレクサスに搭載する多段ATを担当していたんです。
“頭出し”とは、「先行技術を最初に搭載する」といった意味合いだ。
F:レクサスって、すごい高出力のスポーツタイプでもみんなATじゃないですか。どうしてデュアルクラッチにしないんですか? 海外の高出力のスポーツカーの多くがデュアルクラッチなのに、なぜトヨタはATに固執するのでしょう。
Y田:「FCVの話に」って言ったのに、なんでATの話をさらにツッコムんですか…(Fだけに聞こえる小声で)
田:デュアルクラッチは確かに変速レスポンスに関しては非常に優れた技術だと思います。一方で、以前は特に、安定感に欠けるという認識も一部にあった。変速はスパスパ決まるけれども、低速時の変速ショックがあって、ギクシャク感がある…といった。
F:確かに。バックの時などは特にギクシャクします。
田:これは会社ごとの価値観の問題で、他社さんがどうという話ではありませんが、やはりトヨタのオートマチック系の開発には、低速時のギクシャク感を避けたいという考えがあります。
それと、もともと湿式多板クラッチのATってロバスト性の高い技術なんですね。つまり、ATはとても頑強です。ところがデュアルクラッチは、回転が合った瞬間にギアをパコンとつかむというようなメカニズムなので、ロバスト性を維持するのが難しかったというの面もあると思います。デュアルクラッチって、ある意味MTみたいな機構ですから。
F:デュアルクラッチは、頭のいいコンピューターが自動でMTを操作してくれていると、そういう理解をしているのですが。
田:そうそう。その理解で正しいです。さらにオートマチックのトルクコンバーターには、トルク増幅機能があります。初期は、回転を若干ロス、つまり回転を抑えた分をトルクに変えて走るので、非常に力強く発進できたり、あるいは微速のところでぎくしゃく感がないという良さがある訳です。レクサスはご存じの通り、質感とか乗り心地をものすごく重視するクルマです。ですから、ATを突き詰めていくというのが当時の判断だった訳です。
F:なるほどなるほど、とてもわかり易いです。矢口さんがやっているレクサスRCFみたいな凄いクルマも…。
田:あれもATです。あのクルマはロックアップ機構で、MTのようなダイレクト感を出しています。若干ぎくしゃくしても、より変速の早さとダイレクト感を取るという味付けをやっているのです。矢口がやっているあのクルマに乗って、「レスポンスが悪い」という人はあまりいないと思いますね。
いずれにしても、レスポンスとスムーズさを兼ね合わせるものとして、トヨタとしては湿式多板クラッチをうまく使った方がいいであろうという、そういう発想ですね。これ、僕の個人的な想像なんですけれども、ヨーロッパでデュアルクラッチが盛んなのは、いろいろなバリューチェーンとか、そういうものも絡んでいるんではなかろうかと。いわゆるギア作りが得意なところがデュアルクラッチに移行しやすいんじゃないかなと。僕はそう思いますね。
Y:田中さん、お願いですからFCVの話を…(Fにさえほとんど聞こえないような声で)
組合活動からトヨタのATの在り方まで。
序盤戦はまったくFCVの話をなさらなかった田中さん。
いいぞいいぞ。
この調子でガンガンとカマして頂きましょう。
次週にはFCVのお話も頂けると思います。多分。
それではみなさま、また来週!
プレミアムSUVが日本にも続々上陸
こんにちは、ADフジノです。
さて、MIRAIの“ミ”の字にもたどり着けなかった開発責任者・田中さんインタビュー第一弾ですが、果たしてこのトヨタ地獄、どこまで続きますでしょうか。乞うご期待、というわけでここでは、トヨタ以外のネタをお届けしたいと思います。
今週からジュネーブモーターショーが始まりますが、いま高級SUVブームが起きています。これまでSUVを作ったことがなかったベントレーやジャガーが既に新型をデビューさせていますし、今ショーではマセラティが新型SUV、レバンテを発表します。
そしていま、日本にも新型のプレミアムSUVが上陸しています。まずはボルボXC90。2003年の初代以来、十数年ぶりのフルモデルチェンジだけあって、プラットフォームもパワートレーンも、インフォテイメントシステムも、安全装備もすべて刷新し、その質感の高さからも相当な気合がうかがえます。
ボルボは今後開発するエンジンは最大で2リッター4気筒まで、と公言しており、このXC90もその前提にのっとってラインナップが組まれています。試乗したのはT6エンジン搭載車でしたが、とても2リッターとは思えないほどパワフルさ。また夜間でも、そして歩行者だけでなく自転車なども認識する自動ブレーキをはじめ先進の安全装備の中身は随一。もちろん半自動運転も実現しています。
また衝突安全においても3列目シートまで前席と同等の安全性能を確保しているなど、ボルボならではの安全へのこだわりがてんこ盛り。いま3列シート7人乗りのSUVが欲しい人には間違いなくおすすめの1台です。
そして、メルセデス・ベンツからはGLCが登場。GLKの後継車種となるモデルで、車名にもあるようにCクラスをベースにしたSUVです。
Cクラスベースといっても、セダン比で全長は45mm短く、全幅は80mm広く、全高は215mm高く、ホイールベースは35mm長い。そんなわけで室内は広く、4WDでもあるので車重も200kgほど重くなります。
ところが乗るといい。エンジンはいまのところ2リッター4気筒ターボのみの設定で、これに最新の9速ATを組み合わせています。普通に走っていて、もはや何速に入っているのを意識することはありません。静かだし、ストロークのある足で乗り心地もいいし、適度にスポーティだし、個人的にはセダンよりもいいと思います。
いま世界的にプレミアムSUVの波がきていますが、これらに乗るとその理由がとてもよくわかります。これまで自分で買うなら、セダンタイプかスポーツタイプに限る、と頑なに思っていたボクですら最近は心の片隅でSUV欲しいなと思っていたりします。
食わず嫌いな方もぜひお試しあれ。
登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。
この記事はシリーズ「フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える」に収容されています。フォローすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。