(写真=Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
(写真=Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 大手企業の経営トップが仕事始めにあたり社員などに向けて発信するメッセージである「年頭所感」。報道されるその内容をチェックして考察を加えるのが、年の初めに筆者が必ず行う仕事の1つになっている。ウォッチを始めたのは1999年頃からで、筆者の見るところ、各年のキーワードや中心テーマは以下の通りである<図1>。

■図1:企業トップ「年頭所感」におけるキーワードや中心テーマ
1999年 (生き残りのためのリストラ)
2000年 (「IT革命」への対応)
01年 「変革」「挑戦」
02年 「改革」「挑戦」「スピード」
03年 「挑戦」
04年 (「攻め」の姿勢)
05年 (「3つのテーマ」に集約 ~ 不断のリストラ、成長事業強化、海外事業拡大)
06年 「価値」
07年 (好業績に安住しない緊張感)
08年 (景気の先行きを警戒)
09年 「原点」「改革」「チャンス」
10年 「リスクをとらないことがリスク」「新しい発想」
11年 「グローバル」「10年先」「ゼロベース」
12年 「グローバル」
13年 「変化」「変革」
14年 「飛躍」(ただし、経済の見方ではアベノミクス期待と先行き警戒が混在)
15年 「グローバル」を強調しつつ、慢心を戒め
16年 さまざまな「変化」への対応

 企業の利益水準は足元で歴史的な高さとなっている。だが、増収増益の拡大均衡によって実現したものであるとは言い難い。また、利益の伸び率は落ちてきている。さらに、中国など海外を中心に経済の先行き不透明感が強まっている。その上、規制緩和や技術進歩などによってビジネスモデルの変革を迫られる場面が増えることが十分予想される状況である。

少子高齢化、人口減少、米利上げ…

 このため、2016年の年頭所感では、内外で不透明な状況が続くことを念頭に置きながら、さまざまな変化に対応することを社員に促すものが目立った。具体例を引用したい。

「少子高齢化、働く女性の増加などに加え、2017年春の消費税増税、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催など社会、経済環境に大きく影響するイベントが控える。こうした変化にどう対応し、進化するか」(小売り)
「人口減やテクノロジー進化など、損害保険業界を取り巻く環境は大きく変化している。業界内でも買収・再編など大きな変化が起きている。私たちはこれらの変化に機敏に対応し、自らを変革していかなければならない」(損保)
「米利上げにより安い資金がいつでも調達できた時代は終わったということを認識しなければならない」「世界の変化を見極め、グローバルな競争を勝ち抜いていかなければならない」(商社)
「『デジタル革命』と言われるように、世の中が大きく変わり始めている」「私たちのこれまでのやり方やビジネスモデルを大きく変えなくてはならないということだ」(電機)
「省エネや耐震など住まいにニーズに合わせ、あらゆるモノがインターネットでつながるIoT(モノのインターネット)を生かし、新しいビジネスモデルの創造に注力する」(住宅設備)
「今年は電力小売り全面自由化が実施され、新たな競争時代に入る。当社を選んでいただくためには、お客さまと接する中で頂戴した意見や感想などの有益な情報の集約・分析が重要となる」(電力)
「電力・ガス市場が自由化されると競争環境は様変わりする。『選ばれ続ける』ための活動や仕組みが重要になる。パラダイムが大きく変わる中で生き残るのは、変化に対応できるものだけである」(ガス)
「社会に必要とされる会社であり続けるために、社会の変化に柔軟に対応し、社会課題を解決しながら、中期経営計画の最終年度の今年は、さらなる飛躍を目指す」(住宅)

4年後の東京オリンピックにも注目

 また、今年は8月にブラジル・リオデジャネイロでオリンピック・パラリンピックが開催される。それが終わると、4年後の次の開催地は東京だということで日本に注目が集まるはずだと指摘した年頭所感も、複数あった。

「夏のリオデジャネイロ五輪・パラリンピックが終わると、世界の目は東京に集まる」(不動産)
「今年はリオで五輪とパラリンピックが開催される。閉会式では『次は東京』とアナウンスされ、一気に世界中の人々の注目が日本や東京に集中し、相互交流や経済活動が活発になると想定される」(旅行)

 ところが、海外投資家は昨年、日本株を売り越した。東証発表ベースで2509億円である。円建て・ドル建て双方で株価が上昇したにもかかわらず海外勢が日本株を売り越したのは、バブル経済が崩壊する直前の1989年以来26年ぶりの珍しい出来事だと、米国系通信社が報じていた。

 今年1月4日の大発会で、日経平均株価は前営業日比▲582.73円の大幅安になった。直接の株売り材料は中国の製造業景気指標の悪化などで、最近の世界的な株価下落の根源には今年に持ち越された「3つのリスク」(中国景気下振れリスク・下げ止まらない原油価格・米利上げ後のマネーフロー変調)がある。

弱まるアベノミクスへの期待感

 だが、それだけではないだろう。日本株を大量に買い越してきた海外投資家の「アベノミクス」への期待感の弱まりも、日本株が今回大幅に下落する際のいわば「素地」を提供したものと、筆者はみている。

 海外メディアの報道内容を見ていても、「アベノミクス」に対する海外の期待感が以前よりも弱まっていることが感じられる。そして国内でも、「アベノミクス」という言葉を含んでいる新聞記事の数が減少している。全国紙5紙で見た場合、昨年12月は2カ月連続で減少し、183件にとどまった<図2>。

■図2:「アベノミクス」という言葉を含む新聞記事数(日経、朝日、毎日、読売、産経が対象)
■図2:「アベノミクス」という言葉を含む新聞記事数(日経、朝日、毎日、読売、産経が対象)
(出所)日経テレコン
[画像のクリックで拡大表示]

 大発会の日経平均株価下落は2014年から3年連続のことであり、特に珍しくはない。2014年と2015年の場合はいずれも「2連敗」で食い止めて、3営業日目に株価はリバウンドしていた。

 ところが今年は、5日が前日比▲76.98円。中国人民元の一段の下落などに加えて北朝鮮の「初の水爆実験」というサプライズがあった6日は同▲182.68円。そして、7日には同▲423.98円と、あえなく「4連敗」してしまった。さらに、8日も下落が続き、日経平均株価の算出が始まった1950年以降で初めて、言い換えると戦後初の「5連敗」となってしまった。

 このことは、経済・マーケットを見ていく上で今年が「油断のならない年」だということを、実にシンボリックに示していると筆者はみている。すでに述べた3つを中心とするリスク要因を念頭に置きながら、警戒的に見ていくべきだろう。

まずは会員登録(無料)

登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。

こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

春割実施中

この記事はシリーズ「上野泰也のエコノミック・ソナー」に収容されています。フォローすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。