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抽象画の系譜たどる 「具体」や現役作家ら

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1950~60年代、日本美術の一大潮流を成した前衛美術集団「具体美術協会」の地元関西で、抽象画に光を当てた展覧会が相次ぐ。元具体の作家に続き、今秋には現役画家の大規模なグループ展が予定される。彼らに影響を与えた米国の大家の作品も見られ、抽象画の系譜をたどることができる。

兵庫県立美術館(神戸市中央区)で開催中の企画展「IN MY ROOM/ON THE ROAD」(7月5日まで)では元具体の白髪一雄(1924~2008年)や元永定正(1922~2011年)らの作品が並ぶ。たくさんの絵の具が画面上でうごめく「黄帝」は、白髪が天井からつるされたロープにつかまり、足で絵の具を踏みながら広げた。

展示会タイトルの「部屋」と「路上」について、担当した西田桐子学芸員は「内省的な表現や、他者との出会いという近代的なテーマを込めた」と説明。日本の近代化は西洋化の歴史と重なるが、具体の抽象画には日本的な精神性があると指摘する。

「物質と精神は本来は反対の性質を持つが、白髪作品は両者が緊張感を持って融合されている。西洋とは違う日本の伝統的な美意識が根底にあるからではないか」と西田学芸員。具体は1954年、画家の吉原治良を中心に兵庫県芦屋市で結成。西洋画の技法に沿った日本の近代絵画を継承するのではなく、百貨店の屋上でアドバルーン展を開くなど、斬新な作品を発表し続け、海外でも高く評価された。

関西は現役作家の裾野も広い。今年10~11月、神戸市で初開催される芸術祭「新長田アートコモンズ」。美術部門では、長田区の再開発ビル「アスタくにづか」の空き店舗で、関西を拠点に抽象画を描き続ける中堅・若手の画家12人がグループ展を開く。出展作家の1人で実行委員を務める岸本吉弘は「愚直に平面作品を描き続ける作家を集めた。東京ではなく関西から発信する意義は大きい」と力を込める。

神戸大学准教授でもある岸本は「具体は欧米で評価が高まっているが、過剰なパフォーマンスが面白がられている面はある。しかし、個々の作家をみるとセンス豊かで、高い精神性がある。欧米の巨匠に匹敵しながら、彼らとは別の内実を持っている」と話す。

具体と同じ50年代に活躍した米国抽象表現主義を代表する作家、バーネット・ニューマン(1905~70年)。ミホ・ミュージアム(滋賀県甲賀市)は彼の代表作を集めた「バーネット・ニューマン―十字架の道行き―」を6月7日まで開催中だ。キリストの受難の歩みをたどる計15点の連作「十字架の道行き―なんぞ我を見捨てたもう」は画面に真っすぐに縦の線が伸び、無駄な描写がそぎ落とされている。中世からの伝統的な画題を扱いながら、物語性は感じられない。

ニューマン自身が「ジップ」と呼んだ縦の筋が特徴だ。彼は「画面を切断するのではなく、統合する光の筋」と意図を明かしている。展示のゲストキュレーターを務める大島徹也・広島大学大学院准教授はこの筋が「人間の存在も表している」と指摘する。

ニューマンは鑑賞者と作品の出合いは、物質的な対峙を超えた形而上の出来事だと考えた。「ジップは人間の暗喩とも捉えられる。それ以上に重要なのは、人間の崇高さや苦悩といった深い感情を新しい方法で作品にしたこと」と大島准教授。

2つの世界大戦を経た50年代には世界中で抽象画が盛んに描かれた。兵庫県美の西田学芸員はこの時代の抽象画は「戦争後の混沌とした時代の空気が表れている」とみる。戦後70年を迎える今年は抽象画が訴えてきたテーマを見つめ直すのにふさわしい時期でもある。

(大阪・文化担当 安芸悟)

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