サイクロン型掃除機などが好調の英家電メーカー、ダイソンが攻勢を強めている。2015年は売上高、利益とともに過去最高で、今年は英本社に新たな研究開発施設を開設。主力の掃除機のみならず、ロボット掃除機や室内の空気汚染度をネットで把握できる空気清浄機能付きファンなど、製品ポートフォリオを急速に拡大している。英ダイソンのマックス・コンツCEO(最高経営責任者)に話を聞いた。
英ダイソンのマックス・コンツCEO(最高経営責任者)。1969年、ドイツ生まれ。米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)などを経て2010年にダイソンに入社。2012年から現職。
英ダイソンのマックス・コンツCEO(最高経営責任者)。1969年、ドイツ生まれ。米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)などを経て2010年にダイソンに入社。2012年から現職。

ダイソンの2015年の業績は非常に好調でした。何が好業績をけん引役したのですか。

コンツ:確かに2015年は非常に力強い年でした。売上高は前年と比べて26%増えて17億ポンド(約2700億円)、利益も同19%増えて4億4800万ポンド(約720億円)となりました。けん引役は、高品質の製品を求める需要が世界的に高まっていることにあります。我々は、優秀なエンジニアと若い才能を人々が抱える問題を解決するために投じてきました。軽量でインテリジェントなバッテリータイプの掃除機や、家庭環境を安全で清潔に保つ空気清浄機といったダイソン製品を、多くの消費者が高く評価しています。この現象は今、世界中に広がっています。我々の技術力は、非常に普遍性のあるものだと考えています。

 特に日本は、我々にとってスターマーケットです。2015年も2014年も、前年と比べて50%ずつ事業が拡大してきました。多くの新技術をまず、日本で投入していますが、それは、技術や品質の要求水準において、日本の消費者が非常に洗練されているからです。我々は、新しい技術はまず、世界で最も要求水準が高い国で投入したいと考えています。それが技術者にとって、最高の技術を開発する上でのチャレンジとなるからです。

 象徴的なのがロボット掃除機「ダイソン360 Eye」です。まずは表参道(東京)の旗艦店で立ち上げましたが、現在では約200の販売店に展開しています。小型のデジタルモーターを搭載して高い吸引力を持つほか、360度カメラで周囲の状況を把握。さらに、ダイソン製品として初めて、インターネットに接続してスマートフォンから操作できます。

昨年オープンした表参道の旗艦店は、日本での事業拡大に貢献していますか。

コンツ:これまで非常にうまくいっています。我々は、ダイソンのすべての技術を消費者に丁寧に理解してもらえる場所を持つことが非常に重要だと考えています。もちろん、パートナーの小売店でもそうした場所を持つことはできます。店舗を訪れると、ダイソンの担当者が製品を説明してくれますよね。

 しかし、その一方で、我々自身がこうした場を独自に持つことも同時に重要だと感じています。我々は急速に製品ポートフォリオを拡大しており、技術をより詳しく、分かりやすく理解してもらう必要があるからです。

 そのため、こうした旗艦店は日本だけではなく、世界の主要都市で展開していく予定です。今年6月には英ロンドンのオックスフォード・ストリートでもオープンする計画です。また、既にデモンストレーション用の店舗はインドネシアのジャカルタから中国の北京、上海など主要都市にも展開しており、こうした店舗網は今後、拡大していきます。

2020年までに研究開発に2400億円を投じる

製品ポートフォリオを急速に拡大しているのはなぜでしょうか。

コンツ:それは、ダイソンにとって自然な流れです。昨年、我々は、2億600万ポンド(約330億円)を研究開発に投じました。それは利益の5割弱にも相当します。また、エンジニアの数も過去数年のうちに徐々に拡大してきました。4年前と比べると、その数は2倍以上に増えています。

 その理由は、ダイソンの発明と革新によって問題を解決できる分野が数多くあるからです。掃除機から空気清浄機能付きファン、LEDライトまで、既に様々な分野に製品の幅を広げていますが、実際、これからさらに新たなカテゴリーに参入していきます。

過去を振り返ると、ダイソンが手を広げたカテゴリーでは失敗もあります。一時、洗濯機にも参入しましたが、消費者に受け入れられず失敗しました。過去の拡大戦略と、何が違うのでしょうか。

コンツ:何か新しいものを発明するビジネスをしている限り、革新的なソリューションを生み出す際には常にリスクも伴います。ある新技術が消費者の手元に届くまでには、数多くの失敗があります。我々の研究所では、何度も何度も失敗を重ねているのです。

 例えば、ロボット掃除機について言えば、実は2005年に世界最初の製品を発売することもできました。しかし、まだ性能的に不十分だと判断して、改良を重ねてようやく昨年、発売したのです。

 過去20年程度を振り返れば、我々が市場に投入した製品の多くは成功していますが、中には1つか2つ、うまくいかなかった製品もあります。しかし、それでいいのです。そこから学ぶことができますから。我々は今後も、リスクを取り続けます。それが、企業を成長させ、世界にある大きな社会問題や技術的な課題に取り組む唯一の道です。

今年、英本社に新たに研究開発センターをオープンしますね。

コンツ:2020年までに15億ポンド(約2400億円)を研究開発に投じることを決めていますが、新たな研究開発センターの開設は、その一環です。まだ建設途中ですが、もうすぐ立ち上がります。そこでは、バッテリーだけではなく、我々の未来を担う技術の開発に取り組みます。

 これまでも利益のかなりの割合を新技術に再投資し、新たな製品を生み出してきました。例えば、3月24日に日本で発表した、新たな空気清浄機はその1つです。

3月24日に発表した「Dyson Pure Cool Link」
3月24日に発表した「Dyson Pure Cool Link」
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 昨今、家庭内に外から汚染された空気が入り込んでいることが問題になっています。例えば、日本では、(PM2.5など)国外から飛んでくる汚染物質が問題になっています。そのため、生活環境を安全に保つための機器が必要とされています。

 また、我々自身も日々、生活環境を汚染しています。料理など日々の活動を通じて、化学物質や様々な汚染物質を家庭環境に持ち込んでいます。しばしば、家庭内の空気は屋外よりも汚染されていることがあるほどです。

 こうした問題を解決するために開発したのが、「Pure Cool Link」と名付けた空気清浄機能付きファンの技術です。センサーで室内の汚染レベルを検知し、自動的に空気を洗浄できます。スマートフォンから室内の空気の状況を把握したり、遠隔で機器を作動させたりすることも可能です。

 さらに、4月末には、日本で全く新しいカテゴリーの新商品も発売します。まだ詳細は言えませんが、こうした新技術の開発を、新たな研究開発センターで加速していきます。

中国はデジタルで世界最先端、半分をECで稼ぐ

日本以外では、中国事業の拡大が顕著ですね。しかも、EC(電子商取引)の比率が極めて高いと聞きいています。

コンツ:中国の成長は非常に力強い。売上高は2015年に前年比で222%伸びましたし、今年も高い成長を見込んでいます。

 中国に進出したのはわずか3年ほど前のことですが、中国の消費者はダイソンの技術を理解してきていると思います。これまでダイソンの技術力が日本での成長をけん引してきたのと同じような状況が、中国でも起きています。コードレス掃除機や空気清浄機能付きファンなど環境コントロール製品が受け入れられています。

 ただし、異なる点もあります。それが、デジタル環境の浸透度合いです。特に、ECの普及度合いは非常に高く、中国は世界で最も進んだEC市場になっています。我々のビジネスでも、半分以上はアリババ集団の「天猫(Tモール)」や京東集団の「JD.com」といったECサイトからの売り上げです。

 今、我々は中国にデジタルの専門家を配置し、そこでデジタルでどのようにダイソンの技術を消費者に伝えていくかというノウハウを蓄積しています。そして、その学んだ教訓を中国から世界の他の市場に展開していこうと考えています。

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