今回ご紹介するのは馬肉料理のお店です。

 競馬ファンの方、馬術を嗜まれる方、単純にお馬ちゃんが好きな方。大変申し訳ございません。馬を食べてきました。いや実にウマかった。

こんなカワイイお馬ちゃんを食べるなんて。人間とはなんと罪深い存在なのでしょう。まあ牛も豚も同じくカワイイんですけどね。みなさん平気で召し上がっておられますが。
こんなカワイイお馬ちゃんを食べるなんて。人間とはなんと罪深い存在なのでしょう。まあ牛も豚も同じくカワイイんですけどね。みなさん平気で召し上がっておられますが。

 日本でもっとも馬肉を食べる県はご存知、熊本県です。馬肉の全国消費量の、およそ半分が熊本で消費されるといわれています。

「子供ん時からウチのカレーば馬肉バイ」

 そういえば先日、熊本県出身の自衛隊の方と話した時、「子供ん時からウチのカレーば馬肉バイ」と言われて驚愕した記憶があります。豚でも牛でも鶏でもない、熊本県ではごく当たり前にカレーに馬肉を入れるのだそうです。つまりそれほど馬肉が日常生活に溶け込んでいるということです。

 東京では珍味扱いされることが多い食材ですが、あちらでは完全にメーンとして食べている。地方により食文化は大きく異なるものです。

話の合間に料理を紹介していきましょう。こちらはサシの入った馬肉の握り。のっけからガツンと食らわされました。美味しい。
話の合間に料理を紹介していきましょう。こちらはサシの入った馬肉の握り。のっけからガツンと食らわされました。美味しい。

 ちなみにこの方と酒を飲むと、「なんや、もういけんとや」(なんだ、もう飲めないのか)と煽られて必ず潰されます。熊本の人は酒量で男の器量を測る傾向があるようです。本当に迷惑な話です。

 さて馬肉料理です。

会員と同伴でなければ店には入れない

 今回ご紹介するのは馬肉専門の「Roast horse」というお店です。馬肉フリークの間ではつとに有名な平山峰吉さんが、小口投資を募って地下鉄日比谷線広尾駅の近くに開いたお店です。

 ちなみにこのディール。出資募集開始からわずか半日で目標金額に到達したのだとか。さすがです。こうしたクラウドファウンディングは本件のようにキチンと形になる場合もありますが、まったく話にもならん詐欺まがいのクソ案件もたくさん転がっています。

 まさしく玉石混交。カネを集める証券会社自体が資金管理も出来ていないビミョー企業だったりすることもあります。気を付けたいものです。

手前からフタエゴ、つくね、オビ。どれも夢にように上手い。今まで食べてきた馬肉は何だったのでしょう。中段のつくねは馬肉をトントンと叩いて、奈良漬と合わせたものです。うーむ。この組み合わせの妙。馬肉の甘みと、奈良漬のまた違う種類の甘みが渾然一体となり、未体験ゾーンへ誘います。
手前からフタエゴ、つくね、オビ。どれも夢にように上手い。今まで食べてきた馬肉は何だったのでしょう。中段のつくねは馬肉をトントンと叩いて、奈良漬と合わせたものです。うーむ。この組み合わせの妙。馬肉の甘みと、奈良漬のまた違う種類の甘みが渾然一体となり、未体験ゾーンへ誘います。

 前号に続き、このRoast horseも簡単には入れないお店です。

 前号の「ボヘミアン」は、一度リピーターと同伴した上で、お店から「また来てください」と承認をもらえればリピートが可能ですが、こちらはさらに厳しい完全会員制です。

 会員と同伴でなければ絶対に店には入れません。たとえ会員の紹介があっても、ビジターのみの入店はお断り。ある意味、東京ゴルフ倶楽部よりも厳しい運営です。

 その結果、馬肉好きの友人が多い会員さんは毎週のように店に通うことになる訳です。だから広告宣伝の類は一切不要。口コミのみでジワジワと人気が出ているのです。

 飲食店の人気の広がり方としては正に理想形と申せましょう。

 今回は畏友本田直之氏の声がけにより、同店の顧問弁護士を努めるイケメン先生のご紹介で入店することが出来ました。ありがたや。

Roast horseに集まった馬肉グルメの面々。
Roast horseに集まった馬肉グルメの面々。

過去に食べた”珍味”系の馬肉は何だったのか?

 さてさて、極上の馬肉料理を順にご紹介してまいりましょう。

こちらは馬肉の大トロに当たる部分です。柔らかく甘みがあり口の中に入れると溶けるようです。上にはウニが載せられています。
こちらは馬肉の大トロに当たる部分です。柔らかく甘みがあり口の中に入れると溶けるようです。上にはウニが載せられています。

 食卓には複数の塩や醤油が用意されていて、それを好みで付けて食します。

 馬肉なんてそんなにたくさん食べられるものではあるまい……と本田氏から誘われた時は実は少々引き気味だったのですが、まったくの杞憂でありました。

 本当に美味しいのです。繰り返しますが、今まで食べてきた”珍味”系の馬肉はいったい何だったのでしょう、私の青春を返して!と叫びたい気分です。

こちらの塊は中トロに当たる部位。ああ、極上。
こちらの塊は中トロに当たる部位。ああ、極上。
これも美味かった。馬のレバ刺しです。
これも美味かった。馬のレバ刺しです。

 例の食中毒事件以来、牛のレバ刺しが禁止されてしまい(知人にだけコッソリ出してくれる店はありますが……)、巷では代用品として馬のレバ刺しを供する店が増えてきました。しかしどこの店のも残念ながらイマイチと言わざるを得ません。

 しかし、鮮度が違うのか血抜きの方法が違うのか。ともかくこの店のレバ刺しはまったくの別物です。痛風がどうとか言っている場合じゃありません。

今日一番驚いたのがこちら。タテガミです。黄色く見えるのはカラスミです。
今日一番驚いたのがこちら。タテガミです。黄色く見えるのはカラスミです。

タテガミに悶絶

 首の後ろ部分というのでしょうか、タテガミの付け根の部分の脂身を出す店はいくらでもあります。しかしどこで食べても美味しいと思ったことはありません。ほとんど脂を食べている様な、文字通りの珍味です。

 ですがこちらのは全くものが違います。しっかりと繊維質があリ、歯応えも味もしっかりしているのです。うーん、これはいったいどういうことだ。

こちらが噂の平山峰吉氏。馬肉にかぎらず、海苔からコメから醤油から、すべての食材にこだわり抜いています。求道者のような雰囲気です。
こちらが噂の平山峰吉氏。馬肉にかぎらず、海苔からコメから醤油から、すべての食材にこだわり抜いています。求道者のような雰囲気です。

 私がタテガミは脂身みたいなものだからなぁ…と呟くと。すかさず平山氏が「他の店のはね」と。

 多くの店がタテガミとして供しているのは単なる脂身である可能性が高いそうです。店自体がそうと知らずに仕入れているケースも少なくないのだとか。生産者としっかり向かい合い、コンタクトをとり続けて強固な仕入れのラインを構築しなければ、超貴重部位であるタテガミがそう簡単に入手できるはずがない、と。

 屠畜される馬の量に対して、市中に溢れるタテガミは明らかに多すぎるとのこと。例のカツ事件もそうですが、料理しちゃえば分かりませんからね。いや食は楽しくも恐ろしい産業です。

駆け足で行きましょう。こちらは焼き物。馬のシャトーブリアンをアーモンドで包んであります。焼き具合も完璧です。肉はピザを焼くような石窯で焼いています。
駆け足で行きましょう。こちらは焼き物。馬のシャトーブリアンをアーモンドで包んであります。焼き具合も完璧です。肉はピザを焼くような石窯で焼いています。
こちらはハラミですね。牛とはまた違う。野趣溢れる味わいです。
こちらはハラミですね。牛とはまた違う。野趣溢れる味わいです。

 牛肉は牛の個体ごとに等級が付けられますが、馬は同じ個体でも部位ごとで等級が異なるのだそうです。そして屠畜は所謂屠場に持っていくのではなく、生産者自らが行うことが多いのだとか。

 ちなみに一昨年の年間屠畜頭数は日本全国で1万3592頭です。少ないからこそ出来るのでしょうね。

こちらはチョウチンと呼ばれる皮下脂肪の一枚裏側の部分。ああ天国の美味。
こちらはチョウチンと呼ばれる皮下脂肪の一枚裏側の部分。ああ天国の美味。

 簡単に入れるお店ではありませんが、何とか知り合いを辿って行ってみてください。

 馬肉に対する概念が根底から覆されます。ああ今日も美味しゅうございました。

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