無料で防災体験学習ができる『そなエリア東京』
無料で防災体験学習ができる『そなエリア東京』

まだまだ暑い日が続く2017年夏。エアコンの効いた室内でダラけている夏休み中の子どもたちを見てイライラが募っている読者の方もいるのでは? しかし夏休みだからこそ、家族みんなで過ごすチャンス。海や山のレジャーもいいが、防災に関する体験学習を考えてみてはいかがだろう。思い出づくりにもぴったりだし、家族全員で防災に関する意識を高めることにもなり、さらに子どもたちの夏休みの自由研究などにもうってつけ。ということで“防災の鬼”渡辺実氏が防災体験学習施設『そなエリア東京』を完全攻略。

 『そなエリア東京』とは、体験型の防災学習施設だ。1都3県の災害応急対策の拠点として整備された東京臨海広域防災公園(東京都江東区有明)の中にある。2010年7月にオープンし、2015年4月にリニューアル。災害をより身近に感じることができる巨大ジオラマを備えた国内でも有数の体験施設として知られ、年間28万人の来場数を誇る。

 ゆりかもめ東京臨海新交通臨海線の有明駅から一望できる施設を眺めながら”防災の鬼”渡辺実氏は次のように語った。

「ぼくは以前から“備災(びさい)”という言葉を提唱しているんです。防災という言葉は災害を防ぐことでしょ、減災は災害を減じるための取り組みですね。ぼくの言う備災は、災害に備えるということ。災害は必ず来るものとして捉え、これにソフトとハードの両面で備える。そういう意味で『そなエリア東京』の取り組みについては興味があるんですよ」

 興味津々の渡辺氏だが、この『そなエリア東京』は果たして防災の鬼のおメガネにかなうのか?

 案内してくれたのは、そなエリア東京のスタッフリーダー、澤善裕氏だ。

そなエリア東京スタッフリーダーの澤善裕氏(右)と“防災の鬼”こと渡辺実氏
そなエリア東京スタッフリーダーの澤善裕氏(右)と“防災の鬼”こと渡辺実氏

 まずは施設の概要から伺った。

「そなエリア東京という施設は、東京臨海広域防災公園の中に設置された学習体験施設です。東京臨海広域防災公園自体は、阪神淡路大震災を踏まえて計画されたものです。阪神淡路の震災では、急遽政府の現地災害対策本部が作られたのですが、被害を広げてしまったという反省がありました。そうしたことから、あらかじめスペースをもうけ、有事の際に素早くスタッフが集まれるような施設を作っておくことが大切だということになり、この公園が整備されることになったのです」(澤氏)

『困る』の先に何があるのか

「もし東京首都圏を阪神淡路級の災害が襲ったら、現地災害対策本部を設置する場所を確保するだけでも大混乱になるでしょうから、事前に備えておくことは大切ですね」(渡辺氏)

「この場所が南関東の扇の要にあたる場所ということもあって、当防災公園施設が整備されることになりました。また、有事の際に機能するだけでなく、平時から市民の皆様の防災意識を高める教育を行うことができればさらに地域の安全に寄与できるはず、ということで防災体験学習施設である『そなエリア東京』を併設する運びとなったわけです」(澤氏)

 普通に生活している人たちに「もし今、大きな災害が起きたら?」と質問すると、『困る』という答えが帰ってきがちだと澤氏は言う。そして多くはそこで止まってしまう。「どう困るのか」「何がなくて困るのか」という具体的なイメージがわかないのだ。

 『そなエリア東京』は、災害未経験者の『困る』の先にあるものを見せてくれる。まずは「防災意識」の植え付けだ。

「災害が起きて『困る』。その時に家族とどう過ごすのか、そもそも発災時に周りに家族はいるのか。父や夫は仕事に行っているかもしれない。母や妻も職場かもしれないし買物に行っているかもしれない。子どもたちは学校で被災しているのかもしれない。そんな場合、どうやって連絡をとるのか。どこに集まるのか、再会するまでどう過ごすのか。そうしたことをまずはお話しします」(澤氏)

「ハードとソフトという考え方で言えばソフトの部分ですね。ぼくはもう口が酸っぱくなるほど言っているけど、人は突然、被災者になります。被災する全員がそうです。パニック状態になる人も多いでしょう。誰もが家族や恋人に連絡を取ろうとする。一斉にそうなります。固定電話や携帯電話などは回線がパンクして、つながらないと覚悟しておいたほうがいい」(渡辺氏)

「そなエリア東京では『東京直下72h TOUR』と題した体験学習を実施しています。発災から72時間をどのように過ごせばいいのか、実物大のジオラマを歩きながら体験学習するというものです」(澤氏)

「俗に『72時間の壁』と言ったりするのですが、つまり3日間ですね。これを過ぎると生存率が急激に下がると言われています。行方不明者などの救助は72時間をひとつの目安にしていますね。別な言い方をすれば、発災から3日間生き延びることができればなんとかなる、という目安でもあるわけです」(渡辺氏)

 2階の防災学習ゾーンでは、日用品を使った「生き残る」ためのアイデアなどを図解で分かりやすく展示している。

身の回りにあるものを利用して「生き残る」ためのアイデアを展示するスペース
身の回りにあるものを利用して「生き残る」ためのアイデアを展示するスペース
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72時間の壁をどう乗り越える

「例えば被災現場では水が不足することがあります。食器を洗うことができないこともある。しかし衛生的に過ごすためには汚れを落とすことが望ましい。そんな場合は食品ラップを皿の上に敷いて使い、食後にラップだけを捨てるようにすれば皿そのものが汚れることはありません。また腕を負傷したときなどに使えるレジ袋を用いた三角巾の作り方などを展示しています。

 施設全体をひとまわりして、発災から72時間を無事にすごす方法を身に着けてほしいと思っているのですが、もちろんここで学んだことだけでなんとかなるような甘いものではない。ただ『なんとかしなければ』という意識を持つことは可能だと考えています」(澤氏)

 発災後、丸1日くらいであれば救助の手が届かなくてもなんとかなるかもしれない。しかし3日間は長い。知識や心構えがゼロの状態ではどうにもならない。澤氏はそこに気づいてほしいのだと、言葉を重ねる。

「3日間となると生活のレベルです。3日間を被災後の不自由な中で生活することの困難さを例えば家族で話したりしてもらいたいわけです。そなエリア東京がそうしたことのきっかけになればと考えています」(澤氏)

「最初の3日間は生き残るための努力です。しかしその後も被災者としての生活は続きます。だから現実には1週間は頑張って欲しい」(渡辺氏)

 阪神淡路大震災では街中の電信柱がいたるところで倒壊し、大規模停電が発生した。被災者たちは電気のない生活を強いられた。完全復旧したのは発災から約一週間後だった。そうした現実を踏まえ、渡辺氏は「発災から一週間」を目安に備災することを提唱する。

「人は何があっても『自分だけは大丈夫』と思いがちです。災害が襲ってきても自分だけは助かると心のどこかで考えている。だから防災意識も低いままです。防災意識を高めるのは自分だけのためじゃないんです。家族で防災し、地域で防災することで、その地域は被災しても無事でいられるかもしれない。そうなれば救助側は別の場所に力を注ぐことができる。つまり防災意識を高めるということは自分や自分の家族以外の人たちのためでもあるわけです」(渡辺氏)

首都直下地震が起こった場合の最大震度の分布をビジュアル化したディスプレイ
首都直下地震が起こった場合の最大震度の分布をビジュアル化したディスプレイ
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 2階の首都直下地震特設コーナーには関東全域の立体地図に映像を投射し、各地域の最大震度の分布を「見える化」した装置なども並ぶ。防災意識を高める試みとしては素晴らしいと思うのだが、“防災の鬼”渡辺実氏の表情は冴えない。

 渡辺氏は「全体的に悪くないと思うのですが」と前置きしてやおら吠え始めた。

 明日公開の後編では鬼から『怒涛のダメ出し』が出る!

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