ザ・ビーチ・ボーイズの名曲『Good Vibrations』でも歌われていますが、私たちも日常会話の中で体験し、さまざまな言葉で表現しようとする「ある感覚」があります。それが起こるタイミングというのははまさに『God Only Knows(神のみぞ知る)』です。

過去の人生最高のデートについて、あなたは友だちに、「最初から心が通じ合ったんだ」と話したことがあるかもしれません。あるいは、とりわけ収穫が多かったミーティングのあとに「みんなの波長がぴったりと合った」などという表現を使う人もいるでしょう。

日常的に使われるこうした言葉の中には、出会った2人の「波長が合う」経験を表現する言い回しが数多くあります。でも、これは単なる言葉のアヤで、音楽や詩、あるいは気恥ずかしくなるほどロマンチックな人たちを例えるメタファーでしかない、と思われるかもしれません。常識的で科学に基づいて考える大人なら、人間の脳が他人の脳と文字通り「波長を合わせる」ことなどあり得ない、と考えるのが普通でしょう。

ところが実は、そう考える人もあっと驚くような研究成果があるのです。「グッド・バイブレーション」「波長がぴったり合った」、さらに極端な場合は「心が1つに溶け合った」などと表現する感覚を、神経科学では「脳のカップリング」と呼びます。しかもこれはどうやら、実際に起きていて、測定可能で、研究によってその存在が確認されている現象のようです。

デートの成否は脳を見ればわかる?

科学者の研究方法は実にさまざまです。聞き取り調査を実施し、チェックリストを検証していく研究者もいれば、標本の精査やテストを実施する人もいます。プリンストン大学の神経科学者Uri Hasson氏が採用したやり方は、これらの手法とは少し異なっていました。同氏はfMRI装置を用いて、込み入った日常活動を行っている最中の人々の脳内を覗いてみたのです。日常活動とは、映画を観る、最悪だったプロムのエピソードを聞く、といったものでした。つまりHasson氏は、実生活を実験室に持ち込んだわけです。

「Princeton News」の解説によると(この研究について教えてくれた「Soul Cafe」にも感謝です)、Hasson氏の研究によって、脳が時間の経過と共に情報を取りまとめる興味深い仕組みが判明したとのことです。加えて、2人の人間が深いところで心を通わせた時に起きる、驚くべき現象も明らかになりました。この研究によると、心の底から共感している人同士では、脳の活動が文字通り、鏡で映したようにシンクロするというのです。

Hasson氏が率いる研究チームが、「最悪だったプロム」のいきさつを語る人と、その話を聞く人の脳をスキャンしたところ、2人の脳のスキャン画像は驚くほど似ていることがわかりました。話を語るのと聞くのは、言うまでもなく、まったく異なる脳の機能です。さらに興味深いことに、スキャン後の面談で測定したお互いの共感度が高ければ高いほど、お互いが「通じ合う」程度も高まったのです。つまり、脳のスキャン画像がより近くなったと言うことです。

「話し手と聞き手の脳の反応におけるカップリングの程度が強くなればなるほど、理解度も高まりました」と、Hasson氏は「Princeton News」で自らの研究成果について解説しています。「誰かに話していると、どうにも言いたいことが通じない、ともどかしく感じる時もあれば、真意が通じ合ったという手応えを得られる時もあります。お互いを真に理解し合った時には、時間の経過と共に脳の反応も似通ってくるのです」

Hasson氏の研究に関する2010年の記事で『Wired』が指摘しているように、この現象についてはまだわからないことが数多く残っています。この現象が起きる正確な仕組みや、実際に会って話す場合の反応と、電話やテレビ会議を通じた場合の違いなどは不明のままです。とはいえ、ここまでの研究結果は、人が長年にわたり本能的に気付いていた直感をスマートな形で裏付けるものです。これにより、誰かと「波長が合う」体験は実際に存在することが、科学的に確かめられたと言えるでしょう。

Hasson氏の研究についてさらに詳しく知りたい人は、同氏が自ら語ったTEDトークの動画をご覧ください:

Jessica Stillman(原文/訳:長谷 睦/ガリレオ)

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