今後やってくる20XX年問題を紹介するコラムの後編です。本稿では2020年以降に起こる20XX年問題を紹介することにしましょう。

2020年問題 ~大学入試の大改革~

 まずは2020年のお話から。2020年は大学入試の改革が予定されています。関係者はこの改革のことを「高大接続システム改革」と呼んでいます。この時に高校生や大学生になるお子さんがいる家庭では、すでにこの話題に高い関心を寄せていることでしょう。

 2020年(まで)に予定されている改革内容は以下の通りです。

 まず現行の大学入試センター試験(センター試験)が、2020年1月の試験を最後に廃止されます。ただこの「最後のセンター試験」は、いわゆる浪人生の救済を目的とした経過措置となる予定です。

 いっぽう、現役の受験者は「高等学校基礎学力テスト」と「大学入学希望者学力評価テスト」(ともに仮称)という2つのテストを受けることになります。

 高等学校基礎学力テストの方は、高校での学習到達度を確認する目的を持っています。受験資格を有するのは高校2年生と3年生。つまり高校2年生の時点で、卒業に十分な学力を持っているかどうか確認できるわけです。最初の試験は「2019年」に行われる予定です。

 いっぽう大学入学希望者学力評価テストの方は、大学に入学するのに相応しい学力を持っているかどうかを確認します。現在のセンター試験の実質的な後継となるテストです。このテストの実施要項はまだ決まっていませんが、現在のセンター試験と異なり「年に数回」実施する構想があります。

 また各テストで、教科の取り扱いや解答方法にも大きな変更が加わる予定です(例:複数教科を横断する出題、コンピューターに解答を直接記入する方式など)。さらには各大学が実施する個別の試験(現在の前期試験・後期試験)の内容も大幅に変更されるかもしれません。

 現在、この改革案は文部科学省の「高大接続システム改革会議」が検討を進めているところ。原稿執筆時点で、最終報告の原案が示されている段階です。本稿が公開される時には、最終報告が発表されニュースになっているかもしれません。ぜひとも注目してください。

 そのほかの2020年問題も紹介しましょう。まず「マンションの2020年問題」は、五輪終了後にマンション価格が暴落する可能性を指摘する問題。「企業の2020年問題」は、団塊ジュニア世代(1971~74年生まれ)が40代後半の世代を占めるようになり、管理職のポストが不足する問題を指します。

 変わったところでは――しかしながら国際社会が直面する深刻な課題を反映した問題では――「チョコレートの2020年問題」があります。これはこの年にカカオの需要量が供給量を超えてしまう問題です。問題の背景には、地球温暖化や新興国における需要増が絡んでいるといいます。

2025年問題 ~団塊世代が後期高齢者に~

 ここからは2020年代の20XX年問題を紹介しましょう。

 2020年代における最大のトピックは「団塊世代の2025年問題」だと思われます。これは、団塊世代(1947年~1949年生まれ)の全世代が後期高齢者(75歳以上)になることを指します。(注:団塊世代のうち最も年下である1949年生まれの人が75歳になるのは2024年。202「5」年問題となっているのは、厚生労働省の高齢者人口予測が5年区切りであるためだと思われる)

 ちなみに2025年における高齢者人口の割合は、厚生労働省の予想によると65歳以上が30.3%、75歳以上が18.1%となっています。

 以上のような高齢者人口の増加は、以下に示す様々な問題を引き起こすことになります。

 例えば認知症を患う高齢者の絶対数が増えます。厚生労働省は「認知症高齢者の日常生活自立度がII以上」(注:度合いが大きいほど生活が困難化する)の人数は470万人(65歳以上の人口に占める割合は12.8%)になると見込んでいます。もちろんこれは、介護・医療費の増大を招くことになります。

 また高齢者世帯が増加します。具体的には、世帯主が65歳以上の単身世帯が2025年には76万世帯に、同じく夫婦のみの世帯が63万世帯になります。この両者を合わせると、全世帯の28.0%を占めることになるのです。これは孤独死、孤立死、老々介護などの問題を引き起こす原因になります。

 以上の問題は社会保障、介護・医療、都市計画など広範なトピックに関わる社会問題といえます。今後も2025年問題という言葉を目にする機会が増えると思われます。ぜひとも頭の中にとどめておいてください。

 では2020年代におけるそのほかの問題を紹介しましょう。まず注目したいのは「コンピューターの2025年問題」。別名を「昭和100年問題」といいます。2025年は昭和100年にあたるため、内部的に年を昭和(2桁のデータ)で管理していたシステムが、誤動作を起こす可能性が指摘されています。いわば「2000年問題の『昭和版』」です。

 また「住宅市場の2022年問題」を指摘する向きもあります。これは都市部にある生産緑地(住宅地内の農地)について、2020年以降、固定資産税の減税などが終了する事態を指します。これにより大量の農地が住宅地として売りに出され、住宅市場が供給過多に陥る(つまり空き家が増える)可能性が指摘されているのです。

2033年問題 ~旧暦の「月決定ルール」が破綻~

 ここからは2030年代です。2033年には、ふたたび旧暦に関する大きな問題が発生します。前編で紹介した2017年問題では「六曜が決まらない」という問題が発生しました(参考「2017年3月25日は大安? それとも仏滅?」)。2033年には「そもそも旧暦の月をどう決めればよいのか分からない」問題が発生します。

 この問題は新暦(現在の暦であるグレゴリオ歴)の2033年9月から2034年4月にかけて起こる現象です。かなり複雑な話なので、ここでは「概要」の説明にとどめます。

 まず旧暦(天保暦)の月は、月の満ち欠けを観測して決めます。具体的には朔(月がもっとも見えなくなる)の日から、次の朔の前日までが、旧暦における「月の期間」となります。

 このルールにもとづいて2033年後半から34年前半にかけての状況を整理すると、下表(1)のようになります。ここまでは何も混乱はありません。なお表中では、旧暦の月名を便宜的に「ア月」~「キ月」で表しています。

 しかしながら、月の名前を具体的に決定する際に問題が生じます。旧暦で月名を決める際の最大のルールはこうです。「冬至を含む月は11月、春分を含む月は2月、夏至を含む月は5月、秋分を含む日は8月となる」。これにしたがって、前掲の表を書き換えたものが下表(2)です。ここで「ある不具合」にお気づきになったかもしれません。

 そう。「月がはみ出す」「月が足りない」という問題が起こるのです。例えば旧暦2033年8月と11月の間には、本来9月と10月が入らなければなりませんが、枠からはみ出してしまいます。逆に旧暦2033年11月と34年2月の間には、本来33年12月と34年1月が入らなければなりませんが、枠を埋めるには足りません。

 月が枠に足りない場合は「閏月(うるうづき)」を設けて解決する方法があります。これは旧暦ではよく登場する方法です。しかし閏月を置くためのルールも、当該期間に限って破綻してしまうのです。なお閏月ルールの詳細については、かなり複雑ですので、ここでは省略させてください。

 とにもかくにも、表中のイ月・エ月・オ月・カ月は、旧暦の何月なのかが分かりません。もっと言えば「11月をずらすかどうか」でウ月の月名すら変わる可能性もあるわけです。

 このような不具合は、いわば「旧暦(天保暦)のルール」が不完全だったために発生するもの。天保暦が定まった1844年から2032年までは「たまたま」ルールの不完全さが表出しなかっただけなのです。このルールをうまく変更しておかないと、2147年、2223年にも同じようなルール破綻に直面することになります。

 そこで暦の関係者の間では、ルールをどのように変更すればよいのかについて、検討が続いているようです。

2045年問題 ~シンギュラリティーの到来~

 世界トップクラスの棋士であるイ・セドル(韓国)と、グーグル・ディープマインド社が開発した人工知能「アルファ碁」との囲碁5番勝負が大きな話題になっています。

 事前の予想はイ・セドルが優勢というものでした。いや、実際には多くの関係者がイ・セドルの「圧勝」を予想していました。しかしながら執筆時点において、アルファ碁は初戦から3戦まで連勝し、勝ち越しを決めました。

 この出来事は、広く一般社会に衝撃を与えました。IT・人工知能・科学技術史・未来学などに詳しい人々の間では「『シンギュラリティー』を感じられる出来事が、こんなに早く訪れるとは思わなかった」との感想が飛び交っています。

 このシンギュラリティー(singularity)とは「技術的特異点」と訳される概念のこと。つまりテクノロジーが高度に発達することで、非連続的かつ不可逆な影響が社会に及び始める状況を指します。

 このシンギュラリティーが2045年に訪れると予測している人物がいます。米国のレイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)です。彼は半導体における「ムーアの法則」(コンピューターの処理能力や集積度が指数関数的に増えるとする考え方)を、技術全般を取り扱う概念に一般化しました。これを「収穫加速の法則」といいます。

 そしてカーツワイルは、この法則に基づいて次の趣旨の予言をしているのです。「2045年には1000ドルのコンピューターの演算能力が人間の脳の100億倍になり、技術的特異点の土台が生まれていることだろう」。

 このような技術環境が訪れた時に、人間社会がどのように変容するのか。様々な予測が存在します。悪い予測は、SF映画のように人工知能が人間を支配するというもの。楽観的な予測は、これまで解決困難だった社会的課題の解決が容易になる、というものでしょう。

 ここ最近、人工知能に対する注目度が日増しに高まっています。その注目度の高さと比例するように、人工知能が及ぼすであろう社会的影響への興味も高まっているようです。みなさんもこの機会にぜひ「シンギュラリティー」「収穫加速の法則」「2045年問題」という言葉を覚えておいてください。

未来の社会問題をあぶり出す、良いツール

 ということで今回は前後編の2回に分けて「未来の20XX年問題」を総ざらいしました。

 紹介した言葉以外にも、世間では実に様々な20XX年問題(もっと言えば西暦2100年以降も続くであろうX年問題)が提案されています。みなさんもぜひ、ご自身で調べてみてください。差し当たって「1万年問題」あたりを調べてみると、色々と面白い発見があると思います。

 最後に今回紹介した20XX年問題を、トレンド別に分類してみることにしましょう。以下の表をご参照ください。

[画像のクリックで拡大表示]

 このように、現在存在する20XX年問題には、主なものだけでも「旧暦」「東京五輪」「少子高齢化」「大学」「制度終了」という大きなトレンドが存在します。つまり私達はこれらの問題について「警鐘を鳴らすに値する懸念を持っている」わけです。

 20世紀末に突如として登場した「20XX年問題」という言葉は、どうやら「未来の社会問題」をあぶり出す、良いツールとして生き延びているようです。

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