2017.5.23

ノルウェーのドラマ「SKAM」(スカム)が話題を呼んでいるのをご存知でしょうか。国民の4人に1人が視聴し、高い支持を得ています。

 

ノルウェーの国営放送局「NRK」(日本における「NHK」)が制作しているSKAM。SKAMは2015年の9月にシーズン1の放送がスタートしました。そして2017年5月16日現在、最終シーズンであるシーズン4が放送中です。各シーズンで主人公が変わり、それぞれテーマも変わります。各シリーズのテーマは高校生の恋愛、友情、いじめ、同性愛、性犯罪、未成年飲酒、宗教差別など、どれもデリケートかつリアルな問題を取り扱っています。


国営放送局がインターネットとテレビの融合を

SKAMが話題を呼んでいる理由は、扱っているテーマやそのストーリーによるものだけではありません。それは今までにない放送スタイルを取っていることです。

 

従来のテレビドラマというのは、決まった時間に決まった長さの動画コンテンツがテレビでのみ放送されるものでした。しかし、現在はスマホの普及によって、若者のテレビ離れが起きています。そこでSKAMは、テレビドラマとインターネットをうまく融合させました。SKAMは、通常のドラマのように複数のシーンを1つにまとめてテレビで放送するのではなく、それぞれのシーンを切り離して、公式HP上で小出しに放映しました。

 

加えて、SKAMの公式HPに投稿されるのは、動画コンテンツだけではありません。例えば、動画コンテンツで主人公が親友と同じ人を好きになってしまったと親友に告白する映像が放送されると、その日の夕方には主人公と親友のFacebook messenger(フェイスブック メッセンジャー)のやり取りが公開されます。さらに、別のシーンでは主人公と友人が映るInstagram投稿が行われます。これらは公式HP上で、そのスクリーンショットや埋め込み画像が投稿されるため、ユーザーは公式HPを閲覧すれば良い仕組みとなっています。

 

そしてインターネット上に投稿された、1週間分の動画コンテンツだけをつなぎ合わせ、毎週金曜日にまとめてテレビで放送しています。つまり、テレビで見るよりも先に、公式HP上で、動画やストーリーに沿った主人公たちのSNS投稿を見ることができるのです。

 


公式HPに投稿された動画コンテンツ


公式HPに公開されたFacebook Messengerのトーク画面


公式HPに投稿された主人公が自撮りを載せているInstagram


現実世界とリンクしたタイムリーな投稿で没入していく

次の投稿がいつ行われるかを一切告知しないのも人々を惹きつけている理由の1つです。

 

さらに、各コンテンツが公式HPに投稿される時間にも、工夫がなされています。例えばドラマの中の設定が、土曜日の午後2時からスタートする動画クリップだと、ネットに投稿される時間は同じく土曜日の午後2時。ドラマ内の設定で、木曜日の午後4時に主人公が友人と交わしたFacebook Messengerのスクリーンショットだと、公式HPに投稿されるのも木曜日の午後4時。

 

このようにドラマの中の世界と現実の世界の時間感覚をマッチさせることで、ドラマの中の出来事が現実でも起きているような感覚に陥ります。インターネットやSNSのフォーマットをうまく活用した仕掛けによって、SKAMは若者を中心に、日常生活に溶け込み、熱狂の渦を作りました。


熱狂の背景にあるノルウェーのスマホ事情とは

今までご紹介したように、SKAMはいくつもの巧みな仕掛けを用いて多くの人を惹きつけてきました。こうした背景には、ノルウェーのスマートフォンの普及率の高さがあります。


アウンコンサルティング プレスリリースより

 

日本に比べてはるかにスマートフォンの普及率が高いノルウェー。ノルウェーでは、日本に比べて、従来のテレビ番組が年々見られなくなっています。この状況を受け、国営放送局であるNRKが大幅な方針転換を行ったのです。

 

NRKのSKAM担当プロデューサーは「これまでテレビ番組を作る上でテレビは必需品だと思っていた。しかし、時代は変わり、現在視聴者がいるのはスマホの中である。」と語っています。国営放送局の思い切った政策が、爆発的ヒットをもたらしました。ノルウェーの国営放送局がこうした手法をとって、テレビコンテンツを若者に流行らせたことは、とても先進的な事例と言えるのではないでしょうか。

 

Written by
竹林広
1996年生まれのフリーライター。京都出身。慶應義塾大学文学部に在学し、人間科学を専攻。フリーライターの父を持ち、父の働く姿を見てライター業に興味を持つ。趣味は麻雀。
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竹林広
1996年生まれのフリーライター。京都出身。慶應義塾大学文学部に在学し、人間科学を専攻。フリーライターの父を持ち、父の働く姿を見てライター業に興味を持つ。趣味は麻雀。
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