平均寿命が男女ともに80歳を超え、世界一の長寿国として知られる日本。そこで暮らす私たちにとっても、決して人ごとではないのだ。ならばどんな思いを胸に抱いて「100歳の門」を叩(たた)けばいいのだろう−。
東京・信濃町の慶応大学病院には、「百寿総合研究センター」という部門がある。その名の通り、超高齢社会に対応した、健康長寿を支えるための治療法や予防法の開発を目的に、昨年新設された組織だ。
ここの特別招聘(しょうへい)教授を務める広瀬信義医師は、20年以上にわたって100歳以上の高齢者を対象に研究調査を続けてきた、日本における「超長寿研究」の第一人者だ。
そんな広瀬氏が著した新刊が「人生は80歳から〜年をとるほど幸福になれる『老年的超越』の世界」(毎日新聞出版刊)だ。
100歳を超えると「百寿者」、105歳を超えると「超百寿者」と呼ぶそうだが、この年代層を研究対象とする著者から見れば、80歳はまだ若造。そこから先に多くの楽しみが待っていることを、実際に経験している百寿者たちの実像から検証した1冊だ。
百寿者に多く見られる病歴や生活習慣との関連など、医学的な側面からの詳細な検証がある一方、100歳を過ぎてもなお元気で暮らす人たちの「心のあり方」にも焦点を当て、そこに共通してみられる「幸福感」を浮き彫りにしている。
多くの百寿者を対象とした聞き取り調査からは、彼ら彼女らが老いていく自分を嘆くことなく、老いを認め、受け入れることで、そこに幸福感を生み出していることがよくわかる。
たとえば「生きていても仕方ないと思うことはあるか」という質問に対して、109歳の男性は「ない。死んだら何もできないじゃないか」と即答している。
「今まで幸せだったか」という問いに対して超百寿者の女性は「幸せだと思ったことは覚えていない。でも、悲しいとかつらいことの記憶がないので、幸せだったと思う」と答えている。
無理してポジティブに考えるのではなく「現状を受け入れる」ことが思考を前向きにし、百寿者たちの幸福感を根底で支え、結果的に身体的な健康をアシストしていることは確かなようだ。
「超高齢化社会で、私たちがどう生きていけばいいのか? そのお手本を百寿者の方たちが示してくれているような気がします。あれこれ気に病まず、上を見て生きていこう…。そんなメッセージがこの本から伝わってくると思います」と語るのは、編集を担当した毎日新聞出版図書第二編集部の五十嵐麻子編集長。
前の東京オリンピックが開催されたのが1964年。その前年の63年の時点で、日本の百寿者は153人だった。それが約半世紀後の14年には5万8820人にまで急増している。特に平成に入ってからの百寿者の増加率は著しく、私たちが将来その仲間入りをすることは、決して夢物語ではないことを統計が示しているのだ。
その時のために、今のうちに「百寿の世界」を覗いておくことは、決して無駄にはならないだろう。 (竹中秀二)
■百寿者に多く見られる性格
・不安の強さ、細かいことによく気が付く
・社交的、活動的、派手好き
・創造的、好奇心旺盛
・思いやりがある、周りに合わせる、依存心が強い
・意志が強い、きちょうめん、頑固