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機能訴求から感情訴求へ 花王が動画視聴者の感情から見出したコミュニケーション

 デジタルマーケティングを急速に進めている花王が、動画視聴者の(特定の)感情を高めてブランドのプレゼンスを高める「感情訴求」を日本にもたらそうとしているイギリスのアンルーリーと手を組み、2016年から動画マーケティングを開始。花王の鈴木愛子氏と板橋万里子氏、アンルーリーの香川晴代氏にこの取り組みについて訊いた。

 これまでマス広告中心に商品の機能訴求やベネフィットのアピールを行ってきた花王が、「感情訴求・感情分析」に基づいた動画マーケティングに取り組み始めた。

 これを得意とするのが、イギリスに本社を置く動画アドテクノロジー企業のアンルーリーだ。花王では2016年からアンルーリーと手を組み、自社の動画を視聴者の感情面から分析。ノウハウのない動画マーケティングの領域に新たな知見がもたらされたという。

 今回、花王のデジタルマーケティングセンター長に着任した鈴木愛子氏と、同センターのコミュニケーション室長を務める板橋万里子氏、そしてアンルーリー日本支社の代表取締役である香川晴代氏に、取り組みの背景や目的、成果についてうかがった。

課題は動画の効果測定

鈴木:私は昨年までマス広告を内製しているセクションにいて、今年からデジタルマーケティングセンターに異動となりました。弊社は元々マス広告を中心にお客様へのコミュニケーションをしてきましたが、今後、事業カテゴリーごとにお客様とより深くつながっていくうえでは、マス広告だけでなくデジタル、特に動画も必要だと考えるようになりました。

 私自身、マス広告を作っていた頃からお客様と深くつながりたいと思っていて、一人ひとりと最適なコミュニケーションをしたいという気持ちはありました。ですが、テレビを中心としたマス広告だけではどう伝わっているか詳細がわかりません。ようやくそのための手段を使えるようになったことが、今回取り組むことになったきっかけの一つです。

板橋:動画にフォーカスしたのは、やはり動画によるマーケティングに注目が集まったからです。その背景には若い人がYouTubeなどで動画を観るのが当たり前になってきたことがあり、さらに動画をユーザー自身が手軽に作れる環境も生まれてきたからです。

鈴木:弊社ではテレビCMについては制作ノウハウや効果測定の方法はある程度確立しています。ただ、それは15秒や30秒の長さ、地上波で打つ、商品の機能訴求をするという前提で構築されてきたものなので、長さに制限がなく、視聴態度や好まれる要素もテレビと異なるWebの動画で、どのように制作して効果を測定すればいいのか困っていました

 なんらかの効果検証の方法がないかと思案していたときに、アンルーリーさんに出会ったというわけです。

鈴木愛子氏
鈴木愛子氏:花王 デジタルマーケティングセンター長

無意識と意識的な判断の両方を測定する

香川:花王さんとお話ししたとき、感情への着目が挙げられました。弊社は感情訴求型の動画を制作するためのノウハウはもちろん、動画を観た方の心理反応を分析する手法も持っています。そこで、既に公開されていた動画を分析してみることになったんです。

 調査の対象とした動画では、感情に訴えているか、ブランドへの好意が高まったか、より詳しく知りたいと思ったか、買いたいと思ったか、といった評価をしました。

 結果としては、同じ商品カテゴリーの動画の平均値を上回る数値でした。また、それが動画中のどのシーン、どの要素から影響を受けたものなのかも分析できます。今回は商品ターゲットとされる中高年層、40代と55歳以上で比べてみました。やはり、年齢によって動画のどんな要素に反応しているか、ストーリーのどの部分で強く感情が動いているかが異なることがわかってきました。

鈴木:アンケートだけだとバイアスがかかる懸念がありましたが、アンルーリーさんの調査方法では顔の筋肉の動きも測定することができますよね。

香川:自然に動画を観ているところをカメラで撮り、笑顔や嫌な顔になったタイミング、驚いたシーン、あるいは集中しているかどうかを測定します。どうして笑ったのかは質問しないとわかりませんから、視聴後、アンケートで尋ねるんですね。

鈴木表情は嘘をつけません。アンケートの回答と照らし合わせてチェックできるので、非常に信頼できるデータになると思います。

 テレビCMの効果測定の場合は、こちらからの質問に対する反応を蓄積してきました。ですが普通、よほど強い感情が起こらないと「どちらでもない」と答えてしまいがちです。また、人間は必ずしも合理的な判断ができているわけではないので、バイアスが心配でした。

香川:その点、弊社ではノーベル賞を受賞した行動経済学者のダニエル・カーネマンが唱える理論に基づいた調査方法を採用しています。

ファスト&スロー』でも書かれていますが、人間はシステム1とシステム2という2種類の方法で意思決定しているそうです。システム1は表情など判断をともなわない自動的な反応、システム2は思考をともなう意思決定です。

 動画を観てどんな感情になったか、購入する気持ちになったかを言葉で答えたり、シェアするかどうか判断したりすることはシステム2に当てはまります。ですから、システム1の反応も測定したほうが正確なのは間違いありません。

香川春代氏
香川晴代氏:アンルーリー 代表取締役

シェア(行動)の結果は数字で見えても、動機は見えづらい

香川:動画をシェアするというのはわかりやすい態度変容ですが、人がシェアする理由はたくさんあります。今回調査した動画だと、「誰かのためになりそう」「同じことに興味のある人同士で共有したい」「友達の意見を訊きたい」という3種類が多数派でした。

鈴木:シェアする動機を視聴者に尋ねるというのはとても新鮮でした。シェアしたという行動は数字として見ることができますが、その理由を個別に尋ねて回るわけにはいきませんから

板橋:「いいね」やリツイートでプレゼント、という施策もありますが、それはユーザーが本心で「いいね」しているわけではありませんから、なぜ人に紹介したくなるのか、話したくなるのかというシェアの動機はとても大事にしています。そこがわかるというのは非常にありがたいですね。

香川:ビジネスの動画なので、ブランド名やその価値が伝わったかも重要です。日本の動画で特徴的なのは、ブランドロゴが動画の最後に、そっと控えめに登場することです。調査で明らかになっているんですが、実は怖がらず前のほうでブランドロゴを出しても大丈夫なんですよ。

鈴木:それを最初にうかがったときは衝撃でした。機能訴求ではなく感情訴求をするとき最初のほうでロゴや商品を出したら印象がよくないのではと思っていました。ところが、そんなことはないと。

香川:さすがに冒頭から出すと「広告が始まる」と身構えられてしまいます。なので、少し経って感情の反応が見られ始めたときに出すのがいいんです。覚えてもらうために少し長めに出すのも大事です。

鈴木:テレビCMでも、早めに商品と商品名を提示するやり方がありますが、何の広告か、どのブランドかわからないことはWebの視聴者にとってもストレスになることがわかりました。

香川:ユーザーが動画を最後まで観てくれる保証もないため、最初のほうで提示するのは有効です。

 また、日本のテレビCMは有名タレントの起用が多いですが、動画ではいかに有名で旬のタレントが出演していても、シェアしたいという感情が高まっていないと行動にはつながらないことがデータではっきりしています。

鈴木:タレントが出演しているだけではダメなんですね。テレビCMの場合はシェアという行動がなかったので、タレントの好感度によって15秒という短い時間だけ視聴喚起できればよかったんです。しかし、Webではそうはいきません。こうしたノウハウが蓄積されていくのはとても新鮮ですね。

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この記事の著者

渡部 拓也(ワタナベ タクヤ)

 翔泳社マーケティング課。MarkeZine、CodeZine、EnterpriseZine、Biz/Zine、ほかにて翔泳社の本の紹介記事や著者インタビュー、たまにそれ以外も執筆しています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2017/04/25 07:00 https://markezine.jp/article/detail/26318

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