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プロ野球

新守護神・カミネロが抱える投手としての危険性

写真提供:共同通信


■平均151キロ、スピードは十分

 開幕から約3週間が経過し、今季から各チームに加わった新外国人選手たちも、徐々にその実像を見せ始めている。昨季MLB57試合登板の実績を買われ巨人に入団したアルキメデス・カミネロもそのひとりで、ここまで抑えとして6セーブ、防御率1.69とまずまずの成績を残している。だが、その投球内容を細かく見てみると、これから30試合、40試合と登板を重ねていく上ではやや心配になるような、危うい面も少なからず持ち合わせているようだ。

 カミネロのウイニングショットは、最速160キロを超える速球だ。ここまでの登板で記録したストレートの平均球速は151.1キロで、球界でも指折りのパワーピッチャーであることが分かる(表1)。もっとも、カミネロの投球フォームはスリークオーター気味で、そこから投じられる速球はシュート回転の要素が強く、多くの日本人投手やチームメイトのマシソンが投げるようなきれいな軌道ではない。このような場合、なかなかボールがバットの上を通過しづらく、思うように空振りが取れないケースが発生するが、カミネロの場合はいまのところ球速に対して相応の確率で空振りを奪えており(表1:コンタクト率)、球質の問題をスピードでカバーしている形とも言えるだろう。

■ゴロ率27.6%、極度のフライボールピッチャー

 では、カミネロが抱える危うさとは何か。それは、バットに当てられた際のボールの行方だ。ここまでカミネロが打たれたインプレーの打球は全部で29本あるが、そのうちゴロの打球はわずか8本しかなく、割合にすると27.6%にとどまる。もちろんまだ母数が少ない状況ではあるものの、このゴロ率の低さはカミネロが極度のフライボールピッチャーであることを示す顕著なデータだ。打たれたフライ打球のほとんどが外野ゾーンまで飛ばされ、そのうち1本が本塁打、5本がフェンス手前まで達している点も、今後に向けて大きな不安材料と言える。

 フライボールピッチャーのデメリットは言うまでもなく、本塁打ないし長打を打たれる危険性が高いことだ。上の図を見て分かるように、NPB全体の傾向として、ゴロ率が高い投手ほど本塁打を打たれる確率は低くなる。ゴロの打球がフェンスを越えてスタンドインすることは絶対になく、長打と言う意味でも、限られたゾーンに転がらない限り、二塁打や三塁打になる可能性は低いからだ。もちろん一概には言えないものの、フライボールピッチャーよりはグラウンドボールピッチャー(ゴロを多く打たせる投手)の方が好意的に受け止められることが多い。東京ドームのような本塁打の出やすい球場を本拠地とするチームであれば、なおさらそういったタイプの投手が求められる。

 では、カミネロのように典型的なフライボールピッチャーが活躍する確率を高めるにはどうすればいいのか。最も分かりやすい方法は、とにかく奪三振を増やし、フィールド内に打球を飛ばさせないことだ。同じゴロ率30%の投手でも、1試合に10個三振を奪う投手と、5個しか奪えない投手では、長打を浴びる危険にさらされる機会が大きく異なる。最近では2014年の呉昇桓(当時・阪神)がまさに好例で、ゴロ率は34.0%と低めながら、奪三振率10.94をマークすることで長打を浴びるリスクを極力回避し、防御率1.76で来日1年目のシーズンを終えている。カミネロの奪三振率は現在8.44と、クローザーとしてはやや物足りない数字だけに、今後どう推移していくかは注目ポイントだろう。

■モデルチェンジはあるのか

 仮に奪三振が増えなくても、何らかの方法でフライボールピッチャーから脱却し、長打を浴びるリスクを根元から断つという場合もある。シーズン中に投手の打球傾向が変わることは非常にまれだが、近年では元DeNAのギジェルモ・モスコーソが来日1年目の途中にファームでツーシームを習得し、シーズンが終わる頃にはゴロ率を10%以上も改善させたという例もあった。カミネロがこれに当てはまるかは全く別の話だが、弱点との向き合い方はさまざまあるということだ。

 ちなみに、カミネロが登板した最初の5試合とその後と4試合では、球種の割合が大きく変わっている。当初は持ち味のストレートを前面に押し出した投球スタイルだったが、4月13日の広島戦以降、ストレートを減らし、カットボールを多用しているのだ。これも何らかの意図があってマイナーチェンジを図った可能性が高く、今後の打球傾向や奪三振率にも影響を与えていくかもしれない。

 いずれにしても、ここまでの試合でカミネロが残している基本的な数字からは、投手としての潜在的なリスクを見て取ることができ、このままシーズン終盤まで防御率1点台を維持するのはよほどの運がない限り難しいと考えられる。そうした状況をどう見極め、解釈し、適切な判断を下していくか。カミネロ自身だけでなく、首脳陣の手腕も問われる。

※データは2017年4月20日現在

文:データスタジアム株式会社 山田 隼哉