社員のモチベーションを高めるための100種類のアイデアを紹介した、1月18日号の日経ビジネス特集「無気力社員ゼロ計画 強い現場の100の知恵」。ここでは番外編として、QCサークル活動を通じて隊員のやる気アップにつなげた、航空自衛隊入間基地(埼玉県狭山市・入間市)の取り組みに迫った。

QCサークル活動が行われている航空自衛隊入間基地
QCサークル活動が行われている航空自衛隊入間基地

 2015年12月中旬、記者は航空自衛隊の入間基地(埼玉県狭山市・入間市)を訪れた。自衛隊の取材は、福岡勤務時に航空自衛隊の春日基地(福岡県春日市)を訪れて以来、実に約10年ぶりだ。当時は社会面の原稿を書くチームにいたこともあり、地域住民との活動の取材などで多少の接点はあった。一方、今回は企業に対するのと同様の視点での取材。これは初めての経験だ。

 入口まで迎えに来て頂いた広報担当の案内で車に乗り込み、取材場所の会議室に案内された。そこには既にQCサークルメンバーの隊員と、その上官らが勢ぞろいしていた。敬礼を交えての丁重な挨拶を受け、こちらも自然と背筋が伸びてしまう。

高い棚から安全に部品を取る

 今回のテーマは入間基地で行われている「QCサークル活動」の取材。具体的には「高層の棚に収納する航空機部品を安全に取り出すための方法や仕組みを、メンバーが考えて導入した」というものだ。

 えっ、棚? と思われるかもしれないので、すこし解説をしておこう。入間基地は航空自衛隊の最大級の基地で、本州中部と中国・四国地方東部の防空を担う「中部航空方面隊」の司令部がある。輸送機を抱えて空輸・補給の拠点として機能し、自然災害時には救難活動も担う。役割が多いため航空機の出動も頻繁で、機体の定期的な整備が欠かせない。

 従って在庫の部品も膨大になり、収納も大ごとになる。ボルトやナットなどの部品、約2万品目を、約2400区画に分けて保管する高層の棚が、今回のQCサークル活動の舞台だ。

 この高層棚は通常、コンピューターで管理されている。棚ごとに割り当てられている番号を画面で入力すると、クレーンが自動的に移動して該当する番号の部品を取ってくる。

 だが、このクレーンは年に3回、定期点検のために丸1日停止する。そのため、クレーンが点検中の3日の間に部品の発注が来ると、在庫管理担当の隊員らは梯子を使って該当する棚まで自力で上り、取りに行かなければならない。

 棚は、最も高い場所で約9m。年に3日間だけとはいえ、作業中に隊員が誤って落下したり、部品を落としたりする可能性がある。事故は幸いにもそれまでには起きていなかったが、今後起きる可能性があると不安視する隊員が多く、未然に防ぐための改善策が必要だという話になった。

航空機部品を保管する高層の棚。手作業で安全に取り出す仕組みを導入した
航空機部品を保管する高層の棚。手作業で安全に取り出す仕組みを導入した
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 写真はこの高層棚を下端から見たものだ。棚の間の幅は人ひとりが入れる程度。とても窮屈だ。そして、見上げると9mはやはり高い。高所恐怖症の記者にとっては、この棚で作業をすることを考えただけで気絶しそうだ。訪問したのは午前中で明るかったが、夜間は暗くなりそうで、危険を伴う作業になると感じた。

 QCサークルのメンバーは当初9人で結成。事故を防ぎながら作業効率を上げる方法を、業務や訓練の合間や終わった後に集まり、数カ月かけて議論を重ねた。

対応策が「現場から出てくること」が重要

 サークル活動での議論を経て、様々な取り組みが講じられた。まずはこれまでの発注実績をもとに、頻度が高いのに棚の上部にあった部品を、下の棚に移動。部品の破損を防ぐために落下防止用のネットを置いたほか、棚から取り出した部品を隊員がしまえるリュックも用意した。

 隊員のケガを防ぐため、作業中は各隊員に命綱の着用を促した。落下防止用のネットは隊員のケガを防ぐ狙いもある。梯子に滑り止め防止シールを張って足を踏み外さないようにする工夫もした。

 高所での作業時に命綱やネットを用意するのは、建設現場やビル外壁の清掃現場などではよく見かける光景だ。それが入間基地の部品を取り出す作業でこれまで使われてこなかったことにむしろ違和感を覚えたが、年3回程度なら我慢して、ということもあったのだろう。

 こうしたQCサークルでの改善策を通じて、手作業での出し入れに不安を感じる隊員がほぼいなくなったという。

 対策の内容自体はシンプルで、民間企業の工場ならば既に導入しているようなものばかり。ポイントは、自衛隊という階級が強く意識される組織で、職場環境の改善を上から指示するのではなく、現場が主導してより良いものに仕上げたことだ。

 現場の隊員は自主性を発揮する場を与えられたことで作業効率が上がり、やる気アップにもつながったとして、この活動は、自衛隊内で広く紹介された。

 入間基地ではこれまでにも複数のQCサークルが立ち上がり、業務改善を通じて、作業の効率化と隊員のモチベーション向上に役立てている。現場が主導して職場環境を良くすることの重要性は、企業・自衛隊に関わらずどの組織でも同じ、と実感した取材となった。

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