巨大なビルで大量生産…日本の名酒『獺祭』がちょっと変だぞ!?

日本酒好きのあいだでは賛否両論

安倍首相がオバマ大統領に振る舞ったことでも有名な山口の酒は、地酒のイメージとは裏腹に、杜氏も置かず、近代的な設備で造られている。確かに旨いが、日本酒好きのあいだでは賛否両論あって……。

5年前のブームから……

「うちの店は10年前の開店当時から獺祭を出していました。日本酒にうるさいお客さんが持ちこんできて、『大将、飲んでみてよ』と言うから飲ませてもらったら、これまでの日本酒にないようなクリアな味わいで、びっくりしました」

こう語るのは銀座で日本料理店を営む店主。ところが、5年ほど前のこと、テレビ番組に蔵元の旭酒造の桜井博志社長(現会長)が出演し、獺祭ブームが起きてから事情が一変したという。

「仕入れをお願いしていた酒屋さんが、獺祭を卸してもらえなくなったと言うんです。オープン以来ずっと出してきたお酒ですし、なんとしてもお願いしたいと伝えたのですが、のれんに腕押し。

小さな蔵だとそういうこともよくあるのですが、許せないと思ったのは、テレビで社長が『ブームで買ってくれる人よりも、昔からのお客さんを大切にしたい』と話しているのを見たときです。言ってることとやっていることが違うだろうってね。

最近では大量生産化も進んでいるようで、どこでも買えるみたいだけれど、そんな酒にもう興味はありません。最近の獺祭を飲んだこともあるけれど、味も昔と変わってしまったのではないか」

日本酒輸出協会会長の松崎晴雄氏は、この酒がもてはやされる理由を、次のように分析する。

「獺祭は華やかな香り、フルーティな味わい、そしてフレッシュな口当たりを感じられる酒。誰が飲んでも『明らかに普通の酒ではない』と気付く、ツウ好みというよりはわかりやすい日本酒ですね。

また、精米歩合で種類を展開するブランディングも成功しました。原料米に最高の山田錦しか使わない、極限まで精米するといった点がウケているのでしょう」

獺祭という名前は、それほど日本酒に詳しくない人でも聞いたことがあるだろう。山口県岩国市で造られているこの酒の歴史はさして古いものではない。

蔵元の旭酒造の設立は1948年だが、獺祭という名を冠した純米酒を造り始めたのは'90年代初頭のこと。'92年には米の77%を磨き切って造る「磨き 二割三分」が発売され、日本酒マニアのあいだで高く評価されるようになった。

「磨きの違いを飲み比べるという楽しみも魅力の一つです」(松崎氏)

このような独自の戦略で人気を博した獺祭はたちまち「時の酒」となった。山口県が地元である安倍晋三首相によってオバマ大統領をはじめとする各国首脳にプレゼントされ、輸出される「ジャパニーズ・サケ」の代表格とみなされた。

 

意外なところでは、人気アニメ映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』の登場人物の部屋に、獺祭の瓶が無数に並んでいるシーンがあり、アニメ好きのあいだでもファンを増やしている。

「普段は地酒などあまりたしなまれないような雰囲気の、いわゆるアキバ系の人たちが、テイスティングにいらっしゃることも多いですね」(東京都内の日本酒バーの店員)

ビルのような酒蔵

極度の品薄状態が続いたため、旭酒造は大量生産体制を整えようと、古い蔵を壊し、12階建ての新工場を建設した('15年に完成)。古い民家しかないような山奥の風景の中で、にょっきりと現れる無機質な工場は異様な雰囲気を放っている。

獺祭の製造法は杜氏を置かないという革新的なものだ。前出の松崎氏が語る。

「旭酒造は近代的な醸造機材を大量投入しています。これは、杜氏の長年の経験と勘に頼ることなく、新入社員でも均質な酒を造るにはどうすればいいかを追求する哲学があるためです。

酒造業界全体の問題として、杜氏の高齢化と人材不足があります。また杜氏の働きぶりにムラがあるのも事実。桜井氏は、そのような問題を解決する手段として、酒造りをデータに基づいてマニュアル化することを進めてきた」

しかし、このような製造法は日本酒愛好家のあいだで賛否両論を呼んでいる。

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