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元米兵が問う集団的自衛権ー1日20人が自殺、PTSDに苦しむ米兵達は将来の自衛官の姿か

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
集団的自衛権の危険性について訴える元米兵のロス・カプーティさん

集団的自衛権の是非は、間違いなく今回の衆院選の重要争点の一つであろう。それは、日本が攻撃を受けなくとも、米国の都合で自衛隊員が実際に海外で殺し、殺される、ということである。その重みを安倍政権は、そして有権者は実感しているのだろうか。先月、元イラク帰還米兵のロス・カプーティさんがイラク戦争の検証を求めるネットワークの招聘で来日、各地でその経験を語った。イラク戦争での従軍経験から10年経つ今も苦悩し続けるカプーティさんは、「米国の戦争に日本は加担するべきではない」と警告する。

○イラクで感じた疑問

カプーティさんは1984年生まれ。米国北東部の保守的な街で生まれ育った。高校卒業後、変わり映えのしない退屈な暮らしに飽々し、刺激と変化を求めたカプーティさんは自ら米軍に入隊した。「当時の僕は、軍隊に入り戦闘に加われば、ハリウッド映画の主人公みたいなヒーローになって、女の子にモテると思っていたんだ。イラクに派遣される、と聞いた時も僕は喜んだよ。(旧イラク大統領の)サダムの独裁からイラクを救うために戦うという上官の話を信じていた。米軍に抵抗する武装勢力は、変な宗教による被害者だと思っていた。でも、僕は身勝手で、戦争するということがどういうことなのか、まるでわかっていなかったんだ」(カプーティさん)。

2004年6月、カプーティさんはイラクへと派遣される。そこで彼が担ったのは「アメとムチ作戦」だった。「村々に戒厳令を敷き、米軍に抵抗する武装勢力について、村のリーダー達に情報提供を求めるんだ。彼らが協力すれば金を渡し、協力を拒絶すれば村を徹底的に破壊する。そういった作戦だった」(同)。

イラクでのカプーティさん
イラクでのカプーティさん

こうした任務の中で、カプーティさんは米軍のふるまい方に疑問を持ち始める。「とある民家の裏で、古い地雷を見つけました。僕達は、その家の主である男性に頭に袋を被せて、手錠を掛けた。そのイラク人の男性は、裁判も行われず、弁護士がつくこともなく、捕虜収容所で拷問を受けることとなったのです」。自分がやっていることは本当に正義なのか。カプーティさんの疑問がふくらむ中、04年11月を迎える。イラク西部ファルージャを包囲しての総攻撃だ。

○イラク・ファルージャへの攻撃の実態

ファルージャ総攻撃は米軍がイラクで行った集団虐殺の中でもとりわけ悪質なもので、その犠牲者は少なくとも6000人と推計される。現地人権活動家のムハンマド・タリク氏はファルージャ総攻撃の実態について次のように報告している。

「ファルージャは28箇所の住宅地区からなるのですが、2004年12月25日と26日には、現地病院の救急チームが、6箇所の住宅地区からだけで700体もの死体を引き上げました。その内、504体が子供と女性でした。中には、銃剣で殺されている人たちもいました。腿、胸、腰、そして頭部を突き刺された女性の遺体を発見しました」「ファルージャ中央病院が米軍に占拠されたため、臨時の野戦病院が設けられましたが、そこも米軍の戦闘機に空爆され、病人、医者、看護士、負傷者などその場にいた人々全てが殺されました」「米軍の狙撃手は動くものは何でも撃ちました。逃げ惑う多くの老人、女性、および子供も情け容赦無く射殺されたのです」(タリク氏)。

この総攻撃の際、カプーティさんはどのような任務についていたのか。「自分は通信士として、空爆を行う戦闘機にどこのポイントを攻撃するかの指示を出していました。ファルージャで多くの市民が犠牲になったことに、責任を感じています」(カプーティさん)。

戦争の最中とは言え、民間人の無差別虐殺はジュネーブ諸条約などの国際人道法に違反する。だが、カプーティさんは「軍の中ではジュネーブ条約についてとか一切教育されてませんでした」と語る。「ファルージャに入る直前に軍の弁護士から交戦規定に関して一度だけ説明があっただけ。しかも、規定を破っても『正当防衛』ということで軍が守ると言われました」。

破壊されたファルージャ中心部
破壊されたファルージャ中心部

○帰国、そしてPTSD

カプーティさんはファルージャ総攻撃後、米国へ帰国した。「ファルージャ総攻撃は特殊で大規模な作戦だったので、メディアにも大きく取り上げられました。我々も英雄扱いで、パレードまであったのです。報道関係者からの取材も多かったのですが、彼らが期待している英雄のストーリーと異なり、実際は血まみれだったのです」。

「帰国後のロックスターの様な扱いに、僕達は強い違和感を感じました。多くの仲間がイラクでのPTSDに悩まされ、ドラッグやアルコールに溺れるようになりました。ある友人は、自分がファルージャにいる夢を観ると言います。殺された人々の影が壁を覆いうめつくす悪夢を繰り返し観るというのです。これは、『モラル傷害』と言って、良心が傷つけられて、苦しみ続けるというPTSDの一種です。結局、僕の隊の半数が帰国からわずか1年以内で除隊させられていった。ある友人は社会復帰できずホームレスになってしまったのです」。

カプーティさん自身、米軍から退役した後も、モラル傷害に苦しみ続けているという。「この苦しみの中で生きることは容易ではありません。しかし、自分が犯してしまった過ちを償うことをしていきたい」。 カプーティさんは、現在、今なお現地情勢が混乱する中で避難生活を続けるイラク避難民のために、支援物資を送る「償いプロジェクト」を行っている。また、米軍関係者らから、「裏切り者」と罵られながらも、各地での自分の経験を話している。

○「日本は米国の戦争に加担すべきではない」

カプーティさんに、安倍政権が集団的自衛権を行使できるようにしようとしていることについて、どう思うか聞いてみた。「イラク戦争から戻った米兵達は、PTSDなどから結婚してもすぐに破綻してしまったり、犯罪に走ったりすることが多い。今も1日に20人の元米兵が自殺し続けています。戦争に参加することで、自国の社会にもいろいろな問題が起きてくるのです。米国の世界戦略は非常に攻撃的なものであり、その軍事行動は、決して現地の人々に自由や民主主義をもたらすものではありません。米国の戦争に日本は加担するべきではないと思います」。

集団的自衛権をめぐる安倍政権の説明は、抽象的で実際に人が人を殺し、あるいは殺されるという極限状況について、何のリアルティがないものだ。日本もまた米国の言うなりに、誤った情報の元、国際法的な根拠も不十分にイラク戦争を支持、支援した。安倍首相は集団的自衛権の行使云々を主張する前に、イラク戦争支持・支援についてや、現地何が起こったのかを、徹底的に検証すべきなのである。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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