LCCのおかげで海外旅行が身近になったのは良いけれど、外国語だけはどうにもならない「海外旅行でぶつかる最後の壁」として残っています。とはいえ、海外旅行のためだけに外国語を学ぶのはちょっと現実的ではありません。語学の習得には長い時間がかかるし、そこに時間やお金をかけていられない場合がほとんどだからです。

そんな「旅行中のちょっとした会話」をカバーしてくれるちょうど良い新製品があります。音声翻訳機「イリー」です。一体どんなデバイスなのでしょうか? 今回ライフハッカーでは、このイリーを台湾で実際に使ってみる機会を得ることができました。実地体験を踏まえて、イリーについて詳しく解説します。

※ この記事はプレスツアーで交通費・宿泊費の支給を受けたうえで執筆しています。

イリーとは?

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イリーのサイズ感は、手にちょうど収まるくらい。

イリーはログバー社が開発した音声翻訳機です。ユーザーはイリーに向かって話しかけるだけで、日本語を外国語の音声に変換することができます。現在、対応している言語は日英中の3カ国語です。

音声翻訳のみを行う専用デバイス

翻訳ツールといえば、Google翻訳のような翻訳アプリが頭に思い浮かぶ人も多いと思います。このスマホ時代にあえて翻訳専門のハードウェアを開発した理由は「スムーズなコミュニケーション」のため。確かに、スマホを使って音声翻訳をするには、アプリを立ち上げ、スマホに向かって話しかけ、スピーカー部分を相手に向けて音声を聞いてもらう、というステップを踏む必要があり、スピーカー部分もデバイスの下についているので、相手は往々にして聞き取りにくいことが多い。その点、イリーは翻訳だけの専門デバイスなので、操作はシンプルで、リアルな会話でもすぐに取り出して使い始めることができます。

マイクはユーザー側に向いていて、スピーカーは相手側に向いているので、会話にとって自然な直線が描けているところ。ボタンは、電源ボタン、マイクボタン、リピートボタン、の3つだけ。シンプルな操作性が実現できるのもスマホではない翻訳専門ハードウェアならでは、と言える。

ワンフレーズの旅行会話に特化している

この手のデバイスでありがちなのが、翻訳精度がイマイチでがっかりすることです。イリーは「旅行で使われるお決まりのワンフレーズ」だけに特化することで、この翻訳精度を高めています。確かに、旅行で使われるフレーズといえば、「オススメのメニューは何ですか?」、「道に迷ってしまいました」のように、ある程度定番が決まっています。おそらく、フレーズのバリエーションもそこまで多いわけではなく、音声認識の精度さえあれば、翻訳の精度自体は支障ないレベルまで上げることができそうです。

インターネット接続は不要

スマホの翻訳アプリを使う際に一番のネックがここです。実際問題として、海外旅行の間はなかなかネット接続を確保するのが難しいケースが多い。接続を確保できても、通信料などでそれなりのコストがかかる場合もありますし、肝心なときに電波が悪いというケースもあります。特に、音声を使うサービスには、安定した接続環境が必要になります。その点、イリーは音声翻訳にもネット接続は必要なく、スタンドアロンで使えるので、ユーザーにとっては大きなポイントです。

一方方向の会話だけにフォーカス

イリーができるのは「一方方向の会話」であって「双方向の対話」はできません。つまり、「日本語→中国語」のイリーは「中国語→日本語」に切り替えることができません。正確に言うと、イリーそのものは双方向のコミュニケーションをする能力はあるのですが、言語の切り替えはユーザー側でできない仕様になっています。これは、「双方向の対話」よりも、たとえ一方方向でも自分の言いたいことが伝わることのほうがユーザーの満足度が高かったからだそうです。

実際にイリーを使ってみた結果

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台湾南部の街、高雄市にある瑞豊(ルイフォン)夜市にて。地元の人だけでなく、台北や海外からも観光客が訪れる活気ある夜市。

今回、台湾の高雄市で実際にイリーを使って、現地の方と中国語で話しかけてみました。使ったシチュエーションは、タクシー、ホテル、市場、夜市などで、常時イリーを首にかけてすぐに使える状態にしていました。以下、実際に使ってみて、うまく使うためのコツがあるなと感じたのでまとめます。

できるだけシンプルな質問文にする

イリーはどんな文章でも訳してくれるわけではなく、訳せる文章には向き不向きがあります。訳がうまくいくのは「定番のフレーズ」で、これは予めプリセットされているフレーズ集のようなもの。「オススメのメニューは何ですか?」、「写真を撮っても良いですか?」といった質問がまさにそれで、教科書に載っているようなフレーズならちゃんと訳してくれている感じがしました。

定番フレーズ以外は、単文ならだいたいOKです。逆に、単文より少しでも複雑な文章は苦手で「あなたが好きなお店はどこですか?」とか「友達と会ってから、また来ます」といった文章はうまく訳せないようでした。それぞれ、「おすすめのお店はありますか?」とか「友達と会う予定です」、「また来ます」というように単文に分解して話すとうまくいきました。

表現の柔軟性はあまりない

台湾に滞在している間、台湾茶が買えるお店を探していたので、「台湾茶のお店を探しています」と聞いたのですが、なかなかうまく訳すことができませんでした。そこで、いろいろ言い方を変えて試していたところ「台湾のお茶を探しています」と言うとしっかり翻訳できました。「台湾茶」と「台湾のお茶」は同じようで、イリーには大きな違いです。このような表現の柔軟性はプロダクトとして改善の余地アリと言えますが、ユーザー側が言い方を工夫することで伝えることはできました。同様に、台湾のお茶のパンフレットなどを持ちながら「これを探しています」というのもしっかり訳してくれました。

ちなみに、イリーは実際に翻訳したデータをテキストログとして保持しており、それを再度チェックして学ばせることで、使えば使うほど翻訳できるフレーズが増えていきます。なので、先ほどの例で認識されなかった「台湾茶」という単語が学習されれば、「台湾茶のお店を探しています」もしっかり訳してくれると思います。

話しかける相手がイエス・ノーで答えられるような質問文を考える

イリーは一方方向の会話しかサポートしていないので、相手が外国語で答えてくれても何を言ってるわからない、というケースが多くありました。そこで、できるだけ相手がイエス・ノーで答えられるような質問文を考えるとうまくコミュニケーションができました。また、Googleマップや旅行パンフレットなどを片手に持って、指差しながら質問するのも効果的です。

逆に、「なぜですか?」という疑問文は、翻訳自体はできるのですが、実際の会話としては成り立ちませんでした(相手ががんばってジェスチャーで答えてくれるなら別ですが...)。

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6月でも高雄は30度を超える暑さだったので、街のティースタンドで何度も飲み物を注文した。

使うのはなんか恥ずかしい。でもみんな自然に聞いてくれる

最初、イリーを使うのには勇気が必要でした。イリーは音声を瞬時に訳してくれるとはいえ、やっぱり機械を使ってコミュニケーションすることに慣れていなかったからです。でも2〜3回使っているとすぐに慣れます。それに、イリーで話しかけると意外とみんな自然に聞いてくれます。使う前は「その機械はなんだ?」とか聞かれたらどうしよう、と思っていましたが、イリーを前にして話せば、自然と「これは翻訳機だ」と伝わっているようでした。中には、「これすごいね!!」と良い感じに反応してくれる人もいて、会話のネタにもなったように思います。

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イリーを向けるとカメラだと思ってポーズする人もいた。- 瑞豊夜市にて

「異国で質問するハードル」が下がる

知らない人に質問したり、会話を始めたりするのに抵抗感ってないですか?僕はけっこう抵抗があって、普段からあまり公共の場で話しかけたりすることはないのですが、海外に行くとこの傾向が顕著になります。つまり、言葉が違うから気軽に話しかける気にならないというわけですが、イリーを持っていると、この「質問するハードル」が低くなる気がしました。今回も、中国語がわからない状態で台湾にいたのですが、イリーを持っているだけで「とりあえず一通りのことは伝えられる」という安心感がありました。


イリーは、羽田空港と成田空港で1日500円でレンタルできます(当日申し込みの場合は1日800円)。

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成田空港にある「グローバルWiFi」のカウンター。海外で使えるWiFiルーターの貸し出しをしている場所でイリーもレンタルすることができる。帰国後に同じカウンターで返却する。

お手頃価格なので気軽に試せそうですね。次に海外に出るときはぜひ使ってみてください。