徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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レビュー:一条ゆかり著、『プライド』全12巻(集英社クイーンズコミックス)

2017年04月17日 | マンガレビュー

今日は復活祭の月曜日でまだのんびりさせてもらってます。明日から仕事、という現実には目とつぶり、耳を塞ぎ、脳みそのリフレッシュを図るためにひたすら非現実の世界へ逃避しております。昨日の晩から読みだしたのは昨年夏に購入した一条ゆかりの『プライド』です。当時レビューを書こうと思って、時間の関係で書き損なってしまった作品で、今回読み直した次第です。

『プライド』は月間コーラスで2002年12月号から2010年2月号まで連載されていたマンガで、2007年、第11回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞し、実写映画化されたり、舞台化されたりしている作品なので、知っている方も多いと思います。

非常に対照的な性格と境遇の二人の歌姫のお話。一人は有名なオペラ歌手の娘で、美しく誇り高いお嬢様の浅見史緒。2歳の時に母を亡くし、父子家庭で育ちました。もう一人は男とお金にだらしない母親の下で育って性格がちょっとというか、かなりアレな音大生・緑川萌。母親は昔オペラ歌手になることを夢見ていたため、娘を音大に入れましたが、かなり恩着せがましく、娘にお金をせびったりします。普通なら出会いもしないし、出会っても友達にはならないだろう二人ですが、音大卒業を控えた史緒はある日、ハウスクリーニングのバイトで彼女の家に来ていた萌に出会います。直後、史緒は父の経営する会社が倒産し、イタリア留学してプロを目指すという予定が不可能になってしまいます。2人は優勝者に留学と帰国後のCDデビューの権利が与えられるコンクールで再会しますが、史緒の尊大な態度に傷つき嫉妬していた萌は、決勝で史緒の出番直前に「あなたのお母さんはあなたを庇って死んだのよ」という衝撃的な事実を言い放ち、その言葉に動揺した史緒を舞台で失敗させて優勝をもぎ取ります。

いやあ、勝負の世界は怖いですね~。バレーならトゥーシューズに画鋲を入れるとかいう感じの意地悪ですね。こうして始まる二人の因縁ですが、史緒の大学の同級生で無一文同然の史緒を助けてくれた恩人、ピアノ科の池之端蘭丸の母が経営する銀座のクラブ「プリマドンナ」でそれぞれ違う事情で働き始めます。史緒は歌手として、萌はホステスとしてですが、ひょんなきっかけで二人一緒に(女装した)蘭丸のピアノで歌うことになり、二人の声が絶妙なハーモニーを生み出し、1+2が5になることが判明し、それがきっかけでSRMというトリオの結成と相成ります。史緒はウィーン、萌はイタリア、蘭丸はニューヨークへそれぞれ旅立ちますが、トリオの活動は断続的に行われます。

コンクールでの優勝を逃し、当面の生活費だった500万円の貯金を奪われてほぼ無一文になってしまった史緒がウイーンに留学できたのは、クイーンレコード会社副社長(次期社長)の神野隆が両親の「結婚しろ」攻撃をかわすため、世間的に見てどこからも文句の出なさそうな史緒に「結婚という契約」を援助と引換えに持ち掛け、彼女が本当は蘭丸に心をときめかせつつも、それを受けたことによります。

一方、コンクールに優勝した萌は主催者であるクイーンレコードに何かとお世話になりますが、その中で神野隆に出会い、彼に思いを寄せるようになり、かなりぐちゃぐちゃした四角関係になります。

そうしたドロドロしたしがらみもある一方で、芸を極めようと努力する若者たちが生き生きと描かれているため、ストーリーが重くならずに済んでいます。一条ゆかりならではのユーモアもドロドロ感を少なくするのに貢献していると思います。

史緒は一見嫌味で高慢ちきなお嬢様に見えますが、(そう見えてもおかしくない態度をとってます)不器用で、人付き合いが下手なだけで、本当はかなり素直で真っ直ぐで、潔癖なところもありますが、かなり器の大きい格好いい娘さんです。恋愛方面がにぶにぶなところがまた魅力です。他人に関心を示し、心を開くようになることで、ないと言われていた表現力・演技力を身につけていく、硬い蕾が花を開いていくような成長を見せてくれます。ちょっと『ガラスの仮面』の姫川亜弓みたいな感じがしないでもないです。

萌の方は、育った環境のせいでかなり卑屈になってるところがあり、人を妬んで憎んで時にとんでもなく意地悪ですが、いろんな人との出会いの中で自分を好きになる努力をして、最後の方はかなり好感の持てる魅力的な女性に成長します。でも史緒と比べるとなぜか理不尽に苦労している感じです。苦労している、という意味では『ガラスの仮面』の主人公・北島マヤに似てなくもないです。基礎がしっかりした確かな技術力を持つお嬢対表現力豊かな庶民階級の苦労の多い女というライバル構図はかなり共通していますね。でもマヤは貪欲ではあっても基本的にお人好しで人を貶めようとはしないので、萌とキャラが被るということはありません。

ラストはちょっとご都合主義的なハッピーエンドのような気がしないでもないような。


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