徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:池井戸潤著、『アキラとあきら』(徳間文庫)

2017年07月26日 | 書評ー小説:作者ア行

池井戸潤の最新刊『アキラとあきら』(徳間文庫)は2017年5月31日初版ですが、作品自体は2006年12月号から2009年4月号まで「問題小説」に連載され、それを大幅に加筆・修正したものです。解説を含めて713ページはなかなか読み応えあります。入院中に2日かけて読み終えました。

この作品はタイトルからも分かるように二人の〈あきら〉、零細工場の息子・山崎瑛と大手海運会社東海郵船の御曹司・階堂彬が主人公です。最初、全く生まれも育ちも違う二人が対立する話なのかと思いましたが、予想に反して二人の子供時代からの生い立ちが描かれ、大学が一緒になり、就職先も同じ産業中央銀行になるいきさつなども生き生きと描写されています。しかし、二人が深くかかわるようになるのは、階堂彬がもろもろの事情で産業中央銀行を辞め、家業を継いだ後のことです。バブル崩壊後、家業の危機を乗り越えるために二人の〈あきら〉が、バンカーとして、そして社長として知恵を絞って画策する様は本当に大丈夫なのかと心配になる状況で、読者をハラハラさせながら物語のクライマックスへ引っ張っていきます。

他の池井戸作品と違う点は、人物描写に重点が置かれていること、そして『オレたちバブル入行組』(ドラマ『半沢直樹』)のような明らかな悪役が追い落とされるのではなく、もっと人情的に説得され、反省するように促されるところではないでしょうか。騙した側が血縁というしがらみも影響していると思いますが、階堂彬の器の大きさが際立ちます。

また、山崎瑛は父親の経営していた町工場が倒産し、夜逃げするように親戚のところに身を寄せた所などは、半沢直樹の境遇と重なりますが、彼は全く復讐を考えておらず、救える限りの会社を救えるように心温かいバンカーになります。だからこそ、普通なら銀行に見捨てられて倒産に追い込まれるであろう状況の東海郵船の救済に乗り出し、奇抜なアイデアでその危機を乗り越えることができたのです。

「金は人のために貸せ。金のために金を貸したとき、バンカーはただの金貸しになる。」

とは産業中央銀行の新入社員研修における羽根田融資部長の言でしたが、この言葉こそ当作品を貫く哲学であり、世に送るメッセージであると思います。

本当にこんな「バンカー」が多ければ資本主義社会ももう少し生きやすい社会であったであろうと思われますが、現実に蔓延っているのは残念ながら「金貸し」ばかりですね。

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書評:池井戸潤著、『七つの会議』(集英社文庫)