今、テクノロジー領域において静かな注目を浴びているのがアフリカだ。今年9月には、米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOが訪れ、テクノロジーハブや学校を訪問。その人材の厚さに「彼らこそが僕の求める人材だ」と感嘆したと報道された。

 元々アフリカにはその素地があった。2007年には、ケニアでモバイル送金サービス「M-PESA」が登場。今や世界に2500万人のアクティブユーザーがいる。アフリカは、元々、高価なパソコンを使い、インフラ化した電話回線を利用するインターネット環境において、世界から見れば出遅れた存在だった。一方、そうだったがゆえに、一足飛びにパソコンや有線をスキップしてモバイル環境が普及するのが早かったともいえる。むしろ、アフリカは今となってはモバイル先進国とも言えるだろう。

 そのアフリカで現在注目を浴びるのがドローンだ。1年の半分を海外で生活し、ドローン製造大手の中国・DJIや仏パロットに取材をしている高城剛氏に、アフリカにおけるドローンの可能性やその未来について話を聞いた。

<b>高城剛(たかしろ・つよし)氏。</b><br />1964年東京・葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。総務省情報通信審議会専門委員など公職を歴任。著書に『ヤバいぜっ!デジタル日本』(集英社新書)『空飛ぶロボットは黒猫の夢を見るか? ドローンを制する者は、世界を制す 』(集英社ビジネス書)などがある。12月2日にはを国技館で単独トークイベント「裏があってもいいじゃないか!」を行う。(撮影:北山 宏一)
高城剛(たかしろ・つよし)氏。
1964年東京・葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。総務省情報通信審議会専門委員など公職を歴任。著書に『ヤバいぜっ!デジタル日本』(集英社新書)『空飛ぶロボットは黒猫の夢を見るか? ドローンを制する者は、世界を制す 』(集英社ビジネス書)などがある。12月2日にはを国技館で単独トークイベント「裏があってもいいじゃないか!」を行う。(撮影:北山 宏一)

一足飛びで普及したモバイル

 高城氏によれば、「先端のテクノロジーが今、アフリカで芽を吹いている」。8月に訪問したケニアやマダガスカル、モザンビークといった場所で高城氏が見たのは、電気もない、銀行もATMもない、水もない、といった状況で、モバイルとドローンが普及している現実だった。電気や水がないような国々で、モバイルとドローンが果たす役割は大きく、世界中の企業がその実験場としてアフリカに集まっているという。

 「(世界最大のドローン企業で中国の)DJIも含め、多くのドローン関連企業が注目しているのがアフリカです。アフリカは、薬の配送など実利用としてドローン需要の緊急度合いが高い。誤解を恐れずに言うなら、ドローンの落下リスクよりも、人の死亡リスクの方が大きいわけですから、墜落して誰かがけがすることを考えるより、多くの人の命を救える可能性に懸けるというのは、至極当然の流れともいえるのかもしれません。点滴1個、注射器1個運ぶのが困難な国が多いのが現実です。今までは小型のセスナを飛ばしていますが、当然コストが異常にかかる。それをすぐにでも解決できるのがドローンです」

 「M-Pesaが2007年に登場してそれ以降モバイルバンキングがどんどん普及した。その次に来るのがインフラです。今まで行商をしていたおばちゃんから、緊急医療における水や薬の配送にまでドローンが活用できる。これは、米国や日本のようにすでにインフラが発達している国とはまったく違うレベルで起きます。緊急度合いや導入後の課題解決のパワーが圧倒的に違うのです」

 「8月に僕が行ったケニア、マダガスカル、モザンビークの3国だけでも、聞いたことのない米国のドローンベンチャー3社に遭遇しました。中国も政府が援助目的で参入しているような感じでした」

マダガスカルのモロンダバにあるバオバブの並木。昼間は暑すぎ、電気が通っていないために夜は真っ暗で、子供たちがサッカーの練習を出来るのはほんの2時間ほどだ(撮影:高城 剛)
マダガスカルのモロンダバにあるバオバブの並木。昼間は暑すぎ、電気が通っていないために夜は真っ暗で、子供たちがサッカーの練習を出来るのはほんの2時間ほどだ(撮影:高城 剛)

 「1つ20ドルくらいのスマートフォンがものすごい勢いで普及しています。村に一つソーラー発電機があって、そこで皆が充電するといった世界ですが、それでも普及している。動物を追い込むのもスマホで連絡を取り合ってやっているんですから(笑)」

 道がない場所にドローンが空中に道を描き、それが配送網になる世界がすぐそこまできているのだという。

インフラは整備されていない分、スマホの普及率は高い。電気が通っていない村に暮らすこの子たちの中にもスマホを持っている子がいて、使い方を熟知している(撮影:高城 剛)
インフラは整備されていない分、スマホの普及率は高い。電気が通っていない村に暮らすこの子たちの中にもスマホを持っている子がいて、使い方を熟知している(撮影:高城 剛)

現物を「アップロードする」世界へ

 そもそも高城氏がドローンに注目し始めたのは2012年のこと。当時、毎夏訪れていたスペインのバルセロナの電気屋で見つけた小さなドローンがきっかけだったという。手に取ったのは、仏パロットの「AR.Drone2.0」。以降、30機を超えるドローンを手に入れ、投資した額は1000万円以上に上るという。

 高城氏は、過去、ドローンに限らず、スーパーコンピューターから指先サイズのスマートフォンまで最新のテクノロジーとあればとにかく飛びついてきた。その高城氏が考えるドローンの可能性は「現実社会のインターネット化」だ。

 「インターネットの世界では、あらゆるデータを蓄積して再構築できる企業が勝者になりました。グーグルなどがまさにそうです。今後、ドローンの世界でも似たようなことが起きる。つまり、現実世界のデータを蓄積し、再構築する新しいグーグルやヤフーが出てくるはずです」

 「インターネットの最大のカルチャー革命は、アップロードの世界にあった。人々が自室にこもりながら自分が見た世界、自分が感じたことをアップロードできるようになった。ドローンの世界でも同じようなことが起きます。例えば、目の前に美しい花があったとき。今なら撮影した写真をFacebookにアップしたり、友達に送ったりするのが関の山。これが、ドローンの世界では、実際にその花を送れるようになる。『現物のアップロード』です。この世の中にはデジタル化できないものの方が圧倒的に多いんです。そのデジタル化できないものを、いかにネットワークと端末によってインターネットの潮流にのせられるか。インターネットが『重力』を持ち得る大きなきっかけとなるのがドローンなんです」

 「ドローン1人1台」時代が来れば、目の前にあるおいしいパンや珈琲を誰かに送ることもできる。手作りのお弁当を彼氏に届けることも可能だ。もはや、鞄さえいらなくなるかもしれない。

 現在は、米アマゾン・ドット・コムの配送ドローンや、警備会社などの警備ドローンといった企業における事例が目立つドローン。高城氏は、ドローンが「1人1台時代」になってこそ、そのインパクトが発揮されるという。まさに、パソコンが、企業のものから企業内個人へ、そして家庭へ、さらにスマートフォンの1人1台時代に移行していった経緯と同じだ。

 「現在のドローン市場は、コンピューター市場と比較するとWindows95より前の段階。『ドローン1人1台』の世界は、これから3年後か、5年後か分からないが、少なくとも10年以内には起こりうる世界だと思っています」

 「広告やマーケティングの世界も変わるはずです。今までは、パソコンやスマートフォンの中での行動で嗜好性を判断していたものが、実世界での人の行動がターゲットになります。街全体がデータの宝庫になり、メディアになります。今でもスマートフォンやビーコンを使った現実世界での広告はありますが、それがもっと拡張するイメージですね。例えば、今、東京駅の前にいる人が何人いて、どんな服を着ていて、それぞれがどこに向かっているか。東京駅前にいる赤い服を着た人にだけ広告を打つ、といったことも可能ですよね」

 「あとは街中にどんなセンサーを埋めるか。そのビジョンを国レベルでどのようにハンドリングしていくかが重要になってくると思います。これは公共の知財として、水道とかガスとか、そういうレベルで考えた方がいい。すでにシンガポールなどは国家レベルのプロジェクトとして進めています。ロボティクスのための公共管理部門が必要で、落下のリスクヘッジやそのためのアラート設計、管制塔のグランドデザインといったものが必要になってくると思います」

 「僕だったら、福岡のような150万人規模の都市で、まずは実証実験をやりますね。まず、GPSの側面やバッテリーの側面から考えてもなるべく南である方が望ましい。GPSの衛星は赤道面上にあるので日本では南の方が感度が高い。バッテリーについては、温かい地方の方がバッテリーの持ちがいい。街中に5メートルおきにセンサーを置き、大手のデベロッパー、銀行、鉄道会社などにドローンを渡します。すでに地方で利権を持っている人たちにまずどんどん使ってもらうでしょうね」

日本はもう「技術大国」ではない

 現状、ドローン1台のパフォーマンスはそこまで高くない。バッテリーは飛行時間にしておおよそ20~30分程度、運搬できる物の重さは2キロ程度に留まる。

 「パソコンのサーバー管理でも、1台のサーバーでまかないきれなかったり、リスクが高かったりということを、ミラーリングや分散型のサーバーで管理することは今や当然になりました。ドローンの世界でも、1台のドローンでできないことを複数のドローンでやるようになる世界がきます。『フォーメーション』と呼んでいますが、40台のドローンを飛ばして、重いものを運んだり、1台ダメになってもカバーできたり。それを実現するためにも、インフラとしてのセンサーネットワークが必須になってきます」

 世界的に見れば、中国のDJIが存在感を高めているのが現状。そのほかフランスのパロットは特に個人用のドローンを中心に市場を席巻する。一方で、生き馬の目を抜くようなスピードで成長するテクノロジー市場において、現在もまだ王者は決まっていない。

 「DJIは世界的に見て、今、最も大きいメーカーであることは間違いない。一方で、今がピークであるような気もしています。中国を見渡せば、(スマートフォンメーカーの)シャオミや、新興ドローンメーカーのYUNEEC(ユニーク)といったところに注目しています」

 一方で、日本はどうか。高城氏は、苦笑いしながら、こう答えた。

 「日本ですか。大企業のサラリーマンが強すぎて、新しい息吹が出てきづらい状況になっていますね。ソニーのAIBO終了くらいの時期で、その傾向は一気に強まった。一方で“技術大国”という言葉ばかりが遺産のように残ってしまっている。年間何度も中国に行き、DJIやシャオミの開発者と話していると、ちょっと太刀打ちできないなという気がします。スピードの速さ、投資の規模感、起業精神といったようなものの、どれをとっても中国はずば抜けています。一方、日本は、人はいいし、お金はあるし、技術や部品、才能もある。実際にDJIの幹部は『僕らのドローンは日本製だよ』と言っているほど、カメラなど日本製が使われているケースが散見されます。あとは、これを生かすも殺すも、国や企業のトップのビジョンということなのでしょうね」

(撮影:北山 宏一)
(撮影:北山 宏一)
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