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大谷は本当に史上最速? 奥が深いスピードの話

ノンフィクション作家 小野俊哉

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日本ハムの大谷翔平は今季、投手として日本球界のスピード記録をたびたび更新した。ハイライトはクライマックスシリーズ最終戦となった10月16日のソフトバンク戦。九回、指名打者を解除してクローザーとして登板するとプロ野球史上最速の165キロを3度も記録して札幌ドームを沸かせ、日本シリーズ進出を決めた。

スピード記録が脚光を浴びると、必ず出てくるのが「史上最速の投手は誰か」という議論だ。オールドファンたちは伝説の大投手たちを挙げては「沢村栄治は160キロ以上出ていた」「尾崎行雄や山口高志も負けてはいなかった」と速球王談議に花を咲かせる。何しろスピードガンがなかった時代。何を言っても立証できない代わりに反証もされない。しかし過去の大投手たちが、大谷に劣らない速球を投げていた可能性があるのは紛れもない事実なのだ。

堀内の初速、推定168~170キロ

そのひとりが堀内恒夫である。1960年代後半から70年代にかけてV9巨人のエース右腕として通算203勝を挙げた。ドラフト1期生の1位で入団し、デビューした66年に開幕13連勝を飾っている。縦に大きく割れるカーブに加え、評論家が異口同音に高く評価したのがうなる剛速球であった。1年目の成績は16勝2敗で防御率1位、新人王も沢村賞もさらった。実は連勝中の7月、その球速が機械測定されている。

詳細は省く。場所は後楽園球場のブルペン。光電管を使って精密に測定された結果は、ホームプレート上で155.5キロだった。現在のスピードガンは投手の手を離れた直後の「初速」を測定している。ホーム上の球速から堀内の初速を割り出すと168キロから170キロと推定されるのだ。

左腕でも160キロ以上出ていた可能性のある投手がいる。堀内と同時代に活躍した阪神の江夏豊である。江夏はプロ2年目の68年にシーズン401奪三振の世界記録を樹立した。340奪三振を記録した70年、1秒間で120コマ撮れる改造カメラで投球を撮影してみると、球速は155.5キロだったという(撮影日は不明)。ただしこれはバッテリー間の平均球速。カメラの作動精度などが不明なので断定はできないが、初速に換算すると162キロ前後という推定が成り立つ。

通算400勝を誇る金田正一も速かった。58年の開幕戦、巨人のゴールデンルーキー長嶋茂雄を4打席4三振に仕留めた快投はいまも語り草になっている。この試合で4番を打っていた川上哲治は「気にするな。あんな金田は初めてだ」と声をかけたが、あの天真爛漫(らんまん)な長嶋の手が震え、コップで水を飲むことさえできなかったという。大卒ルーキーに「プロの厳しさを教えてやる」と燃えた金田の気迫が伝わるエピソードだろう。第3打席で空振り三振を奪ったのは高めストレート。その映像から初速を割り出すと、少なくとも162キロというのが私の推定計算である。

あれほど速いのになぜバットに?

テレビのスピードガン表示が始まったのは79年。80年代には巨人・江川卓、中日・小松辰雄らのスピード競演がファンを喜ばせるようになる。93年にはロッテの伊良部秀輝が158キロをマーク。2005年には横浜ベイスターズのマーク・クルーンが161キロを記録し、日本球界初の160キロ超えとなった。08年にはヤクルトの佐藤由規が161キロを出し、日本人で初めての大台突破を果たした。その後は大谷が更新を続け、いまに至っている。

大谷の速球で不思議なのは、あれほど速いのにバットに当てられていることだ。165キロも出ていれば簡単に空振りを取れそうなものだが、ソフトバンク戦での3球は空振り、ファウル、ファウルと2回当てられた。9月のオリックス戦では糸井嘉男に164キロをライト前に弾き返され、2点タイムリーを許してしまった。これはどういうことだろうか。

話の舞台を米国へ移す。大リーグでは投手がボールに与える回転量(スピンレート)を測定し、昨年から各投手の平均値を一部公表するようになった。ナックル、フォークなど一部の変化球を除けば、一般的に回転量が多いほどキレがよく、打者は打ちにくいといわれる。直球であれば逆スピンが多いほどボールに揚力が生じ、打者の予測する軌道より高い位置でホームプレート上を通る。「伸びる球」「浮き上がる球」となり、ボールはバットの上を通過することになる。

15年、スライダーの平均回転量がメジャートップだったのがレッドソックスの田沢純一だ。その値は2654rpm。「rpm」とは1分間に換算した回転数を指す。鋭いキレを誇る田沢のスライダーの空振り率(空振り/スイング)は50%と高く、被打率は1割9分1厘に抑えた。その一方で、投球数の62%を占めたストレートは空振り率が17.5%にとどまり、被打率は2割9分4厘と打たれた。今季も空振り率18.1%、被打率2割5分5厘とスライダーに比べて見劣りする。今季の田沢の直球は平均150キロ、回転量は2187rpm。球速はメジャーの平均レベルだが、回転量は平均の2241rpmを下回っている。ややキレを欠いた結果が2年連続の防御率4点台、という見方もできる。

上原の直球、メジャー平均上回るキレ

ユニークなのは同僚の上原浩治である。今季の直球は平均球速141キロでお世辞にも速いとはいえない。にもかかわらず被打率は1割4分5厘と田沢より1割も低く、空振り率は23.1%と高いのだ。

上原の投球フォームは球の出どころが隠れて打者から見えにくい。制球も素晴らしい。そこに輪をかけて打ちにくくしているのが回転量である。今季の平均回転量は公表を待たなければならないが、例えば73試合に登板して防御率1.09をマークした13年9月のヤンキース戦では三振を奪った高めの143キロが2427rpmを計測している。昨年5月のマリナーズ戦でも2460rpmの141キロを記録した。メジャー平均(2226rpm)を大きく上回るキレのある直球で、昨季の空振り率は32.8%に達した。大リーグを代表する本格派のマックス・シャーザー(ナショナルズ)が27.6%だったといえば、どれだけ高いかがわかるだろう。

もちろん、スピード表示と同じく、回転数も投球のすべてではない。シャーザーの直球は今季平均で153キロ、2541rpmと回転数でもメジャー屈指だ。一方、サイヤング賞3度のクレイトン・カーショー(ドジャース)やメジャー最速のアロルディス・チャプマンのrpmは2300回転弱とそれほど多いわけではない。後者はキレよりも「重い球質」ということになるだろうか。詰まるところ、ストライクゾーンギリギリでの出し入れであるとか球種や緩急のコンビネーション、内角を厳しく攻める度胸といった多くの要素が絡み、初めて「投球術」ということになるのだろう。

史上最速のストレートを「見せ球」に

160キロ台でもバットに当たる大谷の速球は、もしかすると回転数が少なめなのかもしれない。しかしそれが圧倒的なスピードの価値を減じるかといえば、そんなことはない。類のないスピードは、緩急を使ううえで圧倒的な強みであることに変わりはないからだ。

165キロを出したソフトバンク戦で打者3人を打ち取った決め球は140キロ台半ばのスライダーが2球と149キロのフォークボールだった。史上最速のストレートをカウントを稼ぐための「見せ球」に使っていたのだから、この22歳はやはり底が知れない。

(敬称略)

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