「気持ち一発」アマチュアの偉業

江川紹子

　「すごいね……」

　「うん、すごい……」

　「すごい、すごい……」

　休憩時間でロビーに出て来た彼らは、半ば啞然（あぜん）とした表情で、同じ言葉を吐き出し、しばし沈黙した。

　時は6月11日、場所は名古屋市の愛知芸術劇場コンサートホール。「彼ら」とは、バイロイトの常連であったり、東京でワーグナー作品が上演される時には決まってお顔を拝見したりする、筋金入りのワグネリアンたちだ。私のような未熟者ばかりでなく、ン十年とワーグナーを聴いてきた、経験豊富な聴き手たちまでもが、驚きと感動で言葉を失っていた。

　演目は、愛知祝祭管弦楽団（音楽監督・三澤洋史）による「ワルキューレ」。フル編成のオーケストラのメンバーは、全員がアマチュアだ。彼らの熱情が、音楽に込められたあらゆる情感と混じり合ってほとばしり、あふれ出し、聴き手の胸を熱くする。私は青山貴さんのヴォータンを聞きたくて、昨年の「ラインの黄金」に出掛け、すっかりこのオケにもハマってしまった。