ネット広告の未来を議論 総広告費の2割超え
(徳力基彦)
先月、電通「日本の広告費」のリポートで、インターネット広告費がついに総広告費の2割を超えたことが発表された。これだけネットやスマホが普及し、人々が費やす時間が増えたことを考えれば当然の結果とも言えるし、まだ少ないと見る人も多いようだ。
一方で我々が考えなければいけないのは、はたして「インターネット広告」とは何なのかということだろう。福岡で開催されたダイレクトマーケティングのイベント「ダイレクトアジェンダ」で興味深い議論があったのでご紹介しよう。
この基調講演は、食品ネット通販を手掛けるオイシックスの西井敏恭・最高マーケティング責任者(CMO)がモデレーターを務め、カゴメ、コメ兵、NTTドコモ、ネスレ日本という4社の担当者と議論を交わした。
西井氏が議論の土台として提示したのが、通販事業の4分類だ。まずはネットなどの通販が中心か、リアルの店舗が中心かという軸がある。それに取扱商品が少ないメーカーEC(電子商取引)か、多数の商品を仕入れる小売り型かの軸を加え、4つに分類されるという考え方だ。
例えば、飲料食品メーカーであるカゴメやネスレは、通販中心でメーカーECだから、メガブランドを育てて指名買いを狙うモデル。逆にコメ兵は、店舗中心で商品を仕入れる形で、品ぞろえや接客で勝負するモデルという具合だ。
同じネット通販でも、会社における事業の位置づけや強みは明確に違う。ネット通販がごく一部の人や企業が使う場所だったときは、勝利の方程式は1つであるかのような議論がされがちだった。それがこれだけ多様な事業者が参入してくると、企業によって実は全く違う事業になる。
さらに非常に興味深かったのは、4つのモデルの違いや取扱商品の特徴によってネット広告やウェブ上の施策などの向き不向きが大きく異なるということだ。
例えば、一般的なネット通販で必須と考えられがちな検索連動型広告。コメ兵は当然ながらブランド検索に対応する形で注力しているそうだが、カゴメやオイシックスのような企業では力を入れていないそうだ。
フェイスブック広告のようなソーシャルメディア広告も、企業によって使い方が大きく異なる。ドコモはテレビCMが放映されるタイミングでソーシャルメディア広告を投下して相乗効果を狙っているそうだが、コメ兵は短い動画を流すことでフェイスブック広告自体で認知を取るそうだ。
また、コーヒー飲用者という幅広い層をターゲットとするネスレにとっては、フェイスブック広告はユーザー数の広がりという意味で少し物足りない面があるようだ。対して、比較的高単価の「つぶより野菜」という商品を販売するカゴメにとっては、とても効果が高いという。
カゴメで特徴的なのが、フェイスブック広告を宣伝色の強いものではなく、ユーザーの投稿と同じような自然な写真を使うことを模索したり、ユーザーの投稿自体をそのまま使ってみたりしている点だった。
新しいネット広告メニューの売り込み時にはとかく、数少ない成功事例をアピールして、同様の効果がどこでも得られるかのようにアピールすることがある。ただテレビCMやチラシがそれぞれ向き不向きがあったように、ネット広告においても全ての企業にとって万能なメニューというのは幻想に近い。
ネット広告が普通になった今だからこそ、商品の特徴や企業の業態に最適なアプローチの重要性が高まっている。
(アジャイルメディア・ネットワーク取締役)
[日経MJ2017年3月10日付]