焦点:いいかげんな中国検閲、英大学への遮断リストで浮き彫り

焦点:英大学に遮断要請、中国の検閲リストから分かること 
8月23日、だが中国検閲当局の実態は、潤滑油の効いた機械にはほど遠く、バラバラで、欠陥や回り道、さらには官僚の性急な仕事ぶりのせいで機能が損なわれていると、中国政治を専門とする学者は分析する。写真は北京で開かれたケンブリッジ大学出版局の書籍フェア(2017年 ロイター/Thomas Peter)
[上海 23日 ロイター] - 1930年代の中国の農村革命家に関する学術研究論文についての古い書評は、中国政府にとって特に避けるべき危険な話題ではない。厳しくなる一方の今の共産党の基準に照らしてみても、だ。
この書評が、英ケンブリッジ大の出版事業を手掛けるケンブリッジ大学出版局(CUP)に対し、中国当局が中国からのアクセスを遮断するよう要請した約300の論文と書評のリストに含まれていた事実は、秘密のベールに覆われている中国の検閲当局の内部論理への手掛かりを与えてくれると、専門家は指摘している。
習近平国家主席は2012年に就任して以降、検閲を強化し、インターネットや市民社会のさまざまな局面で締め付けを強化している。また、学術界やその他機関に対する共産党の権威を高めようとしている。
だが中国検閲当局の実態は、潤滑油の効いた機械にはほど遠く、バラバラで、欠陥や回り道、さらには官僚の性急な仕事ぶりのせいで機能が損なわれていると、中国政治を専門とする学者は分析する。
「一言でいえば、雑だ」と、英ノッティンガム大のジョナサン・サリバン准教授は言う。「記事が検閲され(閲覧遮断の対象に)選ばれた大ざっぱなやり方を見ると、十分な考えをもとに実施されたものではないと考えられる」
学問の自由を懸念する声に押されたCUPは21日、中国当局の要請に従って学術誌「チャイナ・クォータリー」に掲載された一部の論文や書評の閲覧を遮断した決定を撤回した。
中国側の反応は不明だ。教育省や外務省、サイバー担当部門、出版物を管理する部門は、取材の要請に応じなかった。
当局側が閲覧遮断を要請した論文や書評のリストには、1989年の天安門事件や1966─76年の文化革命、チベットや台湾問題、情勢不安定な新疆(Xinjiang)ウイグル自治区など、政府にとって神経質な話題を扱ったものが含まれる。
だがそのリストは、完全にはほど遠いものだった。
1930年代の農村革命家についての論評は、誤ってリストに含まれたのではないかと、専門家は指摘する。
共産党支持の中国南部の農村に関するカマル・シール氏の本についての、厳しい内容だがおおむね無害な1991年の書評がブロックされた理由は、この村の名称がXinjiangであり、書名にそれが含まれていたためと思われる。
この村の漢字表記は、北西に2500キロ以上離れたイスラム教徒が多く住む新疆とは全く異なるが、英語表記は両方とも同じXinjiangで、区別がつかない。
<キーワード検索>
遮断リストを大まかに分析した英オックスフォード大博士課程に在籍するXu Xibai氏は、検閲担当者はチャイナ・クォータリーのデータベースで、タイトルや要旨にタブーの単語が含まれているものを短時間で検索したとみられる、とツイートした。
「検閲担当者はいくつかのキーワードを検索し、上役を喜ばせる長さのリストを作るのに必要なだけの論文や書評を選んだのだろう」と、Xu氏は分析。「実際に論文に目を通したり、論文リストを人の手でチェックするような手間はかけていない」
建国の父と称される毛沢東を擁護する内容の論文が遮断リストに含まれる一方、より批判的な内容のものは含まれていなかった。
また、検閲当局の網の目を逃れたセンシティブな話題もあった。
共産党は、経済政策の失敗で数百万人が飢え死にした1958─61年の「大躍進政策」に関する議論を厳しく管理している。検閲当局は、この話題についての本を禁止しているが、今回の遮断要請リストには含まれていなかった。
また、共産党への批判を歓迎すると表明し、実際に批判した人を後から処罰した1950年代の「百花斉放百家争鳴」政策についての論文なども、リストに含まれていなかった。
共産党によるニュースや情報の検閲は、時に逆効果を生んだり、外部の人間を困惑させたりしてきた。
2009年には、パソコン上のポルノ画像や暴力的画像をチェックするソフトウエアが、猫のアニメキャラのガーフィールドを描いた映画ポスターや、肉色鮮やかな豚肉料理、映画俳優ジョニー・デップさんの顔のアップ写真をブロックした。
カナダのトロント大の研究者グループ「シチズン・ラブ」が、中国で人気のライブ中継サイトで昨年までに禁止された単語のリストを作ったところ、「ムーラン・ルージュ」や「ウサギの煮込み」「ヘリコプター」「禅」などの単語が含まれていた。
今回CUP側に閲覧遮断要請を伝えたのは、書籍輸入業者だった。だが検閲の指示がどこから来たか明らかにならない限り、明確な結論を出すのは難しいと、仏社会高等研究院で中国を研究するセバスチャン・ベグ氏は言う。
「検閲システムはもちろん政府の指揮下にあるが、一様なものではない」とベグ氏は言う。
香港教育大の李肇祐助教は、今回の遮断要請は、観測気球だったとみている。
「彼らはいつも、小規模なところから初めて次第に拡大し、要請を難しいものにしていく。今回は、中国政府が、国際的な学術出版社にも影響を及ぼすことができるかどうか確かめた最初の一手の1つかもしれない」
(John Ruwitch記者、翻訳:山口香子、編集:伊藤典子)

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