2010.10.09

日本は次世代ITサービスで生き残れるのか

クラウド保護主義と国際データ・センター誘致競争

 2010年6月16日、 前総務大臣の原口一博氏と米国国務省特命大使(国際情報通信政策担当)のフィリップ・バービーア氏は「インターネット・エコノミーに関する局長級対話の合意書」に調印した。米国のコンピュータ業界は過去40年に渡って世界を席巻し、アメリカの国際競争力に大きく貢献してきた。

 しかし、約3年前から台頭してきたクラウド・コンピューティングによって、同業界は大きな転換期を迎えている。

 本格化するクラウドに対応し、米国政府はIT業界の国際競争力について経済戦略の見直しを始めている。そのひとつが、6月に結ばれたインターネット・エコノミーに関する合意だ。今、日本は国際的なクラウド競争に勝つため、重要な選択と行動が求められている。

国境を越えて広がる、クラウド・サービス産業

 クラウド・コンピューティングは "新たなサービス産業"を生み出そうとしている。近い将来、大手ネット/IT企業は自国に居ながら、世界中の企業にITサービスを提供するだろう。まさにGoogleが描くクラウド・サービスが、いよいよ姿を現そうとしている。

 クラウド分析を始める前に、その定義について少し触れておこう。クラウドと一口に言っても、いろいろな解釈がある。まず、機器メーカーにとってクラウドは、仮想化*1サーバーや仮想化データセンターなどのハードウェア・ビジネスを指す。

 一方、ソフトウェア・ベンダーにとってはホスティング型アプリケーションやSaaS*2 アプリケーションを指す。端末ベンダーにとっては、単にネットに繋がるディバイスであったり、ウェブ・アプリケーションによる軽量端末やパーソナライズ(機能分化)を求める高機能ディバイスであったりする。

 また、クラウドはサーバーの規模によってふたつに分かれる。"コモン・クラウド"はサーバー数が数百台から数万台程度で、リレーショナル・データベースなど既存の技術をベースにしている。

 一方、Googleや米国Yahoo!、Microsoft、Amazon Web Servicesのように10万台以上のサーバーを運用してサービスを展開する"大規模クラウド"では、データ保存の新技術(ハッシュ・テーブル)やポスト・ブレード・サーバー(超低消費型チップ)など、既存技術の枠を越える挑戦が行われている。

1 仮想化は、現在急速に普及している。大型コンピューターの中に、あたかも複数のサーバーがあるように見せたり(仮想サーバー)、複数のOSが存在するように見せる(仮想OS)技術。こうした仮想化により、機器やアプリケーションの増減や組み合わせが自由にできる。また、複数のユーザーで共同利用しやすくなり、コストも安くなる。
 
2 SaaSはSoftware-as-a-Serviceの略。ソフトウェアを自分のパソコンやサーバーにインストールするのではなく、ブラウザーなどでアクセスして利用するアプリケーションの形態を指している。

 本稿では、クラウドを個人や企業ユーザー側から見た姿、つまり必要な時にネットワークを通じてサービスを利用する利用形態を指している。クラウド解釈論はこれぐらいにして、本題に移ろう。

 クラウドが普及すれば、ユーザーのデータやアプリケーションが国境を越えて自由に行き来することになる。読者の中にもGmail(Google社のメールサービス)を利用している人は多いと思うが、同サービスに蓄積されたメールや添付書類はGoogleが展開している米国などのデータセンターに保管*3されている。

 また、投稿ビデオ・サイトYouTubeは米国にサーバーが存在する。YouTubeは、日本の著作権法上、問題がある。しかし、サーバーが海外にあるおかげで日本のユーザーは、大きなメリットを得ている。

 また、日本では一般企業ばかりでなく、地方自治体や郵便局もSalesfoce.com社のクラウドCRM(顧客管理ソフト)を利用している。この場合も、ユーザーのデータは海外に保管されている。日本は、データの海外流出に対して事実上野放し状態にある。

 一方、一部の欧州諸国では、ユーザーのデータの海外保管を禁止する措置にでており、米連邦政府もガーバメント・クラウドでは、データの海外流出を認めていない。このようにクラウドは国境を越えてサービスを利用することが当たり前となっていながら、既存のルールや規制により越境を認めない矛盾した状況にある。

 米国のハイテク業界では、こうしたクラウド保護主義の台頭に警戒感を強めており、クラウド・オープン化外交の積極的な展開を米国政府に求めている。

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