読者諸兄は一昨年起きた、「食べログ隠れ家訴訟事件」を覚えておいででしょうか。

 「秘密の隠れ家」をコンセプトに営業し、結構な人気店であった大阪のバーが、店の営業方針に反して食べログに住所と地図と電話番号を掲載されたため、その削除と損害賠償330万円の支払いを求め大阪地裁に提訴した事件です。

 「秘密の隠れ家」を掲げる店は、実は結構な数があります。

 「隠れ家」でググってみると、驚くほど多くの飲食店が候補として出てきます。新宿には表通りの雑居ビルにデカデカと看板を掲げている「隠れ家系」のチェーン店が有るほどです。

 ですが、この大阪の店はこうした「なんちゃって隠れ家」ではなく、ガチの隠れ家だったようで、看板も置かず入り口を厳重な鉄扉でロックし、その扉には「開けるな」と書かれた札をベタベタと貼るという「演出」まで為されていました。こんな所に本当に店があるのかしら…と思いながらドアを開けると、一転して店内には華美な装飾が施され、そのギャップに客は酔いしれるという仕組みだった訳です。なるほどこりゃウケますわな。

隠れ家飲食店の情報をさらしていいのか?

 “知る人ぞ知る”店であることが隠れ家飲食店の大前提です。それが店の詳細を晒されたのではコンセプトそのものが台無しになりますから、店側は当然食べログに削除を要請します。ところが食べログ側は、“表現の自由”を盾にこれを拒否します。

 うーむ、さすがは田中社長。強気です。何しろ食べログはカカクコム社がゼロから立ち上げた押しも押されもせぬ日本一の口コミグルメサイト。ここで簡単に引き下がるわけには行きません。双方一歩も譲らず、「それなら出るところへ出ようじゃないか」と相成った。

 注目の大阪地裁第一審。結果は棄却でした。食べログ側の全面勝利です。実は店側は自らのホームページに住所と電話番号を公開していた。そのため法廷は、「サイト側が削除要請に応じないことが違法とまでは言えない」と判断したのです。店側はこれを不服として上訴。争いは高裁に持ち込まれ、高裁は和解を勧告しました。その内容は明らかにされていませんが(つまり食べログ側がいくら払ったのか分かりませんが)、ともかく和解は成立。結果、食べログの画面からは店の電話番号と地図が削除され、住所の詳細も消される形となったのです。

 店側は店を訪れる客に「絶対に書き込みをしないで下さい」と繰り返しお願いしていたそうです。こうした場合、書き込んだ客の責任は問われないのでしょうか……。店側は客の責任を問いませんでしたが、一番いけないのは、店の切なるお願いを無視してサイトに書き込んだ無粋な客だと思うのですが。

 前置きが長くなりましたが、今回ご紹介するのは東京・西麻布にある隠れ家のお店です。

店は完全招待制

 店の名前はボヘミアンといいます。無論、新宿にある「なんちゃって系」ではなく、ガチもガチの隠れ家です。

 「口コミサイトに書き込んだ客の無粋を言いながら、日経ビジネスオンラインという多大なる影響力を持ったメディアに記事を書くとは、貴様どういう了見だ」とお叱りを受けそうですが、なに、ご安心下さい。この店は完全招待制でありまして、店を利用したことがある客から招待された後、初めて次回以降の予約が取れるという厄介な仕組みになっているのです。

 要するにみなさまはこの記事を読んだところで、(誰か知り合いでも居ないかぎりは)この店に行くことは出来ないのです。まあ「世の中にはこんな店があるのだ」と社会勉強のつもりでお読み下さい。

 そうそう。この店は先の大阪のバーのように住所と電話番号が非公開です。食べログにも書き込みはありますが、今のところ客のモラルに守られて詳細情報は晒されていないようです。

ここが噂のボヘミアンの入り口。
ここが噂のボヘミアンの入り口。

 たとえ誰かから情報を得て、店の在り処を探し出せたとしても、ウォーク・インのお客は一切受け付けません。入り口のドアは完全にロックされていて、テンキーで暗証番号を押すか、インターホンで店内に解錠を依頼しなければいけません。

 こりゃ良いですな。ドキドキします。私はこの店に出資をする佐藤大吾氏に招かれて初めてこの店に訪れました。

照明が落とされた店内はこのような感じ。
照明が落とされた店内はこのような感じ。

炬燵こたつ式の四人掛け一卓とカウンターのみ

 店内は掘炬燵こたつ式の四人掛けが一卓と四人掛け程度のカウンターという構成です。

 炬燵席もカウンター席も火鉢が設えられています。

 そこに五徳が置かれ炭を敷き網がかけられる。

 メニューは和食。基本的にはお任せ一本で、最初の突き出しと刺し身以降は炙り物が中心になります。

のっけから「ほう」と唸らされる突き出しが出ました。これはレベルが高い。
のっけから「ほう」と唸らされる突き出しが出ました。これはレベルが高い。

 驚いたことに、この店はキッチンもサービスも一人で切り盛りしています。予約が殺到しているようですが無理に店を拡張する意思は無いそうです。

生意気を申しますが、刺し身の切り口を見れば、その店の実力のおおよその見当はつくものです。ここは素晴らしい。
生意気を申しますが、刺し身の切り口を見れば、その店の実力のおおよその見当はつくものです。ここは素晴らしい。

 ボヘミアンはここ西麻布の他に福島にもニューヨークにも店があります。

 福島市内の飲食店が復興需要で東京のダメな街より100倍も賑わっていることは御存知の通り。東京で食えないキャバ嬢が続々と福島に移住しているほどです(これマジの話です)。ニューヨーク店も名だたるセレブリティが我も我もと押し寄せています。彼の地で和食の店は増えましたが、「ちゃんとした」和食の店はまだまだ少ないですからね。焼き肉と寿司が一緒に出るような店が平気でありますから。

炭が敷かれて、いよいよ炙りが始まります。
炭が敷かれて、いよいよ炙りが始まります。

 実はこの店、自由人の高橋歩氏が経営しています。これら上記ボヘミアンの他にも、バリ島、インド、ジャマイカにレストラン&バーやゲストハウスなどを展開しているのだそうです。

 なるほどどうりで。「ボヘミアン」なる店名が伊達ではないことが分かりました。

この新鮮な素材を見よ!
この新鮮な素材を見よ!

あぁ、真面目に(?)生きてきて良かった

 炙り物は素材が全て。野菜も魚も日本中を探しに探し、選びに選び抜いたものをセレクトしています。

 「厳選した素材」なんて、いまやチェーンの居酒屋でも言っていますが、こちらの厳選度合いはまた桁が違います。うまいのなんの。酒も気の利いたものが揃っています。ああ真面目に生きてきて良かったです。

(遅れている単行本の原稿のことを考えると、あまり堂々とは言えませんが……。こちらはもはや「遅筆」というレベルを超えています。先日、自分が登壇した講演会の会場に突如、単行本の担当編集S馬氏が激励と称して取り立てに訪れました。本当にありがとうございました)

ネギとはかくも甘い食べ物なのかと感嘆いたしました。いやあ旨い。ネギを焼いただけでこんなにご馳走になるとは。死んだらネギと一緒に焼いて欲しい位に美味しいです。
ネギとはかくも甘い食べ物なのかと感嘆いたしました。いやあ旨い。ネギを焼いただけでこんなにご馳走になるとは。死んだらネギと一緒に焼いて欲しい位に美味しいです。
シメは流行の卵かけごはんで。どこの卵でしょう。これがまた黄身がしっかりしていて最高に美味かったです。
シメは流行の卵かけごはんで。どこの卵でしょう。これがまた黄身がしっかりしていて最高に美味かったです。
今回お世話になった佐藤大吾氏。
今回お世話になった佐藤大吾氏。

 ボヘミアンへの今回の潜入を手引きしてくれたのは、先でも紹介した佐藤大吾氏。彼は一般財団法人ジャパンギビング代表理事。NPO法人ドットジェイピー理事長を務めています。

 その他に内閣府子ども・若者育成支援委員会委員、などの公職も務めています。さらに総務省ワークライフバランス推進PT委員、三重県庁政策アドバイザー(NPO政策担当)もやっていましたね。そうそう、大阪大学の招へい研究員、立命館大学校友会未来人財育成基金アドバイザー、デジタルハリウッド大学院大学客員教授にもなっていたのでした。

 面白いからもっと書きましょうか。日経BP社の親会社である日本経済新聞社が主催している「ソーシャルイニシアチブ大賞」アドバイザーや公益財団法人プラン・ジャパンの評議員。公益財団法人東日本大震災復興支援財団理事などもやっています。

 もっといろいろあるのですが、そろそろ会社に行く時間なのでこの辺で。それではみなさまごきげんよう。

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