相手の言葉をさえぎる、脈絡なしにアイデアを投げかける、結論が出ている話を蒸し返す……会議でよく見られるこんな不毛なやり取りを避けたいなら、まず聞き上手になるべきだ。そのためには、会議中のメモの取り方を変えればよい。


 チームダイナミクスが会議の成否を決めることもある。互いに相手の言葉をさえぎったり、議論を積み上げていくべき時に新しいアイデアを出したり、何か言いたいがために他の人が指摘済みのことを繰り返したりする会議に居合わせた経験が、あなたにもあるのではないか。

 こうしたコミュニケーションの問題が、時間とエネルギーを浪費し、大抵の場合はさらなる会議を重ねることになる。誤解を解くためだったり、決定事項を繰り返すためだったり、あるいは傷ついた感情や各部門間の緊張を和らげるために。

 だが、1つのことを実行すれば、会議で費やす時間の質が一気に向上する。それは聞くことだ。他の出席者の意見を聞き、理解する仕方を改善すれば、繰り返しや誤解が減り、会議の時間がより実り多いものになる。

 単に聞くだけで、それほど多くの問題が解決できるのであれば、なぜなかなか実践できないのか。1つの理由は、いま話を聞いている理由が、自分のアイデアや反対意見で相手の話をさえぎるためだからだ。つまり、割り込んで自分の意見を述べるために聞いているのだ。あるいは、聞いているうちに言いたいことを忘れてしまうのではないかと、気が気でないのである。相手を理解するために耳を傾けるというよりむしろ、自分が発信したいことに心を注いでいる。

 経営幹部チームを支援してきた経験を通じて、私は会議でより効果的に人の話を聞くための、簡単かつ万人向けのテクニックを開発した。私はそれを「余白メモ」と呼んでいる。

 あなたもすでに会議中にメモを取っているかもしれない。だが、他者を理解して、自分の対応を準備するためにそのメモを賢く利用しない限り、やはり考えるよりも先に発言するという同じ罠に陥る可能性は高い。「余白メモ」を利用すれば、自分の考えをまとめ、情報を処理し、議論の要点を関連づけられるようになる。そして、頭に浮かんだことを片端から口走る代わりに有益な質問を出せるようになる。

 その仕組みを以下に紹介しよう。

●ページに広い余白を設けて、他の人が発言している時にメモを取る。 メインの部分には、他の出席者の発言だけを記入する。逐語的に書き取る必要はない。ただ要点をメモするだけでよい。個々の発言を正確に引用したい場合は、後ほどの作業とする。 

●余白には、あなたのアイデアや判断、反対意見、そして書きとめた各要点に対する疑問を記入する。これらを分けて記入することで、あなた自身の考えを他の出席者の発言と区別できる。そうすることで、あなた自身の意見を(文字どおり)脇に置き、 他の出席者の話に耳を傾ける余裕を確保できる。たとえば、あらたに展開する製品について、あなたの上司が次から次へとアイデアをまくし立てている場合は、余白に「予算について尋ねる」とか「CEOの回覧状を思い出させる」とメモしてもいい。

●あなたが発言するときには、「余白メモ」の書き込みのうち、まだ誰も取り上げておらず、かつ優先順位の最も高い事項に絞って提起し、言及したものは線を引いて消していく。会議中に提起できなかったものの、あなたが重要だと判断する事項については、フォローアップの印を付けておく。 

 アリの事例を紹介しよう。彼は、200人規模の科学機関でCEO補佐チームのリーダーを務めている。

 CEOのブレンダが率いるこの科学機関は、経営難に陥っていた。最大の資金拠出者の関心は競合機関に注がれており、また主要スタッフの一部は自身のベンチャーを立ち上げるために退職してしまった。職場はかなりの緊張状態にあり、チームメンバーの一部は互いを出し抜こうと躍起になっていた。他のメンバーたちはとにかく、何か行動を起こさなくては、と焦りを感じていた。そこから生じるコミュニケーション不良、命運がかかった決定事項、そしてパニックからチーム内は対立し、非生産的な会議ばかりが重ねられていた。

 ブレンダは直属の部下を集め、減少しているリソースを最大限に活かすにはどうすればいいかを議論した。アリは「余白メモ」モデルに従い、以下のようなメモを作成した。

 アリは「余白メモ」を見て、会議中の質問を極めて重要な課題に絞ることにした。すなわち、「予算削減の基準は何か」と、「プロジェクトを完全に打ち切るより、プロジェクトの全過程において予算を減額すべきではないか」の2つだった。また会議の最後に、インフラとマーケティングの予算削減も持ち出した。

 その後、ブレンダとの1対1の打ち合わせで、アリは他の懸案事項を取り上げた。「私たちのチーム文化は行動主導型です。スピードを落とす必要があるかもしれません。結論に飛びつくと、可能性を排除することになりかねません」。また、次のようにも指摘した。「チームメンバーは、あなたに疑問を投げかけません。ただ行動あるのみ、です。私たちはあなたに判断を頼りすぎているかもしれません。チーム内の他のメンバーにこうした決定の一部を任せるべきでしょうか」。最後に、アリは次のように所見を述べた。「反対意見を言い合える健全な文化を育んでいないのでは、と気がかりです。ジョシュとジョンが口論しているように見える時はいつも、ジェニファーは緊張し、あなたに指示を求める傾向があります」

 この打ち合わせでは、優先順位が低いと判断して、あえて取り上げなかった問題点もいくつかあった。それらがこの先もまだ問題となるようなら、後で問題提起できるように、彼は該当するコメントに印を付けた。

「余白メモ」のおかげで、アリはチームの話し合いをどう導くべきか、熟慮したうえで結論を出すことができた。ジョンとジョシュの競争をさらにあおるのではなく、実際に成果が出るような方向へと戦略的に向かわせたのだ。

 その後のブレンダとの個別の打ち合わせでは、チームダイナミクスについて所見のいくつかを伝えた。このおかげで、ブレンダは次の会議のアジェンダを、より考えて準備できるようになり、また彼女自身のチームメンバーに対する姿勢を改めることもできた。次のチーム・リトリート(訳注:静かな場所で行うリーダーシップ研修)では、チーム文化に関するアリのコメントに基づき、ブレンダはすでにできあがりつつあったチーム内の暗黙のルールについての話し合いを促した。苦しい状況に直面しているいまだからこそ、より機能的なチームになるためにどのような変化が必要か、チームメンバーたちはブレインストーミングを行ったのだ。

 この種のメモを取る時は、議論の事実を書き留めるだけではいけない。以下の点に留意して余白メモを取ると、聞き上手になれる。