徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:広瀬隆著、『東京が壊滅する日 フクシマと日本の運命』(ダイヤモンド社)

2016年10月29日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

『東京が壊滅する日』はなかなか衝撃的なタイトルで、『日本沈没』なんかを連想させるSFのようではありますが、サブタイトルの「フクシマと日本の運命」で分かるように、ノンフィクションです。しかし、フクシマ及び「東京の壊滅」を具体的な現在の東日本のデータをもとに予想することに重点を置いているわけではなく、原爆開発から始まる原子力マフィアの正体を明らかにする、闇の歴史の集大成のような本です。

以下が目次です。

はじめに 冷静に予測しておかなければならないことがある

第1章 日本人の体内で恐るべきことが進行している!

セント・ジョージで起こった恐怖の事件
パズルを解いた男ポール・クーパー元軍曹
原爆の選考だけが原因ではなかった
福島第一原発事故では、どれほどの放射能が放出されたか
フクシマ原発事故が起こった
山下俊一と長瀧重信と一番弟子・高村昇

第2章 なぜ、本当の事実が、次々と闇に葬り去られるのか?

放射性物質が持つ長期性と濃縮性
知られざる内部被曝バク問題
20年で100倍に激増した自然界の放射能
食品は大丈夫なのか
中国が日本の10都県の全食品を輸入停止!
次から次へと闇に葬られた科学者と、福島県の「甲状腺癌」72倍のデータ

第3章 自然界の地形がどのように被害をもたらすか

ネバダ核実験による映画人の被害者
被バク者として選ばれた人びと
安倍晋三の長州藩歴代犯罪の系譜
山間部に降り積もり、東京湾に流れ込んだ死の灰
カリフォルニア州の大都会でも大被害が!映画スターはなぜ死んだか
20年以上苦しむ、ナバダ核実験の住民被害者が訴訟を起こした
全ての被害を予測していたAEC(原子力エネルギー委員会)
日本の御用学者、中川恵一と山下俊一

第4章 世界的なウラン産業の誕生

放射線・放射能の危険性は、どのようにして明らかになったか?
X線の発見と知られざるエジソンの素顔
モルガン財閥がエジソンを育て、GEを生み出す
ヨーロッパでキュリー夫人をロスチャイルド家が育てる
夜光塗料が女工を被曝させ、ICRPの母体を生み出す

第5章 原爆で巨大な富を独占した地下人脈

原子爆弾のアイデアが誕生した
第二次世界大戦が勃発して、原爆製造計画が始動した!
真珠湾攻撃で一変した全世界
”マンハッタン計画”はいかにしてスタートしたのか
原爆の実験に成功、そしてヒロシマ・ナガサキ
なぜ広島・長崎に原爆が投下されたか
原爆によって天文学的な利益を得た巨大財閥
日本への原爆投下を勧告した人間は誰だったか

第6章 産業界のおぞましい人体実験

日本敗戦そして東西冷戦の時代から大々的に核実験がスタート
ABCCによる日本の被バク後遺症の調査が始まる
ヒロシマ・ナガサキABCCを受け継いだ日本の原子力第二・第三世代
「プルトニウム人体実験」と組織的50万人殺戮計画
ハーヴァード大学でも組織的な人体実験が!

第7章 国連がソ連を取り込み始めた

ソ連の原爆開発を成功させた二重スパイ集団がいた
マンハッタン計画を始動させた黒幕の正体
ソ連の犯罪”カチンの森の虐殺”に目をつぶったアメリカ
10万の囚人を使ったソ連の原爆開発部隊
”チェリャビンスク40番地”に起こった凄絶な惨劇
ソ連の汚染地帯が現在の日本人に教える4つの危険性
ICRPが誕生し、放射能の危険性を隠しはじめた!
いつまで殺人医師のデータに子供たちの生命をかけるのか

第8章 巨悪の本丸「IAEA」の正体

水素爆弾が生まれ、”原子力の平和利用”なる言葉が登場した
ビキニで第五福竜丸が被バクした ”水爆マグロ”の恐怖!
世界最初の原子力発電がスタートした
核実験で子供の癌死亡率が6倍に
ついにIAEA(国際原子力機関)が誕生し、WHOを支配した
日本における被ばく隠しの黒幕―医療界と七三一部隊
アメリカの首輪をつけた憐れな使用人たち
身の毛もよだつ放射性廃棄物の被害
IAEAがチェルノブイリ原発事故で正体を現し、大被害を隠した
原爆と同じ”核暴走”でプルトニウムを噴出した福島第一原発3号機
29年後にも200万人が苦しむチェルノブイリ事故の現実
食品業界のトップがIAEAの正体だった
原爆と原発は”双子の悪魔”

第9章 日本の原発からどうやって全世界へ原爆材料が流れ出ているのか?

5兆円をドブに捨てた日本の原発政策
日本の原発からフランスの核弾頭がつくられる!
日本の原発からパキスタンへ原爆材料が流出
オイルショックで原子力発電ブームを巻き起こしたフランス
何もせずに数百億円を日本から盗み取った会社の正体
フランスと一体化したイギリスの原子力産業
イスラエルの原爆とイラン・トルコ・イラク・インド・パキスタン・中国・台湾・韓国・北朝鮮と日本の玉突き現象

あとがき

目次を読んでいるだけでも原爆・原発関連の闇の深さと陰惨さが伝わってくるのではないかと思いますが、中身を読めば、更なる絶望が待っています。なぜなら、ことは東電と安倍政権に留まらないからです。歴史は第二次世界大戦前に遡り、ウラル鉱山採掘・原爆製造に深くかかわってきたロスチャイルド財閥、モルガン財閥、ロックフェラー財団は「原子力の平和利用」のスローガンの下、原発を世界中に広めて大儲けをしてきました。第8章の「原爆と原発は”双子の悪魔”」というのはこのことです。そしてこれらの悪魔の財閥はIAEAとICRPを占拠し、「放射能は安全」キャンペーンを展開し、勝手な「基準」を設け、原爆実験で多くの住民を被曝させてきたように、原発事故後も被曝地域をわざと放置しているわけです。

この本は、マンハッタン計画から、戦後のABCC、ICRP、IAEA、そして日本の731部隊、放医研、科学技術庁・原子力局に至るまでの悪の人脈を明らかにします。そしてイスラエルの核保有には沈黙し、イランの核開発、北朝鮮の核の脅威ばかり批判の対象となるおかしさも指摘しています。

フクシマの影響に関しては、特にネバダ核実験時に風下にあった広大な過疎地の一つセント・ジョージ(実験場から220㎞離れているところ)を始めとする周辺地域を例に挙げ、一番直接的に被曝した「アトミック・ソルジャー」たちの被バク総線量がおよそ8-9.5ミリシーベルトであったことと、次々に癌や白血病で子どもも大人も倒れ、死亡していった事実を指摘し、その事情を日本に当てはめてどうか、と論じています。注目すべきはやはり、核実験現場に駆り出され、軍事訓練をして被曝したアトミック・ソルジャーたちの被バク量でしょう。8-9.5ミリシーベルト。そして、それよりは被ばく量が少ないはずの220㎞離れたセント・ジョージ。セント・ジョージの葬儀屋が町内の癌死者の激増に気付いたのは原爆実験開始から5年後だったそうです。チェルノブイリ事故の際も、甲状腺癌をはじめとする様々な癌が「激増」したのはやはり事故から5年後でした。フクシマの事故からも既に5年が経過しています。被曝は福島県に限られたものではなく、東京を含む東日本一帯に広がっています。そして、徐々に「なんだか死んでいく人が多すぎるような気がする」と思い出している人たちが増えてきているようです。この著書にはそういうことはまだ書いてありませんが、別ソースでそのような報告が集まっていることを私は知っています。

恐ろしいのは、原水爆実験の被害者たち(アメリカばかりでなく、フランス、中国、ソ連も含めて)が長い間放置されている、あるいは特殊病院に集められ、黙らされてきた歴史、そしてチェルノブイリ事故の健康被害を克明に研究してきた研究者たちの辿った運命、その研究成果を認めず、それを批判攻撃ばかりするIAEAなどを考えると、日本の被曝被害者たちも同じように放置され、「放射能のせいじゃない」となだめすかされ、補償を受けられないまま20年以上も苦しむことになるのが予想されることです。

書評に戻りますが、この本の良いところは、原爆・原発の裏にある闇の歴史と人脈が総括的に扱われている点です。断片的には知っていることがあったとしても、それぞれを関連付けたりすることは必ずしも容易ではありません。それらのピースがここに集められて、パズルが完成することができるのは非常に勉強になります。

難点は、話が前後したりして、通しで読んだ時の流れが悪く読みづらいこと。系図も何度も登場するのはいいのですが、必ずしも血縁関係が明白に読み取れるわけではないので、あまり理解の助けにならないこと。そして、情報量が多すぎ、各章ごとの「まとめ」のようなものが欠けているため、読者が自分でメモでも取らない限り、頭に入れて整理することが難しいことです。もうちょっと構成を改善してもよかったのではないかと思います。

非常に平易に書かれた小出裕章著の『騙されたあなたにも責任がある』を読んだ後だと、特にその難解さが際立ちます。文章そのものが難解というわけではありませんが、構成上のまとまりの悪さがやはり理解を妨げている感じがします。

私なりにまとめると:

  1. 原爆・原発は人体実験の歴史とも深くかかわっている(ABCC、原水爆実験、プルトニウム人体実験など)
  2. その裏にはロスチャイルド財閥、モルガン財閥、ロックフェラー財団系の企業の利権がある。
  3. その彼らは国際機関IAEA、ICRP等を牛耳っている。
  4. 日本政府、日本企業(電力会社、日立製作所、東芝、三菱重工)はその国際的原子力マフィア構造に組み込まれているばかりでなく、「お財布」の役割も果たしている。
  5. 放射能の被害は今後も隠蔽され、被曝者は見捨てられる。

というところでしょうか。これで、絶望せずにいられましょうか?