ユニ・チャーム発売する「超快適マスク 息ムレクリアタイプ」は通気性のよさで夏でも使用できるのが特長だ(記者撮影)

年が明け、街中でマスクを着けて歩く人々が目立つ今日この頃。だが、これからは暑い夏でもマスクを着用する人が増えるかもしれない。

1月9日、マスク市場で国内シェアトップのユニ・チャームは春や夏でも使える「超快適マスク 息ムレクリアタイプ」を発売する。通常、家庭用マスクには、インフルエンザや風邪の防御機能が高い不織布と呼ばれる素材が用いられている。今回新たに投入するマスクは、通気性のよいガーゼを組み合わせており、春や夏に着けていても蒸れづらいように設計した。

マスク市場は右肩上がり


ユニ・チャームの通年マスクは二層構造になっているのが特徴で、ウイルス飛沫を99%防ぐことができる(ユニ・チャーム提供)

価格は5枚入りで400円前後。すでに発売されている超快適シリーズのマスクが7枚入りで同価格帯であることを踏まえると、やや割高だ。サイズは男女で使えるよう、小さめと大きめの2種類を展開する。

高原豪久社長は「新発売するマスクは、夏場であっても外で快適に使用することができる。これから高機能マスクの通年使用を習慣化づけたい」と意気込む。

マスク市場は年々拡大する傾向にある。6年前の2012年が196億円なのに対して、2016年は280億円にまで伸びている(富士経済調べ)。成長を後押ししているのが、ニーズの多様化だ。もともとは2003年ごろのSARS(重症急性呼吸器症候群)や2009年の新型インフルエンザといった流行病をきっかけに需要が急増。最近では黄砂やPM2.5への対策としても利用されるケースが増えている。

マスクの普段使いが広まり始めたことで、2013年ごろからは20〜30代のOLを中心にスッピン隠しなど二次的な理由で使われるようになった。その結果、女性をターゲットに、フリル付きやキャラクターモチーフといった見た目を重視したマスクも売り出されている。

また花粉症や、電車内でのにおいへの対策、冷房によるのどの乾燥を防ぐ、など冬場以外での使用も見られ始めた。しかし「通常のマスクだと、夏場に着けていると蒸れたり、汗ばんだりしてしまって使用をやめるという声も多かった」(ユニ・チャームのヘルスケア担当者)。こうした意見に応える形で登場したのが年中使える通年マスクだ。

今回投入する通年マスクは二層構造になっているのが特徴だ。口元部分には、赤ちゃんのおくるみなどに使われる、ガーゼを使用。肌ざわりがよいため、夏でも風通しがよい。外側にはユニ・チャームが独自に開発した「超息楽フィルタ」を用いた。ウイルス飛沫を99%カットし、風邪やインフルエンザもしっかり予防する。

通年マスクの広がりで生じる懸念


アズフィットはユニ・チャームに先駆けて2017年9月に通年マスクを発売した(アズフィット提供)

さらにマスクの側面に切れ目を入れることですき間もできにくくした。「テストで実際に着けてもらったときに、従来品だとすぐに蒸れて内側に水滴がたまってしまっていたが、通年マスクは水滴がたまらないので使いやすいと言われた」(前出の担当者)。

発売後はCMやSNSではなく、店頭でのプロモーションを強化。花粉症対策コーナーや入り口付近でリップクリームのようにマスクを吊り下げて売ることで、すぐに目に入り手に取りやすくする。

日用品などを手掛けるアズフィットはユニ・チャームに先駆けて、通年マスクを発売した。昨年9月に「息らくらく超絶さわやか」を投入し、発売以降、順調に売り上げを伸ばしている。「冬が過ぎても、春先に花粉症シーズンがやってくることで需要を取り込めそうだ」(会社側)と期待をにじませる。

さまざまなメーカーが通年マスクの発売に踏み切る一方で、ある問題が浮上している。人前でマスクを外すことのできない「マスク依存症」に悩む人々が増えているのだ。


ドラッグストアでは、さまざまな種類のマスクが並んでいる(写真はmatsukiyo LAB新松戸駅前店、マツモトキヨシホールディングス提供)

マスク依存症とは、人目が気になり極度に緊張してしまう社交不安症の一種。マスクをすることで他人から表情が読まれづらくなり、安心感が生まれる。依存症に詳しい赤坂診療所の精神科医の渡辺登氏によれば、現在100人のうち5〜6人が社交不安症であり、この5〜6人の中にマスク依存症に該当する人がいるという。

特に多いのが20〜30代の働く女性だ。社会人は高校生や大学生に比べて、社内での付き合いや社外での取引など人間関係が多様化する。プレゼンテーションや会議など、人前で発表する機会も増える。とりわけ女性の場合はスッピン隠しでマスクを着用する人が周囲にもいることで、マスクを着けやすい環境が生まれ依存してしまう傾向が強い。

求められるマスクとの上手な付き合い方

「今まではマスクを使用するのは冬場のみ。夏に着けると蒸れるので、マスク依存症の人も、さすがに冬以外はマスクを外す。季節が克服のきっかけの1つになっていた」(渡辺氏)

だが、今後通年マスクが定着することで、ますますマスク依存症が増える懸念もある。渡辺氏は「マスクを着けることでかろうじて社会とコミュニケーションが取れるという利点もあるが、年中着用していると人間関係の溝が埋まりにくい」と語る。

メーカー側は「マスクでコミュニケーションの阻害を促進したい、というわけではもちろんない。マスク本来の機能に基づいて使用してほしいし、使用方法も啓蒙していきたい」と口をそろえる。

依存症を克服するには、親しい人の前ではマスクをしないなど自分の中でルールを決め、徐々に着用頻度を下げていくことが大切だと渡辺氏は言う。通年マスクが広がることで、マスクとの上手な付き合い方が求められるようになる。