渡辺一彦先生が札幌医師会通信2017年9月に

載せた投稿です。長いのでブログ作成し載せます。




化学物質過敏症(CS)について


最近匂いのきつい衣装の女性~時に男性とすれ違うことはありませんか。
2012年頃より各地の消費者センターへ、
「柔軟仕上げ剤」で頭痛や吐き気が出ると
いう苦情が
急増していますが、皆さんの周りではどうでしょうか。


私は道新の取材を受け、
CSの連載記事の冒頭に載りました(2017322)。

関心を持たれている先生もおられると思いますので、
この機会にCSについて寄稿します。

 

症例提示


最近私の経験した例を紹介します。

児童例ですが、元々アトピー性皮膚炎でしたが、明るく元気な園児でした。

年長から園内で皮膚の掻痒と咳が出現するようになり、大好きな幼稚園を
止む無く退園しました。
入学してからも級友とは仲良くしていましたが、
学校でも同様の症状が誘発されます。


自宅ではほぼ快適に生活できます。

また通学路、スーパーの洗剤コーナー、地下鉄の中でも誘発されます。

経過から柔軟剤の臭いが誘因とわかりました。


学級には他に柔軟剤の臭いで体調不良が出るような子はいません。

母親も柔軟剤、化粧品などで頭痛や吐き気、
全身倦怠感などが誘発されます。


患児は珍しいことに柔軟剤に含まれることのある
有毒な
イソシアネートの特異的IgE抗体が陽性でした。
イソシアネートの影響は不明ですが、
少なくとも暴露を受けていたという実証です。


学校側では「柔軟剤で健康被害がでる児童がいるので自粛に協力を」と
呼びかけるポスターなどを掲示し、また換気を徹底していますが、
その子にとってまだ十分とはいえないようです。

 

化学物質過敏症の最近の傾向

私は90年代後半よりシックハウス症候群(SHS)に取り組んできました。

2000年から厚労省の研究班(故飯倉洋治昭和大学小児科教授)の
協力研究員を数年務め、

「アトピー性皮膚炎など室内環境が関係する疾患への対策研究会・北海道」に

参加・運営してきました。


そこで新築やリフォームでSHSを発症した症例を検討してきました。

その症例の中に、誰もが使う洗剤、化粧品、芳香剤、防虫剤、スプレー剤、
家具などの日用品に

反応して多彩な症状を起こす例~CSへの進展例~を経験してきました。


自宅ばかりではなく学校や園、職場でも発生しました。


これらの症例については、先の研究会の「患者宅調査」集にも載せてあります

SHS2002年には病名登録されました。

SHSを予防するため、2003年に建築基準法が改正され、
SHSはその結果急激に激減しました。

 
しかし、その後も私の外来には新築やリフォームに関連のない、
先に挙げた身近な日用品などからの揮発物で健康被害を
受ける患者が時々受診しました。


全国的にも同じ傾向にあり、2009年にはCSも病名登録されました。


そして登場した「消臭・香りブーム」です。


名前は挙げませんが、きれいな女性タレントや
元テニスプレーヤーがTVや新聞で広告している
芳香柔軟剤、消臭除菌スプレーなどが家庭に広まりました。


学校では制汗スプレーが大流行で、
中年男性も「加齢臭」対策に消臭剤使わないと
非常識といわれかねない雰囲気です。


そのためCSが急増してきました。

まさに「香害」です。


しかし、「消臭・香りブーム」を煽ったメーカーは、
「安全性を確認した製品を製造販売している」として、
CSの増加を無視しています。


当院でもこの数年ではCS患者が倍増し、
全道各地から受診や電話相談があり困惑しています。


CS
は一過性の軽症例もあるとは思いますが、
そうした例は受診しないので実態は不明です。


受診する例は重症・難治例が多く、
当院では障害年金を受けている患者は15人になりました。

一、  二年毎の更新ですが、改善した例はほとんどありません。


更に休学・退学、別居・離婚、休職・退職・転職など不幸な転帰例は数多です。

社会経済的環境の劣化で生活保護を受ける例も増えてきました。


医療費ばかりでなく何らかの対策で生活費もかさみます。

勤労者に限ってみても、明らかに労災と思えるケースでも認定されたのは
わずかで、
良くて傷病手当金をもらってお払い箱です。


患者にとって理不尽なことであり、
だれしもが予想もしていなかった病気です。

まさに「新しい公害」と言えるでしょう。


これらは社会的な損失であり、CSの予防や治療、支援などに関して、
もはや政策的な対応が必要な段階にあると思います。