プジョー3008 GT BlueHDi(FF/6AT)
ブレークの予感 2017.09.19 試乗記 プジョーの新時代を感じさせるミドルクラスSUVの「3008」。そのラインナップに遅れて加わった2リッター直4ディーゼルエンジン搭載モデル「3008 GT BlueHDi」のデリバリーが始まった。より力強く、余裕ある走行性能を持つ“本命グレード”は、ブレークの予感に満ちていた。本命視されていたディーゼル3008
小さなステアリングホイールの上部リム越しにメーターを眺めるインストゥルメントパネルの配置にはどうも馴染(なじ)めないと言ってきた“守旧派”の私としては、宗旨替えしたようでなんだか後ろめたいが、2リッターディーゼルターボを搭載したこの3008ではほとんど気にならなかった。慣れてきたというよりも、思い通りに気持ち良く走るので、計器類を意識する必要がないからだろう。反時計回りで見やすいとはいえないタコメーターも含めて、失礼ながら最初から当てにしなければいら立つこともないし、気を散らされることも少ないというわけだ。素っ気なくてビジネスライクなかつてのプジョーのダッシュボードに親しんできた身にとって、先進的でクールなデジタル仕立ての最新プジョーはまさしく隔世の感がある。すごいなとは思うのだが、それでも各種インフォテインメント機能が本当に必要かというと、やはり疑問である。それに小径ステアリングホイールはラフな操作を助長するのではないかという心配も残る。軽くて小さいからといってスパッと大きく切り込むようなステアリング操作は、せっかくのプジョーの美点を台無しにしてしまうからだ。
それはともかく、この春に導入されたプジョーの新世代「4桁ナンバー」SUVである3008は、当初4気筒1.6リッターのガソリン直噴ターボに6ATを搭載するモデルのみだったが、遅れてデリバリーが始まった3008シリーズのトップグレードが「GT BlueHDi」。すでに定評ある2リッターディーゼルターボを搭載することから、より力強く余裕ある走行性能を持つとして本命視されていたグレードだ。ガソリンの「GTライン」との差はパワートレインのみといっていいが、価格はGTラインの396万円に対して426万円。ちなみに最もベーシックな「3008アリュール」は354万円だ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
ストレスフリーのHDi
1.6リッターガソリン直噴ターボ(165ps/6000rpm、240Nm/1400-3500rpm)でも実用上は不足はないとはいえ、180ps(133kW)/3750rpmと400Nm/2000rpmを生み出す2リッター直噴ディーゼルターボの力強さは格別で、とりわけ実際の路上で多用する低中回転域での扱いやすさは、互いのスペックを見るだけで容易に想像できる。前述のように、高速道路でも頑張って回している感覚なしにスイスイ必要なだけの加速が手に入る。シフトパドルに指を伸ばさずとも、右足の踏み方ひとつでスピードコントロールが容易だという点があらためて魅力的。アイシン製のトルコン6ATとの組み合わせのおかげで、高いギアを保ったままじんわり滑らかな息の長い加速もできる。忙(せわ)しなく変速するDCTとダウンサイジングユニットというパワートレインが目に付く昨今、太いトルクを自在に扱えるATは上質感と逞(たくま)しさを感じさせるのだ。
GT BlueHDiはアリュールと比べて車重は150kgも重いが(1610kg)、骨太なトルクの力強さはそのハンディを補って余りあるうえに、振動やノイズの面でも全体的に洗練されている。たとえばスペックが同等の「マツダCX-5」の2.2リッターディーゼルターボ(同じぐらいの車重だ)と比べてすっきりスムーズに回るし、乗り心地や軽快なハンドリングでも上回っているといえるだろう。
依然として良識派
このGT BlueHDiはパワートレイン以外の面でも、なぜか以前に試乗会で試した車よりずっと好印象だった。タイヤサイズも同じ、足まわりにも違いはないはずだが、ガソリンモデルでは不整路で時折感じたブルンというラフな振動が消え、すっきり滑らかな乗り心地を備えていた。いまさらではあるが、背が高いSUVはハンドリングや乗り心地などボディーダイナミクスのコントロールについてはそもそも不利であることはご存じの通り。これだけ猛威を振るっている現在でも、しなやかでフラットな乗り心地を備えるSUVは数えるぐらいしかないのが正直なところ。見た目は確かにカッコいいが、大きく重いタイヤを完璧に抑えることはできず、ちょっと欲張りすぎという感覚が拭えない車が多いのだ。
それに対して225/55R18サイズが標準となる3008 HDiは、特に凝った足まわり(形式はマクファーソンストラットにトーションビームだ)や可変ダンパーなどを備えているわけでもないのに、粗野な挙動を見せない。サスペンションがしっかり適切に仕事をして、姿勢変化を抑えている感覚だ。その代わりに取り立てて俊敏にスパスパッと向きを変えるとはいえないが、コーナリング時の操作に対する挙動変化は漸進的で、リズム感もちょうどいい。おかげで不必要な疲労感を覚えることもなく、快適にどこまでも走っていけると思わせる。この穏当で良識あるグランドツーリング能力こそ、フランス車らしさの核心ではないかと思う。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
あれもこれも、ちょうどいい
3008の全長×全幅×全高は4450×1860×1630mmでホイールベースは2675mm。全長やホイールベースを見るとBMWの「X1」や「スバルXV」などと同レベルで、日本ではコンパクトというよりミドルクラスとしてちょうどいいサイズではないだろうか。もちろん、日本の環境を考えると全幅がやや広く、立体式駐車場には入らない車高のために都市部での使い勝手には多少影響するだろうが、見た目のスタイルに凝ったせいで我慢しなければならない部分は見当たらない。前後席の余裕はもちろん、ラゲッジスペースも十分に広く、さらにフロアボードは2段階に高さを変えられるうえに、ラゲッジスペースの床下にはスペースセイバーのスペアタイヤが収められている。昨今はSUVでもパンク修理キットの装備で済ませる車が珍しくないが、本格的なオフロードに踏み入れることはないとしても、スペアがちゃんと積まれていると何となく安心感が違う。このあたりは4WDでない代わりに、スペースを少しも無駄にしていないという証拠である。
現代的でシャープなデザインを身にまといながらも、実用性をなおざりにしないという点で3008 HDiはフランス車の伝統に忠実といえる。スルスルと伸びていく加速感のように、息の長いヒット作になりそうな予感がする。
(文=高平高輝/写真=小河原認/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
プジョー3008 GT BlueHDi
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4450×1860×1630mm
ホイールベース:2675mm
車重:1640kg ※パノラミックサンルーフ装着車の数値
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:180ps(133kW)/3750rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2000rpm
タイヤ:(前)225/55R18 98V M+S/(後)225/55R18 98V M+S(コンチネンタル・コンチクロスコンタクトLX2)
燃費:18.7km/リッター(JC08モード)
価格:426万円/テスト車=469万9980円
オプション装備:パールペイント<ボディーカラー:アルティメット・レッド&ブラックダイヤモンドルーフ>(8万1000円)/パノラミックサンルーフ(15万円)/NEW3008タッチスクリーン専用カーナビ(19万8720円)/ETC(1万0260円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1022km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:264.9km
使用燃料:19.2リッター(軽油)
参考燃費:13.8km/リッター(満タン法)/14.4km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
-
ロータス・エメヤR(4WD)【試乗記】 2025.3.18 最高出力900PSオーバーのハイパフォーマンスBEV(電気自動車)「ロータス・エメヤR」に試乗。グローバルなラグジュアリースポーツのブランドへと脱皮を図るロータスの意欲作は、ライバルに勝るとも劣らない、当代屈指のハイパーGTに仕上がっていた。
-
スズキ・ワゴンRスマイル ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.3.17 「スズキ・ワゴンRスマイル」が装いも新たに登場。ご覧のとおりフロントデザインが見事なスマイルフェイスに変わっているが、安全装備類の進化に加えて、なんと足まわりのセッティングにも変更を受けている。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりを報告する。
-
ルノー・カングー/フォルクスワーゲン・ティグアン/ジープ・アベンジャー【試乗記】 2025.3.16 「ルノー・カングー」「フォルクスワーゲン・ティグアン」「ジープ・アベンジャー」をまとめてドライブ。何の脈絡もないようだが、みな欧州仕込みのごく普通のクルマである。それぞれの乗り味や個性、使い勝手などをリポートする。
-
ボルボEX30ウルトラ シングルモーター エクステンデッドレンジ(RWD)【試乗記】 2025.3.15 ボルボの新世代を代表するエントリー電気自動車(BEV)「EX30」に、冬の新潟・妙高高原で試乗。注目したのは、果たしてリアにモーターを積む後輪駆動のBEVで安心・安全な冬道ドライブが行えるのかという点である。刻一刻と表情を変える雪道での印象を報告する。
-
フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス(4WD/7AT)【試乗記】 2025.3.14 最高出力333PSのパワーをフルタイム4WDで御す豪速ハッチバック「フォルクスワーゲン・ゴルフR」に試乗! かつてなら脳内麻薬が飛び散るような体験だったのだが……令和の今、テスターである清水草一氏が抱いた感想は、まったくもって異なるものだった。
-
NEW
日産NV200バネットMYROOM(4WD/4AT)【試乗記】
2025.3.20試乗記日産の車中泊シリーズ第2弾の「NV200バネットMYROOM(マイルーム)」が登場。前席の背面から後ろはその名のとおりのMYROOM、すなわち寝るなり休むなり自由に過ごせる空間が広がっている。ロングドライブでつかの間のオーナー気分を味わってみた。 -
NEW
レクサスがポルシェ・アウディらとタッグ 急速充電網の提携で何が変わる?
2025.3.20デイリーコラムレクサスがポルシェ・アウディ・フォルクスワーゲンの急速充電ネットワーク「Premium Charging Alliance」と提携し、2025年7月に相互サービスを開始する。日独プレミアムブランドのタッグは、BEVの普及を推進するのか。 -
NEW
第902回:浮かばれなかったイタリア版エステート 「トヨタ・クラウン エステート」発売に思う
2025.3.20マッキナ あらモーダ!「トヨタ・クラウン エステート」の発表で、にわかに注目を集めているエステートという車型。クラウンが生粋のエステートかはさて置き、この車型はいかにして誕生し、どんな扱いを受けてきたのか。コラムニストの大矢アキオが、在住するイタリアの例を語る。 -
NEW
フォルクスワーゲン・パサートeTSIエレガンス(後編)
2025.3.20あの多田哲哉の自動車放談車両開発のプロである多田哲哉さんが、フルモデルチェンジした「フォルクスワーゲン・パサート」に試乗。プロダクトの特徴のみならず、それを手がけるメーカーの置かれた現状についても熱く語る。 -
RAYS VOLK RACINGの最旬モデルに触れる
2025.3.19最高峰技術の結晶 レイズが鍛えた高性能ホイールの世界<AD>世界のクルマ好きから支持される、レイズの鍛造ホイールブランド「VOLK RACING(ボルクレーシング)」。なかでも人気の「TE37」「G025」と、その魅力がさらに広がる最新ラインナップについてリポートする。 -
「ロックスター」「バディ」「M55」が連続ヒット 人々がミツオカに惹かれるようになったのはなぜか?
2025.3.19デイリーコラム「ロックスター」「バディ」「M55」とミツオカの勢いが止まらない。かつてはどちらかといえばニッチでマニアックな存在だったはずだが、こうも人々に愛されるようになったことにはどんな理由があるのだろうか。